トルコ・イスラエル関係の危機前回 のつづき)


今回の両国関係の悪化は、トルコとイスラエルの間の上記のような同盟関係の終わりの始まりを意味しているのかもしれない。というのは、トルコ国内では、イスラムの影響力が拡大しているからである。現在の与党の公正発展党が宗教的な層を支持基盤に躍進してきたのは衆知の事実である。


イスラム教徒としての感情の高まりは、パレスチナのイスラム教徒への同情につながっている。これがイスラエルとのあまりにも密接な同盟関係の維持を難しくしている。同時に外交的には、トルコがアラブの産油諸国に接近の姿勢を示している。トルコは、第一次世界大戦後の共和国建国以来の西欧志向から、それ以前のオスマン帝国の時代のイスラム国家としての、さらにはイスラム世界のリーダーとしてのアイデンティティーを復活させつつある。


イスラエルへの厳しい態度は、イスラム諸国との関係を深めるために必要なジェスチャーであり、代償である。もし、そうであるならば、事件に対する謝罪と補償の要求は、トルコの方向転換を正当化する口実に過ぎない、とイスラエルの一部勢力はトルコの姿勢を解釈している。もし、この解釈が正しいのであれば、中東の国際関係の構図が変わり始めている。


>>次回 につづく


※『石油・天然ガスレビュー』2012年1月号に掲載されたものです。


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