2011年を振り返って | アイリッシュ・ハープ研究家、奏者、制作者、音楽教育者 寺本圭佑

アイリッシュ・ハープ研究家、奏者、制作者、音楽教育者 寺本圭佑

アイリッシュ・ハープ研究家、奏者、制作者、音楽教育者、寺本圭佑の教室やイベントについて書いています。

今年も2011年を振り返ってみたいと思います。
昨年同様、変わらぬお付き合いをして下さった皆様、また今年から新しく知り合えた皆様、いつも温かいご支援、ご協力を頂き、本当にありがとうございました。おかげさまで、なんとか無事に新しい年を迎えられそうです。

今年一年を振り返ると、東日本大震災と東京電力の原発事故しかなかったように思われます。今回の大惨事で被害にあわれた皆様には心よりお悔やみ申し上げます。大なり小なり、すべての日本人が、いやすべての人類が今回の大災害によって心に傷を負い、また苦しい過去から学び前に進もうと努力していると思います。

私が体験した2011年3月11日14時46分を振り返ると、ちょうど英国から一時帰国されていたハープ奏者が自宅に来られていて、小型ハープのレッスンをしていた時でした。久々にお越しいただいたお客さまで楽しくお話をしながら一緒にハープを弾いていたのです。突然、大きく長い揺れが起こり、まるで船の上に乗っているかのような錯覚に陥りました。それは子供のころに体験した阪神淡路大震災とはまったく異なるタイプの揺れで、最初はすぐに収まるだろうと楽観視していたのです。しかし、その後も大きな揺れが何度も起こり、これはただ事ではないとテレビをつけると、仙台の空港が波にのまれていく映像と、津波によって東北の町が破壊されていく様子が映し出されていました。今このように書いているだけでも、涙がとまらないくらい大きな心の傷を私たちは負ってしまったのです。

当然ハープレッスンどころではなく、お客様は揺れが収まった時点で帰宅されることを決められました。その時、私は彼女を引き留めるべきだったのですが、判断を誤ってしまいました。お客様が帰られた後、テレビを見ていると首都圏の公共交通機関はすべてマヒ状態で、外出先の人はその場に待機するように指示が出ていたのでした。私はこれはまずいと思い、その方に電話をしたのですが、もはや回線が通じない状態で、どうすることも出来なかったのです。その日の深夜に、彼女は無事に帰宅されたことを知り安堵しました。地震の時、妻は大倉山記念館で勤務していましたが、築年数80年近い建物なので心配しましたが、無事に友人の車で帰宅してきました。その日は大倉山の職場の同僚も共に私の家で不安な一夜を明かしました。ほとんど揺れが収まることもなく、私たちは靴を履いて横になり、玄関の扉を開けつつ、テレビのおぞましい画像を無気力に眺めていました。

翌日、いや、もはや夜が明けたとはとても思えないくらいでした。なぜなら、恐ろしい事態は何も収束していなかったからです。翌日だったのかその次の日だったのか、もうわかりません。私はテレビをつけっぱなしにしていて、事態の推移を傍観することしかできませんでした。繰り返し流されるループ映像、神経を逆なでするACのCM、ツイッター経由で回ってくるデマ情報の嵐、そして福島の原発事件・・・。あの水素爆発の映像の衝撃は生涯私の脳裏から離れることはないでしょう。確かあの映像は海外のニュースが先に報道していたことをネットで知り、しばらくしてから、テレビの映像で見ることができたのです。その日、妻は通常通り大倉山に出勤しており、私はひとりで「この世の終わり」の映像をテレビで目の当たりにしていたのです。

あんなにもひどい災害が起こったのに、生きている。でも生きた心地が全然しない。そんな状態が何カ月も続きました。もう明日原発が大爆発して、あるいは首都圏直下型地震が起こって死ぬかもしれない。とにかく、その不安から逃れたいと思った時、友人と飲みたいという強烈な願望がありました。地震の数日後、いつもの飲み友達と菊名の安居酒屋でビールを飲んだとき、初めて自分が生きている事を実感した気がします。

地震によって、予定していたシンポジウムがキャンセルになったり、海外から来日予定だったアーティストのキャンセルも相次ぎました。それでも、

「いや、地震や原発事故があっても、何もせずに足踏みをしていた一年ではない。私なりに出来る限りのことはやった」と思いたいです。

地震の直後、妻の個展が京都でありました。私はそのオープニングコンサートと、会期中に演奏しました。京都の人々と関東の人々との温度差にショックを受けた記憶があります。会期中、横浜みなとみらいのロイヤルパークホテルにオファーを頂き、ギターの山口亮志さんと御一緒させていただきました。このイベント自体も震災によって自粛モードだったのですが、ご予約いただいたみなさまの強いご希望によって実現できました。4月にはアトリエリンデンとIrish Pub field、irish Pub Dublinでもハープソロの演奏をさせて頂きました。

