『「リク魔人」の妄想宝物庫
』のseiさんよりお預かりした、罠お題です。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。
魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~
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ひんやりと冷たい空気が、キョーコの体を切り裂いて行く。
夜遅い時間、ひたすら走って。
走って。
走って。
だるま屋を目指す。
「…また怒られちゃうかな…。…もう、何も言われないか…」
潜在能力の限りを尽くして、たどり着いただるま屋。
暖簾も仕舞われて、明かりの落ちたそこに滑り込んだところで力尽きてしまった。
「…つぎのこい、見つけるんだもの…」
人気のない店内にしゃがみ込んで、膝を抱えた。
肌に纏わりつく蓮の気配。
それを振り切って、頬に残っていた涙の痕を手の甲で拭う。
「ぷれぜんと、かいにいかなきゃ…」
崩れる膝をなんとか持ち上げて、自室へつながる階段へ向かう。
よろめきながらたどり着いた其処は、小さな尚の写真と大きな蓮の写真が貼ってある。
ライバルと認めた男と、目標と決めた男。
初心を忘れないようにと、今でも貼ってあるのだ。
「はがさなきゃ…」
尚の写真はともかく、蓮の写真は剥さなければと思うが…。
中々出来ない。
未練でしかないのだけれど…。
膝立ちになり蓮と向き合って、画鋲に手をかけて…。
「っぅ…ぅ…」
引っかかっていただけの指は、するりと床に落ちた。
落ちたのは手だけではなく、涙も絨毯に沁みこんだ。
無理やり恋に落ちて、相手を利用してまで蓮の傍に居たいと思う自分が…。
惨めで、悲しい。
「ごめんなさい…」
静かに謝ったのは、蓮にか相手にか。
キョーコにはそれもわからなかった。
男性に人気のブランドショップで購入した、ネクタイ。
薄い水色に濃い紺色のストライプが入った、清潔感があって爽やかな雰囲気が相手に似合うと思ったのだ。
綺麗にラッピングしてもらったそれと、手作りしたロールケーキを手に誕生会の会場へ向かう。
今をときめくその人の誕生会には、様々な人が訪れていた。
今を時めく歌手。
著名な脚本家。
高名な俳優。
眩しく輝く人が、そこに集っていた。
「京子さん!!」
少し遅れてきた京子を見つけて、主賓である彼はわざわざ駆け寄ってきてくれた。
「遅くなってすみませんでした。お誕生日、おめでとうございます。これ…、」
持って来たプレゼントと、ロールケーキを手渡す。
煌びやかな人々が持って来たそれに比べたら、見劣りするそれ。
けれど彼は喜んで受け取ってくれた。
「嬉しいよ!! 来てくれないかと思って心配しちゃったよ。来てくれて、本当にありがとう!!」
受け取ったプレゼントをその場で開けると、ぱぁっと顔を輝かせた。
剥き出しになったネクタイを自分の喉に宛がい、また弾ける様な笑顔をキョーコにくれた。
「似合うかな?」
キョーコの見立てた通り、良く似合った。
蓮が深い夜の男だとしたら、彼は深い秋の似合う男だ。
淡く綺麗な色は、想像以上に良く似合った。
「とっても、素敵です」
贈ったキョーコまで嬉しくなって、顔が綻んだ。
「じゃぁ、今日はこれにしよう」
そういうと、今していたネクタイを取り、キョーコのプレゼントを首に巻きつけてゆく。
器用に動く指と腕。
淡いピンク色のシャツの上に、重なる『首輪』
(…そっか…。こういう、事なのね…)
蓮の言っていた意味が、キョーコの中で明確に形を取った。
喉元で揺れるネクタイ。
あまりにも目立つ、『所有』の印だ。
気にする男と気にしない男がいる、と蓮は言っていた。
彼は、気にする男だったらしい。
「一緒に乾杯してくれる?」
ネクタイを揺らしながら、キョーコの肩を抱き料理の置いてある方へ連れて行ってくれた。
失礼でない程度に、力強くエスコートされる。
手渡されたグラスには、綺麗な赤い色の液体。
「ほんとはワインで乾杯したところだけど…。未成年だからね。グレープジュースで我慢しよっか」
キョーコのグラスと彼のグラスは、同じ色。
甘くグラスを触れ合せて、祝いの言葉を改めて伝えて。
一気に飲み干す。
深い葡萄の味。
「美味しい…」
思わず零れたその言葉に、向かいにある彼の顔もほころんだ。
「ここのワインも、美味しいんだよ。来年、一緒に飲みたいな」
さり気無いその言葉の裏側にあることに気付かないほど、子供でもなかった。
「…私も…です」
彼はいい人。
優しいし、気遣いも上手だ。
(きっと、上手くいくわ…)
会話も弾んで、頂く料理もおいしくて。
初めて会う人との交流も、楽しくて。
『蓮の傍ら』から初めて飛び出したキョーコは、誰の目をも引き付ける程輝いていた。
「…今度、美味しい日本食食べに行かない?」
「いいですね」
「安いけど、美味しい所知ってるんだ」
「ぜひ、ご一緒させてください」
この時の約束が叶ったとき、週刊誌の紙面を飾り『熱愛報道』に発展するのだけれど。
今はまだ、キョーコの周りは静かだった。
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