『フェンス』 (2016) デンゼル・ワシントン監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 
2017年オスカー作品賞ノミネート作。デンゼル・ワシントン監督・主演作品。
 
映画賞の選考に納得がいかないということはままある。個人の感性には差異があり、価値観の違いもある。また選考する者の属性によることもある。アカデミー賞は最もポピュラーな映画賞だが、選考委員は映画産業従事者の団体、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の会員から選ばれている。つまり映画制作に何らかの形で携わるプロであり、いわば内輪の選考である。それは批評家とも違い、あるいは一般観客とも異なっている。だから、アカデミー賞の選考が納得いかなくても、何ら不思議はない。
 
それを理解した上でも、この作品のノミネートは納得がいかない。
 
デンゼル・ワシントン演じる主人公トロイは、11人兄弟の一人であり、親からの愛情は全く受けなかった。14歳で家出をし、盗みを行って生きていたが、その結果15年間刑務所生活を送ることになる。出所後、出会った女性と二人の子供をもうけて家庭を築いたという設定である。
 
彼の人物像は全く共感を呼ばない。暴力こそは振るわないまでも、頑固を通り越して暴君である。しかも、人種差別に対して当然怒りはあるものの、それに対して全く諦めるだけではなく、子供にもその諦めを押し付ける。次男がカレッジ・フットボールに勧誘されても、その可能性を認めるどころか、大学に行かずに仕事をしろと命ずる。しかもその理由が「白人は黒人にチャンスはくれない」というものである。
 
息子に「なぜ自分を好きになってくれない」と言われた彼の言葉が、「この世の中のどこに、父親は息子を好きにならなければいけないなんて決まりがあるんだ。俺がお前を食わせているのは、それが父親としての責任だからだ」である。
 
しかも、献身的な妻ローズ(ヴィオラ・デイヴィス)を道義的に裏切っても、何も悪びれない。
 
いかに1950年代という時代背景があるにしろ、かなりげんなりする人物像である。映画は、彼を中心に、ほとんどが家の裏庭での限られた登場人物との会話で進んでいく。退屈としか言いようがない。
 
壁を作るのは、外部の人を入れないためという人もいれば、中の人の結束を強めるためと考える人もいる。ローズの、後者の考えに基づく希望でトロイは壁を作っている。ゆえに、タイトルの『Fences』は家族の結束を象徴しているはずである。それが全くピンとこない内容になっている。
 
ラストシーンは、トロイの葬式に家族が集まるのだが、トロイの弟(戦争で脳に損傷があって、その賠償金でトロイ一家は食べている)がいつも持っている吹かないトランペットを吹いて、音にならない音が空に届くと空から明かりが差し込み、みんな驚いた顔で見上げるというもの。あまりにスピリチュアルなシーンに、宗教心が少ない人は白けてしまうのではないだろうか。少なくとも自分はそうだった。
 
作品賞のほか、主演男優賞(デンゼル・ワシントン)、助演女優賞(ヴィオラ・デイヴィス)、そして脚色賞(小説や舞台などから起こされた脚本に与えられる賞)にノミネートされた作品だが、役者の演技は文句ないとして、なぜ作品賞と脚色賞にノミネートされるべき作品かを是非教えてほしい。
 
★★★ (3/10)