映画館で儲けた祖父は、
隣町にもう一軒、映画館を建てることにしました。
その白羽の矢が当たったのが僕の父と母でした。
僕の父は、もともと因島の近くの島で生まれましたが、
3歳のときに大阪の祖母に預けられ、そこで成人しました。
高校卒業後、芝浦電機(現、東芝)の社員になりましたが、
戦争が始まったので志願して海軍に入隊しました。
軍隊で零戦のパイロットとなり少尉に昇進しましたが、
教官に任命されたため戦地に赴くことはありませんでした。
終戦後、厚木の飛行場で、
マッカーサーがタラップから降りて来るのを、
遠くから見ていたそうです。
6人兄弟の長男だったため、
会社勤めでは家族を養えないと思い、
郷里に戻って商売を始めました。
尾道で色々な品物を仕入れ島に持ち込んで売る。
そうして得た資金をもとにして因島で豆腐屋を開店しました。
映画が好きで近所の映画館に足を運ぶようになります。
そこで母と知り合って結婚します。
しかし豆腐屋を家族で経営していた父が、
映画館も平行して経営するというのはちょっと無理な話です。
そこで祖父が提示した条件、
それは映画館の上映時間を夜だけにするというものでした。
当時、若くて体力に自信もあった父は、
けっきょく祖父の提案を引き受けてしまい、
朝5時から昼までは豆腐屋、夜6時からは映画館という、
ハードな生活を送ることになります。