冷やし京子は如何ですか? -4 | 妄想★village跡地

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いつもお世話になっている『リク魔人の妄想宝物庫 』さんからお預かりした罠です。

1.5周年のお祝いと、頂いていたリクエストが上手くこなせないお詫びを兼ねてのドボンです。



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(神様なんて、いないんだな…)


テレビ局に入って、タレントクロークに向かうまでの道。

その少し先に、どぎついピンクのつなぎを着た背中が見えた。

見間違えるはずなんてない。

遠くても目に刺さるピンクのつなぎを着た、栗色の髪の少女なんて…。

今のところ一人しかいない。

誰だかわかった途端、社は無意識に己の体を抱きしめた。

知らず知らず、絶望のため息が漏れた。


「………」


すっと細くなった蓮の瞳は、獲物を狙う猛獣のそれだ。


(いやーーっ!! キョーコちゃん逃げて!!)


まさか声を出すわけにもいかず、社はそう心の中で叫んだ。

けれどそんな声は届くことはなく…。

優雅にだけれど、何時もより大きな歩幅でピンクの背中を追う人気俳優。

その背中を社は必死に追った。


「やぁ、最上さん。ラブミー部の仕事?」


他人にはわからないだろうが、キョーコと社にはわかった。

蓮が闇の住人と化していることに…。


「つ、つ、ツルガサン…」


ぎぎぎぎっと、動きの悪い玩具のように首を回したキョーコ。

その顔は引きつっていた。


「おはよう」


無駄にきらきらと笑顔を振りまきながら、一歩後ずさったキョーコとの距離を詰める。


「お、おはようございます…」


怒りの原因が分からないキョーコは、ぶるぶると震えながらもきちんと挨拶を返した。


「今日はここで仕事?」


「は、はいっ!! この書類を届けて…、回収するのがお仕事です」


きっちりと腕に抱いていた大判の封筒を、見せてくれた。

企画部宛のそれは、事前アンケートか何かなのだろう。


「そっか。俺と似たようなものだね」


「撮影じゃないんですか?」


「来月から撮影に入るドラマの、打ち合わせなんだ。それが終わったら、事務所に顔を出すんだ。どうせなら一緒に行く?」


時間が合えば、という事なのだろうが…。

その笑顔は、断ることを許してくれなさそうだった。

逆らう事を許されぬまま、キョーコは頷いたのだった。

蓮が打合せしている間、キョーコはテレビ局のラウンジで待つことにした。

届けた書類は、チェックに時間がかかるらしく…。

あと1時間ほどの後に、取りに来てくれと言われている。


「何をあんなに怒ってるのかしら…?」


キョーコには心当たりがない。

あのCMの公開は、明日からと聞いているので見たなんて思いもよらないのだ。


「……何か、あったかなぁ…」


うんうんうなっている間に、書類を取りに来てくれと指定された時間になった。

蓮はまだ姿を見せないし、電話をかけるわけにもいかない。

急いで戻ってこようと決めて、企画部まで走ったのだった。


「はいこれ。椹さんに渡してくれ」


渡した時より、分厚くなった封筒を差し出されて…。

キョーコはそれを受け取って、元のラウンジに腰を落とした。

蓮の気配はなく、まだ時間もありそうだと紅茶を注文した。

そして、この局の番組がずっとかかっている、テレビに視線を移す。

今はお昼のニュースの時間帯だ。

真面目なニュースが多く、もう少し時間が進めば情報番組的なものがかかる時間になる。

天気予報が終わり、次の番組の予告が流れ出す。

最新デートスポットや、簡単レシピ。

芸能情報など…。

奥様向けの、バラエティ要素が多いそれ。

その予告の一コマ。

それを見た途端、キョーコは口に含んでいた紅茶を吹き出してしまった。


【今話題の、CM第二弾。メイキング映像を入手!!】


そんな文字の向こうに、透けたTシャツを纏った自分が写っていたのだ。


「え? 何で!? 明日からじゃないの!?」


その注目度の高さ故に、一足先に公開されたことなどキョーコは分からない。


「あ!! きっとこれだわ…。これの事なんだわ…」


闇の帝王が君臨しているのも、無駄にキラキラの笑顔が飛んでくるのも。


「に、逃げよう!!」


何か対策を練らないと、彼の前に立つことなんてできない。

そう判断し、ラウンジを後にしようとしたのに…。


「どこに行くの?」


ひょいっと摘まれたのは、襟首。

まるで猫の子のように、其処を摘まれただけで動けなくなってしまった。


「イエ…。書類を取りに行こうかなぁって…」


「その腕にあるのは、違うの?」


声は穏やかなのに、振り返る事が出来ない。


「そうでした…」


「じゃぁ、行こうか?」


摘まれた襟首は解放され、一瞬のすきを突いて逃げ出そうとも試みたが…。

直ぐに肩を抱かれ、それも叶わなかった。


「…そんなに焦らなくても大丈夫だよ?」


「…ソウデスネ…」


実ににこやかな笑顔で、車に連行されたのだった。

車内は実に重い沈黙に満ちていて…。

キョーコも社も、居た堪れなさを抱いて蓮の運転に身を任せていた。


「……ねぇ…」


「ハイ!!」


沈黙を破ったのは、蓮。

冴えた声で、キョーコに質問を投げてくる。


「『冷やし京子』って何?」


ずばっと切り込まれたそれに、ぴきんっと固まる。


「………キャッチコピー…と言いますか…。何と言いますか…」


「ふぅぅぅん…。抽選で当たるのも、『冷やし京子』なんだよね…」


良くご存じでと良いたいが、そんな事をいったら切られてしまいそうだ。


「そう、デス…」


「何が入ってるの?」


「夏を快適に過ごす、グッズです…。私が選んだ…」


「そうなんだ…」


何でそんな事を聞くのか、わからない。


「サンプルが事務所に届いてるので、ご覧になりますか?」


少しだけ緩んだ温度に、キョーコはそう漏らした。

いわゆる『福袋』に当たるそれ。

中は雑多に雑貨が詰め合わさっている。


「うん。気になってたんだよね」


ちょっとだけ緩んだ気配に、社もほっと安堵の吐息を漏らしたのだ。

車は滑る様に事務所に入り、三人そろって椹の元へ向かう。

キョーコは書類を渡し、蓮は次の仕事に関する報告をするため。

社は新たな依頼を確認するために。


「もう少しかかりそうだから、先にいててくれ」


芸能界一忙しい男である蓮の所に舞い込む仕事は、沢山ある。

社はそれを選別し、振り分ける。

まだまだかかりそうなので、蓮とキョーコにそう声をかけた。


「わかりました。じゃぁ、ラブミー部の部室にいますので」


サンプルもそこにあるというので、蓮とキョーコは先に向かったのだ。




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