石毛里佳の『ファースト・タイム・オンリー』 ひたむきさと決意と | 太田忠の縦横無尽

石毛里佳の『ファースト・タイム・オンリー』 ひたむきさと決意と

石毛里佳(いしげ・りか)さん


実は彼女は私がこの3年くらい積極的に音楽関係の活動をしている中で、私自身が大きな影響を受け、最も尊敬している人である。


石毛さんは1982年生まれ。まだ20代であるが、吹奏楽曲やアンサンブル曲の分野の作曲家として現在最も活躍している女性である。もちろんピアニストなどの演奏家や声楽家では女性で有名な人は数え切れないほどたくさんいるが、こと作曲家の世界となるとまるで様相は一変する。歴史的なスパンで見ても、現在演奏されているクラシックや吹奏楽で女性の有名作曲家を思い浮かべることはできない。世界的レベルで300年単位の歴史をとってすらこの状況であり、現在の日本人の女性作曲家で活躍している人の名前などほとんど聞いた事がない。以前、私のブログで世界的にも珍しい女性指揮者かつ日本人で活躍華々しい西本智実について書いた ことがあるが、作曲家も指揮者も「難解」かつ「複雑」な楽曲を隅々まで理解し、それを片や「創造」し、片や「再現」するという力量が求められるからだろう。それほど高度な世界だということだ。


その彼女が初めて本格的な吹奏楽曲を書いたのが高校1年生の時である。所属する吹奏楽部の定期演奏会のために、自分の持てる力をすべてふり絞って書き上げ、自ら指揮棒を振って初演したのだった。この話を初めて知った時、私は本当に驚いたものだった。そんなスーパー高校生の存在など今まで一度も見聞したことがなかったからである。


約6分の長さのその曲は、「もう二度と演奏されることはないだろう」と考えて彼女はタイトルを『First Time Only』としたのだった。ファースト・タイム・オンリー、すなわちこの初演が「最初で最後の演奏になる」というきっぱりした決意のような思いを込めて。


その後、彼女は本格的に音楽の道を歩み、東京藝術大学作曲科に在学中から『Muta in Concert』『碧い月の神話』『イグニスの宴』『おもいのことのは』など非常にレベルの高い意欲作を次々と発表。楽譜出版、CD発売、そして賞の獲得など華々しい活躍を見せている。


そして、あの「たった一度だけ」という『First Time Only』も初演からちょうど10年後の2008年にCDとして発売され、今や全国の吹奏楽コンクールで演奏されるようになっているのだ。CDのライナーノーツで彼女はこう語っている。


「この曲は、高校1年生のときに人生で初めて作曲した思い出深い曲です。自分の作った曲を演奏してもらえるということは夢のようで、この曲は今後2度と演奏される機会はないと思っていました。それで「First Time Only」というタイトルをつけてしまったのですが、まさかそれがこのように録音され、CDになるとは、当時には思いもよらなかったことです。本当にありがたいことです。皆様ありがとうございます」。


感動的な話である。実際に『First Time Only』を私はSo many times聴いてみたが非常にすばらしく、とても高校生の作品だとは思えなかった。私の妻にも聴かせたが驚愕していた。私よりも約20年も若い年代の人だが、石毛さんには人間の「ひたむきさ」が大きな将来を実現していくことを教えられ、大いに励まされる。今後ますますの活躍を期待したい。私もこのような姿勢で生きてゆきたいものだ。


太田忠の縦横無尽 2010.8.5

「石毛里佳の『ファースト・タイム・オンリー』 ひたむきさと決意と」

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