ウンコタレと呼ばれて | 平準司@神戸メンタルサービス カウンセラー養成・個人カウンセリング・心理学の講演、執筆を行っています!

先週、お話したように、7月最初の休みの日に私は青森にいた。
そして、温泉まわりをした私はクタクタに疲れて、青森空港に到着したのである。


東北や九州の温泉は、やはりどうしても硫黄泉を中心にまわることが多い。
私が住んでいる関西は、有馬型といわれる強食塩泉の宝庫であるが、火山がないので硫黄泉はとても少ないのである。


唯一、山空海温泉というのが川西市の山奥に1軒あるのだが、それとて、とても薄~い硫黄泉なのである。
だから、われわれ関西人の温泉マニアは、濃~い硫黄泉に入りたいのである。
そして、私は青森で、濃~い硫黄泉をたっぷりと堪能したのである。


ところが、濃~い硫黄泉に入ると、そのあとの副作用がたいへんなのである。
まず、体全体が硫黄くさくなる。
さらに、その当日、つけていた下着なぞにも硫黄臭がしみこみ、1回ぐらい洗濯したところで消えることはないのである。
3回ぐらい洗濯しないかぎり、ずうっと硫黄のニオイがしているのである。


これは、シャツやズボンにも同じことがいえる。
もし、あなたがブランド品のシャツやズボンを着て濃~い硫黄泉に出かけたならば、ヘタすれば、当分、それらのシャツやズボンは着られないハメになるのである。


いちおう、私もそんなことは百も承知。
青森の温泉行脚の最後には、単純泉といわれる透明できれいな温泉に入り、頭も洗い、硫黄はできるかぎり洗い流したのである。
しかしながら、濃~い硫黄泉は、そんなことぐらいではなかなか抜けてくれず、私は“歩く湯ノ花状態”で青森空港から飛行機に乗ったのである。


この硫黄のニオイ、私たち温泉マニアからすれば、とても香ばしく、思わず胸おどるアロマの香りなれど、一般の人にはどうもなじみにくいようで、ゆで卵のニオイとかオナラのニオイとかに間違えられたりするのである。


そして、青森からの帰りの飛行機の機内で、あの忌まわしい事件は起こったのである。


私がグッタリ疲れ、窓際の席についていたとき、3列シートの私の隣には、おばさん二人が座っていたのである。
そして、私の横で、そのおばさん二人が会話をしているのである。


「あれ‥‥、あなた、した?」
「え、なに?」
「もう、いやだ—。すかしたでしょ」
「してないわよ!」


言葉からして、大阪のおばちゃんたちの青森旅行の帰りだと思われるのだが、どうも、すかしっぺをしたかどうかでモメているようなのである。
この時点まで私は、自分にはなんら関係のない話だと思っていたのであるが、のちのち、これが私を大惨事に巻き込むのである。


「だって、におうじゃない!」と言うおばさんと、「たしかに、におうわね」と言うおばさん。
そして、そのニオイのもとが私だと気づくのに、そんなに時間はかからなかったのである。


私から発せられている硫黄臭を、このおばさんたちはオナラのニオイとカン違いしたものなのである。
思い込みというものは恐いもので、人間、いったんそう思い込むと、その発想以外は思いつかないようなのである。


「ま、ヤだわ」というかんじで、この会話は止まったのだが、私は目は閉じたままでも、いま、二人がどういう表情をしているか目に浮かぶのである。
きっと私のほうをにらみつけ、目で「こいつのせいよ!」と言っているのであろう。


しかし、続くおばさんの言葉が、私を恐怖のどん底にたたき落としたのである。
ちっちゃな声で、すぐ横のおばさんが言ったのである。
「あれ‥‥、続くわね?」


(続く?)と、この言葉の意味を考えてみたのだが、つまり、オナラならあるていどの時間が経過すれば、ニオイは消えるはずなのであるが、そのニオイが延々と続いていることをおばさんたちはいぶかしがりはじめたのである。


(オイ、オイ、オイ‥‥!)
じゃ、なんですか。いま、私はウンコをもらした状態ってことですか?
そのとたん、横のおばさんから、「シッ!」という声が聞こえたのである。


なんですか、その「シッ!」は‥‥?
それは、「そんなことを言っちゃ失礼でしょ」といわんばかりの「シッ!」ではありませんか?!


天は私に、寝言でいいわけしろとでもいうのであろうか‥‥?
その後、私は目を閉じてはいるものの、緊張感のために一睡もできず、伊丹空港到着とともに、どのような顔で目を覚ませばいいのかもわからず‥‥。
51才にもなるこの私が、ウンコタレの汚名とともに自宅に帰るハメとなったのである。