【縄張りコラム】縄張り図の清書 1/3 | 人生竪堀

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TEAMナワバリングの不活発日誌

   このところ、描きためていた縄張り図を何枚か、立て続けに清書している。縄張り図の清書は、なかなか手間のかかる作業だ。現地で描いた図面を地形図に乗 せてみて、方位のズレなどを確認し、等高線にうまく乗るように修正をくり返しながら、まず一度、鉛筆描きの清書図を作る。そして、その上にトレーシング ペーパーを被せて、製図ペンでトレースして、最終的な清書図ができる。

 

 スキャナーやパソコンの描画ソフトをうまく使えば、この手間をもっと省けるのかもしれないが、僕は縄張り図をデジタル処理するするつもりはない。描画ソ フトでケバがうまく抜けるのかとか、ケバと等高線の組合せでデータが重くなるだろうとか、そういった技術的な問題もあるのだけれど、それだけじゃない。
 手を動かして図を清書する作業とは、実はとても知的な営みなのだ。そもそも縄張り図の清書とは、現地踏査を再体験する行為だ。実際、清書をしていると、遺構の様子や踏査の時の情景、同行した仲間たちとの会話など、次々に思い出す。しかも、冷静に。

 

 現地を踏査するときは、遺構を目の当たりにした感動や、斜面の上り下りをくり返した結果などで、心臓がバクバクしていることが多い。テンパッた状態で城 を見ていることになる。けれども、机上で製図ペンを使う作業は平常心を要求されるから、踏査を冷静に追体験することになる。
 それに、図を清書する際には線の太さや表現法などを統一しなければならないから、その過程で図に描かれた縄張りを点検してゆくことになる。この部分は遺 構として「生き」なのか、後世の改変が加わっていると見るべきなのか。あるいは、曲輪と曲輪がどういう経路で連絡していたのかといった問題を、どうしても 考えることになる。

 

 最近、清書していて楽しかったのは、埼玉県の小倉城。この城は、以前に清書した図をずっと使っていたのだが、自分で納得できない箇所がいくつかあった。 そこで、再踏査の時に確認したメモや、調査報告書に載っていた実測図などを参照しながら修正を加え、清書し直した。そうして描きあがった図を見ると、小倉 城の縄張りって、やっぱりカッコイイ(笑)。そしてそれ以上に、清書しながら多くの事を考え、この城の縄張りを再検討することができた。論文一本、書ける くらいの思考量。
 そんなわけで、たとえパソコンを使った方が図がきれいに仕上がるのだとしても、僕は「図の清書」という、ステキに知的で楽しい作業を手放したくはないのである。
(つづく)

 

西股総生

 

▲小倉城縄張り図。