いつもお世話になっている『リク魔人の妄想宝物庫 』さんからお預かりした罠です。
1.5周年のお祝いと、頂いていたリクエストが上手くこなせないお詫びを兼ねてのドボンです。
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キョーコの新CMの話を聞いてから、数日。
どうにかこうにか捩じりこめないかと、蓮は足掻いていたが様々な理由で相手役に選ばれることはなかった。
(……くそ…)
誰を恨んでいいのか…。
誰に怒りをぶつければいいのか…。
分からないまま、そのニュースを迎えた。
第一弾が大反響だったという事もあり、第二弾のメイキング映像がニュース番組等で取り上げられているのだ。
「こんなやつが…」
朝、仕事に向かう準備中に、目と耳に飛び込んできたそれ。
思わず動きを止めて、見入ってしまった。
キョーコは衣裳らしい白のTシャツに、デニムのホットパンツを身に纏い、ほほ笑んでいた。
確かに、第一弾の時より露出も少ないし、健康的な感じと言えばそう見えなくもない。
隣に立つ男は、ちょっと前にブレイクを果たした芸人だ。
ぽっちゃりとした体型と、人生で一度も彼女が出来たことがないというのが自慢だったはずだ。
「…………」
冴えない恰好をして、キョーコと並び撮影について語る男に苛立ちのみが募る。
理不尽だと思うし、こんなことで腹を立てるのはおかしい。
けれど…
「……どうして俺じゃ駄目だったんだ?」
彼よりいい演技をする自信がある。
彼よりキョーコを愛している自信もある。
「どうして…」
何で自分じゃだめだったのかと…、少し自信喪失しそうになった。
その間も、番組は進行していて…。
出来上がったばかりだという、CMが流れ出した。
炎天下の中、リュックを背負い汗をだらだら流す男。
暑いと呟き、空を仰ぎながら寛げた胸元に風を送る。
するとその背後から、真っ白な腕が伸びてきて…。
『暑いよね。冷やし京子、如何ですか?』
そんな囁き声と共に、腕が男の首に回り、肩口にキョーコの顔が見えた。
キョーコのその髪からは雫が滴っていた。
少し引いた絵に切り替わり、キョーコがリュック越しに男に抱き着いているのが画面いっぱいに写りこむ。
その姿を見て…。
蓮の奥歯が鳴る。
「水着の方が…、ずっとよかった…」
噛み締めた奥歯の隙間から、そんなうめき声が漏れる。
キョーコの恰好は、確かにTシャツ・ホットパンツ。
だけれど…。
「どうして濡れてるんだ!?」
白のTシャツは濡れて、所々肌に張り付いている。
その透けている感じが、水着の時より如何わしく見えてしまうのは蓮だけではないはずだ。
そんな恰好で抱き着くなんて…。
「恨みますよ…」
これを撮った監督にも、キョーコを起用した会社にも。
呪詛めいた声を漏らし、蓮は重い足を動かして仕事に向かったのだった。
車を動かすのは蓮。
何時ものように社を拾い、現場に向かって車を走らせる。
その車内は何時になく重い沈黙が満ちている。
蓮が見たものは、社も見ていた。
(……もう、からかったりできない…)
あんなに魅惑的な格好で、CMに出るなんて社も知らなかった。
絵としては綺麗だったし、完成度も前作に劣らず高かった。
「……」
きゅっと切られたハンドルが、何時になく乱暴な気がするのは社の気のせいではないはずだ。
(もし…、キョーコちゃんに会ったら…)
そう思うと、社の血の気は益々引いて行った。
(せめて、せめて!! 今日だけは、会いませんように!!)
そう願わずにはいられなかった。
今会えば、闇の住人になった蓮に、キョーコが酷い目にあわされるかもしれない。
(や、むしろ…。俺が居た方が、酷いことにならないのか?)
くるくると回る思考。
どうすれば被害が一番少ないのかと、思考を巡らしていると
「唯一の救いは、リュック越しだったことですね…」
蓮が苦虫を100匹位噛みつぶして、飲み込んだ様な声で呻いた。
「う、うん。そうだな!! 腕だけだもんな。触ってたのは!!」
新商品は、水を含ませると冷気を発するジェルが入ったアイテムだ。
そのイメージという事で、キョーコは濡れていたのだった。
「……あんな恰好を、世界の男が見たなんて…。許せませんけどね」
ぎゅんっと軋んだタイヤ。
蓮の呻く声と相まって、社の方が泣きたいくらいだ。
「……ほんとうに…どうしてくれよう…」
呻く声はもう社に向けたものではない。
今ここにいない、キョーコに向けたものだ。
(うわぁぁぁん…!! キョーコちゃん!! 逃げて!!)
こうなった蓮を、鎮める手段を社は知らなかった。
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水着よりセクシーだと思うのです。
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