第7回「So Amazing」(1985)/Luther Vandross | 柑橘スローライフ

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1985年発表のルーサー・ヴァンドロスのアルバム、
Give Me The Reason(ギブ・ミー・ザ・リーズン)

一曲たりとも駄作の無い、
稀有なブラックコンテポラリーアルバム。
そんな称号すら与えて然りの一枚と言っていいのではと思います。

だから、どの曲をセレクトしてもいいのですが、
気分で一曲.....So Amazingにしました。



(以下は大変細かな内容となりますので、興味のある方だけ、
是非ご覧になってください)

ベルベットヴォイスと呼ばれた柔軟な声の持ち主....、
ブラックコンテンポラリーの代表的存在であったルーサー・ヴァンドロス。
惜しまれつつ、息を引き取ったのが2005年7月1日。
それから早くも10年の月日が流れました。

亡くなる2年前の2003年春に脳卒中で倒れ、
さすが、アメリカの国民的シンガー、
病状を気遣うテレビ報道がしばしばされていたと、
当時NYに住んでいた友人がよく話していました。
しかし、日本では殆ど彼の事なんか知らないという雰囲気で、
その温度差がなんとも物悲しくさえ感じたものです。

さて、ルーサーの魅力とは何でしょう。
歌唱、作曲、編曲といくつもその要素がありますが、
彼が出すサウンドがとにかく「唯一無二」のものだった。
やはり、そういうことことなのだろうと思います。

上にあげた三要素のどれもがいわばエクストラオーディナリー。
その合わせ技のクォリティが、いわゆるブラコンの中で、
明らかに群を抜いていたと感じるのです。

【歌唱】
まず歌唱。
この人の歌のテイストは、
他のブラコンシンガーのそれとはかなり異質。

何故、この人が同業者の中でも尊敬される存在だったのか、
その辺りを考えたいと思います。

その一つが独特の声質。
それは、高い声でも低い声でも、
あるいは、小さな声でも大きな声でも、
少し判り難い例え方で恐縮なのですが、
言ってみれば、声そのものが、
ルーサーの口元から前方に飛び出してくるようなことが無く、
全て周辺や後ろ方向に向いて吸収されるかのような、
いつでも柔らかなボリュームとトーンで聞えてくるためなのだ、
と感じるのです。

つまりルーサーの身体を「面」と考えた場合、
その面から前方には声が飛び出さない、ということ。

通常のブラコンシンガー(例えば、ピーポ・ブライソンとか)が
大きな声を張りだしたりすると、声のボリュームが大きくなり、
リスナー側に襲いかかって来るような「圧」がかかるわけですが、
ルーサーの場合は、たとえシャウトしても、それがほとんど無いのです。
(ミキシングなどのスタッフ側のマターではなく)

言ってみれば、声そのものが、
スポンジのようなテクスチャーを持っているかのような感触。
だから、「食あたり」ならぬ「声あたり」が起きず、
聞いていて耳が疲れることが少ないと思うのです。

これは全くもって稀有なことで、
同様な感じを覚えたブラックのシンガーを敢えて挙げるとすれば、
声質こそ違えど、マ-ヴィン・ゲイぐらいなのではと思うのです。
(ルーサーの1歳違いの友人のスティーヴィー・ワンダーですら、
声を張り上げると、その「圧」がかなりかかってきます)

この現象と言うのは、恐らく、声質そのものの特性と同時に、
録音入力時に「マイクとの距離感」を天才的にコントロールできているという、
シンガーとしての顕著なスキルのためもあるのだろうと思います。

【作曲】
そして作曲。
ルーサーの作曲は、様々なブラコン楽曲の中でも、
独特な温かみと深みがあります。

それを生みだす要因はいくつかあると思いますが、
もっとも代表的なものが、和音のテンションノートの巧い使い方、
ということが挙げられると思います。
(テンションノートとは、音階の9番目・11番目・13番目の音で、
決して、"あいつテンション高いな"、のような意味ではありません)

