俊太郎編4 | ぶーさーのつやつやブログ

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艶が2次小説と薄桜鬼ドラマCD風小説かいてます。

俊太郎さんが選んだお店は渋谷の喧騒から少しだけ離れた場所にあった。

カウンター席が6席、4人用のテーブル席2つというこじんまりとしているけど、綺麗なイタリアンのお店だった。

カウンターの中にいる優しそうなマスターと、その奥さんらしき女性の2人だけできりもりしているようだ。


「ここ、よく来るんですか?」

俊太郎さんに注文をお任せし、彼がオーダーを済ませた後に聞いてみた。

「そうやね、慶喜はんやお店の子らと何度か来た事がある程度やけどね」


へぇ~と返事をしながら、恥ずかしくて俊太郎さんを直視できない私は店内を見回した。


(き、緊張するな・・・)


俊太郎さんは、テーブルに肘をついて観察する用にこちらを見つめている。

落ち着かないのを悟られないように平然を装ってみたけれど、ちゃんと笑顔を作れているだろうか・・・。

そんな気持ちで俊太郎さんを見返すと、想像もしていなかった質問が彼の口から飛び出した。


「あんさんは今、お付き合いしてる人、いてはる?」
「えっ!?」

ドキリとした。
どんどんと心拍数が上がって、頬が火照っていくのがわかる。

「あ、の・・・そ、それは一体」

どういう意味?と言いかけると

「もし、ええ人が居るんやったら、あんまり遅うまで引きとめたらあかんかと思て」

すっと目を細めて笑う俊太郎さんに一瞬見惚れてしまって

「・・・ざ、残念ながら・・・今は独りです」

ありきたりの返事をして、私は苦笑した。


「ふぅん・・・そうか・・・」

頬づえでこちらを見たまま、何か考えるように言って腕時計に視線を落とす。

「・・・ほんなら、ゆっくり食事に付き合うてもらいまひょ」

また視線を正面に戻して、色気を含んだ声で言った。




それから俊太郎さんお勧めの前菜、パスタ、メイン料理を堪能して、お腹が充分に満たされた頃には22時を過ぎていた。


「デザートも本当に美味しいんよ」

俊太郎さんが言う通り、出されたものは全部美味しくて、今まで食べて来たイタリア料理はいったい何だったんだ?と思ってしまうほどだった。

「二人とも歯医者帰りなんやから、甘いもの食べ過ぎてはあかんのやけどね」

悪戯っぽく笑って、テーブルに運ばれてきたデザートをフォークでつついた。

「・・・そうですね」

そう返事はしたものの、彼の細く長い指先で持ったフォークが口元に運ばれる度に、目で追ってしまう。

俊太郎さんの些細な動きひとつひとつが華麗で、私の目を捉えて離さなかった。


「あ、ちょっと動かんといて」

すると俊太郎さんは突然テーブルに手をついて立ち上がり、こちらを凝視する。

「へっ?」

私の眼はまだ正面の口元を見たままだったから、彼の指先が私の唇に近づいてきた事に気づきもしなかった。

そっと何かが唇の端に触れた、とわかった直後

「ふふっ、取れました」

微笑んで再び椅子に腰を落とした俊太郎さんは、指先で私の口端から拭い取ったクリームをぺろりと舐め取った。


「っっっ!!!!!!!!!!!」

私が真っ赤になって俯くと、おいし、と呟いた俊太郎さんの声が小さく聞こえて、尚更しばらく顔を上げる事が出来なくなってしまったのだった・・・。






次の日曜日は俊太郎さんが休みの日だと言う事で、彼の家まで借りていたシャツを返しに行くと約束をして、渋谷駅で別れた。

俊太郎さんは私が背を向けるまでその場を動こうとしなかったので、仕方なしに私は駅の構内へと歩き出した。
彼の視線が背中に向けられていると思うだけで、また自然と顔が熱を持ち始めてしまう。


帰りの山手線の中でもさっきの「クリームペロリ事件」を思い出して、独りでニヤけてしまい、向いに座った女子高生がこちらを見て笑った気がしたけれど、そんな事もお構いなしに今あった出来ごとを花ちゃんへのメールに書き込んだ。

