東欧諸国とロシアとの関係は、典型的な安全保障のディレンマ状況である。安全保障のディレンマというのは対立する双方が同時に安全と感じることが不可能である状況を指している。現在の東欧とロシアの関係に当てはめると、東欧諸国が軍事的に安全で安心という状況は、ロシアにとっては脅威である。ロシアにとって安心だという状況は、軍事的には東欧諸国は脅威を感じる。両者を同時に満足させるのは至難である。
両者の間の関係の一つの解は、フィンランド化だろうか。フィンランド化とは何か。それは第二次世界大戦末期以降のソ連そしてロシアとフィンランドの間の関係である。具体的にはフィンランドはソ連(ロシア)を敵視する軍事同盟には加わらない。代わりにソ連(ロシア)はフィンランドの国内体制に介入しない。第二次世界大戦末期にソ連軍が東欧を占領し、そのまま共産主義を押し付けた。それに比べるとフィンランドは外交的には制限を受けたが、国内的な自由を保持した。フィンランドは自らがソ連(ロシア)への脅威とならないことで、モスクワを安心させた。
いずれにしろ、こうした旧ソ連諸国への西側の影響力の浸透が、ロシアの激しい反応を引き起こしている。その代表例がウクライナである。このウクライナのEUへの加盟の動きが、ロシアの軍事的な反応を引き起こした。
2013年、民間人に偽装したロシア軍兵士がクリミア半島を制圧した。その後の「住民投票」が行われ、住民はロシアへの編入の希望を投票によって明らかにした。国際社会の方は、これを認めていないが、ロシア政府にとっては、これで編入が「正統」なものとなった。
このクリミア半島はウクライナでも特別な土地である。というのは、ソ連の時代の1954年にソ連の構成単位の一つであったロシアから他の構成単位であるウクライナへ譲渡された。独裁者ヨセフ・スターリン(1878年~1953年)の死亡した翌年である。ニキタ・フルシチョフ(1894年~1971年)がソ連の権力の中枢にいた時代である。ソ連国内での所属の移動であったので、象徴的な意味はあったが、実質的には何の意味もない譲渡であった。しかし、前述のように1991年にソ連が崩壊し、ソ連を構成していた各共和国が独立すると、クリミアはモスクワの支配から離れてしまった。しかし、ウクライナはロシアに基地の使用を許すという形で、クリミアの実質上のロシア支配の継続を許していた。ところが、2013年にロシアはクリミア半島を「併合」して、名実ともに、その支配者となった。
>>次回 につづく
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