実際の現れ方としては、「分数和音による和声」です。
(このSo Amazingでは11thを少し使う程度に過ぎませんが)
軽音楽における分数コードと言うのは、
多くの場合「和音/単音」で表されるコード。
(近代音楽等の場合は「和音/和音」の多調性・複調等を表す場合もあります)
この単音は和音の転回形の場合もありますが、
ソウルなどの場合は「テンション」のほうが多いだろうと思います。

例えば、この曲のキーのトニックのBであれぱ、
B/C♯またはBonC♯などと表記される場合です。
(この曲では実際にはこういう場面はありませんが)
これによって何が生まれるのか.....

簡単に言うと、和音が「テンションに乗っかる」ということで、
これにより、音の深みや何とも言えない都会的な響き、
ジャジーとも云えるし、ソウルフルとも云える、
洒落た音響・響鳴感が得られるということで、
ルーサーの場合、この用い方が実に巧いと思えるのです。

B/C♯の場合の「C♯」は9th(ナインス)のテンションが、
バス音(ベースやピアノなど)になる、という具合で、
11th(イレブンス)や13th(サーティーンス)でも同様の、
ジャジーないしソウルフルな雰囲気が得られ、
特に13th、Bの場合なら、B△7/G♯などの形は、
ソウルフルなコンテンポラリーミュージックやジャズフュージョン
には「絶対的不可欠な和音型」と言ってもいいと思います。

ルーサーの曲に限らず、ソウルや黒人系ジャズフュージョンで、
「この部分が都会的」とか「ここが洒落てる」とか、
「ここが引き込まれる」というような感想を持つ場面の音は、
こうしたテンションがバス音として配置されている和音の場合が
多いと言ってもおそらく過言ではありません。

「ジャズっぽい」ということを、
最も端的にわかりやすく感じさせるものの一つが、
この「和音onテンション」ということだと言えます。

【編曲】
そして編曲ですが、
そんなテンションをうまくバス音に取り込むためには、
当然ながらベーシストや鍵盤楽器の役割が大きくなるわけで、
ベーシストはほとんどの場合、ブラザー的存在のマーカス・ミラー。
ルーサーとの共同作業は本当に馬が合う同志なのだと感じさせます。

この人のテンションをうまく扱うベースプレイは、
やはり素晴らしいの一言ですし、
シンセ(たいていYAMAHA DX7)プレイも大体マーカスです。

そして、ピアノはこれまた多くの場合、
学生の頃からの友人であったという、ナット・アダレイ・ジュニア。
この人との相性もマーカス同様、最高です。

そして、この三人により、アレンジがまるで歯車の回転のように
次々に連なっていきます(このSo Amagingは比較的そうでもないですが)。
この「歯車のようなアレンジ」。
これもルーサーの独特の音の世界と言っていいと思います。

そうした歯車がより回転速度を上げるような場面は、
やはり「2・5(ツーファイブ)」や「3・6」といった強進行が、
うまく経過和音を織り交ぜながら、活かされているはずです。
これは、他の極上のR&Bやポップスなどと同様です。

そんな、「歯車のようなアレンジ」が、
特にサビ(アメリカではchorusと言いますが)の部分で
顕著に感じられる曲も貼っておきます。

So Amazingと同じアルバムから「See Me」です。
終始ご機嫌にマーカスのサムピング(チョッパー)が冴え渡り、
特にナット・アダレイ・ジュニアのピアノの経過和音が最高です。



ルーサー・ヴァンドロス.....
再注目すべき、素晴らしいアーティストと思っています。




ソウル・R&B名曲選/過去記事一覧
第1回「Until You Come Back To Me」(1974)/Aretha Franklin
第2回「Woman Needs Love」(1981)/Ray Parker Jr.
第3回「Feel Like Makin' Love」(1974)/Roberta Frack
第4回「Mercy Mercy Me」(1971)/Marvin Gaye
第5回「Lovin' You」(1974)/Minnie Riperton
第6回「You Can't Hurry Love」(1966)/The Supremes



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