『なんやの、その羨ましい偶然の連続は!』から始まった花ちゃんのメールを見て、また勝手に頬が緩んでしまった。

そうこうしているうちに最寄駅に到着し、私は帰路についた。







―――そして、日曜日。


一番お気に入りの洋服で、再びクリーニングに出しておいたシャツと手土産を持って俊太郎さんのマンションを訪れた。

1年前とは少し離れた場所にあるマンションは新築なのか、エントランスもエレベーターもまだ新しくとても綺麗だった。

エレベーターの中の鏡で身だしなみをチェックして、俊太郎さんの部屋があるフロアで降りる。

玄関のインターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。


「いらっしゃい」

玄関にはあの時はまだ子猫だった真っ白な猫「ミルク」を方腕の中に抱いて、にっこりとほほ笑んでいる俊太郎さんが立っていた。


「こ、こんにちは」
「迷いまへんでしたか?」
「はい、目印もあったので方向音痴の私でも大丈夫でした」
「ふふっ、どうぞ」

そう言って俊太郎さんが足元に置いてくれた来客用のスリッパに足を通し、彼の後に続いて部屋の中へ。

「お邪魔します」

部屋の中はやはり俊太郎さんの香が充満していた。
あの時と同じ、ふわりと優しく包み込むようなお香の匂い。

まるで俊太郎さんみたいだな。

瞬時にそう思った。


「どうぞ、座って」

私は促す声にはっとして、

「あ、これ。シャツです・・・有難うございました!それと、甘いものを買って来ましたので、どうぞ」

クリーニングのビニール袋とケーキの入った小さな箱を手渡す。

「おおきに、なんや逆に気ぃ遣わせてしもて・・・すんまへん」

私から受け取って、俊太郎さんは小さく会釈をした。

「せっかくお茶も淹れましたし、これ、いただきまひょか」

ひょいと方手でケーキの箱を掲げて笑顔で首を傾げる。

「はい・・・」

俊太郎さんがキッチンの方へ消えたのを見計らい、ソファに腰を下ろす。

「ニャァーー」

リビングに取り残されたミルクが足元にすり寄って来る。

「こんにちは」
「ニャン・・・」
「久しぶりだね、覚えてる?」
「ニャ・・・」

ミルクはゴロゴロと喉を鳴らし、私の脚に身体を擦りながら8の字に行ったり来たりしている。

「大きくなったね、あの時はホントに子猫だったもんね」
「ニャァーン」
「ふふっ、お話してるみたいね」

いちいちミルクが返事を返すように鳴くので、そのうち会話しているような気分になってきた私は更に話しかけてみた。

「いいね、ミルクは」
「ニャ・・・?」

何が?とでも思っているのか、つま先のところでちょこんと座って大きな目で私を見上げている。

「だってさ、こんな素敵なマンションで・・・俊太郎さんと一緒に暮らしてるでしょ?」

真っ白なミルクを抱きあげて膝の上に乗せてみる。

「ニャァ」
「羨ましいな、ミルク・・・替わって欲しいぐらいだよ」

指先で喉をくすぐると気持ち良さそうに目を細めている。


(ほんと、羨ましいよ・・・)


そんな事を考えながらミルクを眺めていると

「さっきから何を話してますんや?」

ふと声を掛けられて正面に視線を戻すと、キッチンから俊太郎さんが戻って来たところだった。

「あっ、いえ、なんでも・・・ないですっ!」


(今の話・・・聞かれてないよね??)


慌てて首を左右にぶんぶんと降る。
膝の上にいたミルクはストン、と軽やかに飛び降りて俊太郎さんに駆け寄って膝の上に飛び乗った。

俊太郎さんはミルクの前足を取って、自分の目線の高さまで抱え上げて

「あとで何話してたか教えてな?」

とミルクに微笑みかける。

その笑顔はやっぱり綺麗で、優しくて・・・。
私に向けられた笑顔ではないのに、胸がどんどんと高鳴ってゆく。

「ニャァァーーーン」

うん、わかった。とでも返事したのだろうか、ミルクはひときわ可愛らしい声で鳴いた。





≪俊太郎編5へ続く・・・≫