5月は横浜バラクライングリッシュ・ガーデンで演奏させて頂きました。これも震災によって一度キャンセルになってしまったのですが、仕切り直しで設定してくださったのです。渋谷のフォルチェでは、ブルターニュから一時帰国されたフィドルの大竹さんと、京都の松阪さんと御一緒させていただきました。また、横浜山手の外交官の家で、金属弦ハープユニットのSylva Sylvarumのコンサートを行いました。

7月にはギターの山口さんと阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンでご一緒させて頂き、ケルトノスタルジアというCDも制作しました。

7月末から8月末にかけて、IAML日本支部の助成金を受けて、ダブリンで行われたIAML国際会議に参加させて頂き、その後、スコットランド、ウェールズ、ベルファスト、コーク、キルケニー、キャスルレイ、ダブリンという旅行をしてきました。スコットランドでは金属弦ハープの名手ビル・テイラーさんのワークショップに参加させて頂き、とても楽しい時間を過ごしました。またスカイ島ではハープ製作者ウィリアム・マクドナルドさんに会ってきました。ウェールズでは5年くらい前にお世話になったサリー・ハーパー先生にご挨拶、ベルファストでは富田先生に御挨拶、キルケニーのサマースクールでは4年ぶりに旧友と親交を深めることができました。

ちょうど、アイルランドから帰国して成田に着いた瞬間京都の姉から連絡があり、祖父の訃報を聞きました。渡航前の祇園祭の時季に祖父に会いに行ったときには元気そうだったのに、とてもショックで信じられませんでした。4月に京都に来た時に祖父が入っていたホームでボランティア演奏を行いました。そのころ、祖父は私の名前も良く思い出せないような状態だったのですが、帰り際に「おい、有名になれよ」と一言いってくれたのが、今でも記憶に残っています。また7月には長年実家で飼っていたネコのたまちゃんが死んでしまって、個人的にも多くのものを失ってしまった年でした。

帰国後9月には、ギターの山口さんと京都ツアー、アトリエリンデンでの3日間のサマースクール、そして、嵐山音や、ちいさいおうち、field、567と4日間連続のライブを敢行。本当に素晴らしい演奏家でご一緒出来て楽しかったです。

10月は東京西荻窪のギャラリー彦で妻の日本画個展。ほぼ毎日2回公演でハープのミニコンサートを行い御好評頂きました。月末には聖徳大学で学生さん向けにアイリッシュ・ハープの講演をさせていただきました。

11月は山口さんとのライブと、新たに今年知り合いになったフルートの一明いづみさんとのコンサートをやりました。もともとクラシックとかジャズのフルートを演奏される方だったのですが、なんと1ヶ月ほど前にアイリッシュ・フルートを始められた方でとても素晴らしい演奏者です。また11月末には日愛協会文化研究会からオファーを頂き、江古田の日本大学で「カロランの音楽の伝承 ~国民的音楽家となるまで~」という2時間の独演会を用意して下さいました。

12月は学部時代の友人から久々にオファーを頂き、Muddy World というインストロックバンドと荻窪のベルベットサンという素敵なライブハウスでご一緒させて頂きました。その後、東京音楽大学で「アイリッシュ・ハープ研究の実践的応用―オサリヴァン編『カロラン全集』(1958)の再編について―」という学会発表、その後は、毎年恒例の「明治学院ケルティッククリスマス」を横浜と白金のキャンパスで開催しました。昨年まではチャペルで行っていたのですが、今年はアートホールで開催し、スコティッシュ・ダンスのワークショップもあって楽しんでいただけたようです。

大倉山記念館でも3回の「はじめてのアイリッシュ・ハープ」を企画し、金属弦アイリッシュ・ハープの普及活動を行いました。

また来年もアイリッシュ・ハープの演奏、研究、教育に献身してまいりますので、御支援、御協力よろしくお願いいたします。

来年は年明けの1月15日に福岡で独演会とハープソロコンサートを行います(日本ケルト協会主催)。初めての九州での講演すごく楽しみです。

3月にはスペインのハープ奏者ヴィセンテ・ラ・カメラを招いて、東京、横浜、京都で演奏会を企画しております。https://sites.google.com/site/vicentelacamera/
とても素晴らしい演奏家ですので、ぜひお越しいただけると嬉しいです。

来年の2月と3月にはJALの国内線、国際線全線で私と山口さんのCD「ケルトノスタルジア」の音源が機内の番組で流れます(国内線は2月のみ)。もしJALに乗られる機会があればチェックよろしくお願いします。

明日は恒例のアトリエリンデン年越しライブ、19時からハープソロの演奏を行います。お時間ございましたらぜひ。参加費1000円です。

それでは、皆様良いお年をお迎え下さい。

アイリッシュ・ハープ演奏・研究 寺本圭佑
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