「アクト・オブ・キリング」を観た。 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。






アクト・オブ・キリング
4月14日(月) 16:15~ シアター・イメージ・フォーラム




好き度: ★★★★★ /5点


ふつうのおっさんが何百人も虐殺しちゃう殺人者になっちゃう怖さ



アクト・オブ・キリング、シアターイメージフォーラムで観てきました。平日のお昼、授業が終わってから向かったのですが席は満席でした。柳下毅一郎さんが2013年のベストにしていたり、町山さんが2014年暫定ベスト!って言っていたり、宇多丸さんが推薦コメントを寄せていたりでものすごく期待して行ったんですが、想像をはるかに超えて恐ろしい映画でした…。

1960年代にインドネシアで行われた大量虐殺を加害者側から描いたドキュメンタリー映画で、その大虐殺の実行者たちは今でも国民的英雄として暮らしているんですよね。そんな彼らに、「もういっかい虐殺を演じて映画にしてみませんか?」ともちかけ、その虐殺の様子を映画にとっていく過程を追ったドキュメンタリー。これがものすごく恐ろしくおぞましい。


「こうやって共産主義者を殺したんだよ~ワッハハハハハ~」




殺人を演じる側の殺人者たちは、製作陣はこっちの見方だと思っているので、意気揚々と殺人の方法やその時の様子をペラペラ喋っていくんですよ。直接的な殺人シーンやバイオレンスシーンは出てこないんだけどいわゆる脳内再生でものすごい地獄絵図が浮かび上がってくるんですよね。それをほんとに楽しそうに演じる殺人者たち、すごいブラックコメディに見えてくるのです。ものすごく苦い笑い!


「当時の彼女の父親もぶっ殺したよ~覚えてる?わっははははっっはははは~」 




宇多丸さんがよく殺人映画を評論するときに言う「とんでもない連続殺人犯もふつうにドンキホーテにいるよ!」っていうフレーズがものすごく浮かんできました。この人たちは何人も殺しまくった殺人マシーンだったわけですが、今もふつうにデパートで買い物はするし、カフェでコーヒーは飲むし、孫とたわむれたり、今もふつうに生活していて、しかも英雄扱いをされていている金持ちになっている。これ、ものすごく怖いですよ。ふつうにいるんだもん。今も。


「みてろ~今からおじいちゃんが首切られるシーンだよ~わっはっははははっははは~」




怖かったのが、新聞社の件。メディアの情報操作の恐ろしさを思い知ったというか、一番凶悪なのはメディアじゃないか!と、「尋問」をしていたときのことを楽しそうにかたる新聞屋の主人がとても怖かった。

この主人公のおじいちゃんもふつうのおじいちゃんなわけですよたぶん。時代の流れというか、そういう操作によって「殺人者になってしまった人」なんですよねたぶん。そんなふつうのおじちゃんが何人も人を殺しまくる人間に変わってしまうその流れみたいなものの恐ろしさというか、関東大震災時の朝鮮人虐殺などにもつなっがてくる、ものすごくおぞましいことだけどこれは他人事と言えないかもしれないなぁとか思いましたよ。


まっさきに浮かんだ本。

九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響/ころから
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「私を殺して天国に導いてくれてありがとうございます。あなたに1000回の感謝を捧げます。」



ここのラストのメダルをかけるシーンは、ほんとにドン引きました。ほんと口あんぐりというか、こんなことがあっていいはずがないと。でも、この辺で主人公のアンワルさんは気づき出してるんですよね、自分はとんでもないことをしてしまったんじゃないかと。そんな感情を振り払うかのような場面でした。





自分がやった虐殺は間違ったことだったんじゃないか、と気づいてくる過程もこれもまた残酷だった。そしてそれが決定的となってアンワルさんも、そして見てる観客にもグッサリ胸に刺さってしまうラストシーン。はじめの首絞め再現との見事な対比と、気づいてしまった殺人者はどうなるのかというのがずーっと長回しで描かれるラストはとてつもなく怖かったし、鳥肌が立ちましたよ…  でも、こうやって気づいてしまったということ、そしてあそこでの止まらない嘔吐と嗚咽でもわかるんですが、やっぱりこの人はひとりのふつうの人間だったんですよね。巨大な流れに流されていたんだろうなぁと、だからこそそういう集団心理みたいなものの怖さも見えてきました。


イメフォ、連日満席みたいですが、ぜったいに一見の価値アリだと思いますよ!心の芯から震えました。。



おわり。




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スタッフ


監督

    ジョシュア・オッペンハイマー 

共同監督

    クリスティン・シン

製作

    ジョシュア・オッペンハイマー

    シーネ・ビュレ・ソーレンセン

製作総指揮

    エロール・モリス

    ベルナー・ヘルツォーク

    アンドレ・シンガー

    ヨラム・テン・ブリンク

    トシュタイン・グルーテ

    ビャッテ・モルネル・トゥバイト

撮影

    カルロス・マリアノ・アランゴ・デ・モンティス

    ラース・スクリー

編集

    ニルス・ペー・アンデルセン

    ヤーヌス・ビレスコウ・ヤンセン

    マリコ・モンペティ

    チャーロッテ・ムンク・ベンツン

    アリアナ・ファチョ=ビラス・メストル

音楽

    エーリン・オイエン・ビステル


キャスト


    アンワル・コンゴ

    ヘルマン・コト

    アディ・ズルカドリ

    イブラヒム・シニク



作品データ

原題 The Act of Killing

製作年 2012年

製作国 デンマーク・ノルウェー・イギリス合作

配給 トランスフォーマー

上映時間 121分