[孤独でなくなった群集](前回 のつづき)
だが、今回の状況は、ムバラク派の議論への強力な反論である。なぜならば反政府運動の主体は、同胞団ではなかった。運動を立ち上げたのは、インターネットを操る若者であった。これまで組織化されていなかった群衆である。ネットを使える世代が最初に動きだし、ほかの人々がついてきた。新しい展開であり、新しい現象だ。メディアを政府が独占した時代では考えられなかった。この運動をアルジャジーラなどの衛星テレビが二十四時間中継したのも大きかった。群集はネットと衛星テレビでつながった。そして孤独でなくなった群集が、エジプトの、そしてアラブ世界全体の政治風景を変えつつある。
反政府運動が予想以上の広がりを見せ、警察によるゴム弾や催涙弾や放水では、デモを抑えきれなくなった。最後には、軍隊が投入された。エジプト政治の影の主役である。この影の主役の動向がムバラク政権の命運を握っていた。軍は政権を守るために民衆に発砲するのか、それともムバラクを見限るのか、決断を迫られた。
二○一一年二月一日に軍は平和的な抗議行動には発砲しないと発表した。これは、ムバラク政権の終わりを意味した。もう何もデモ隊を止めるものが存在しなくなったからだ。その二週間後にムバラクは辞任に追い込まれた。
>>次回 につづく
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* 改訂作業を進めている『現代の国際政治(’13)』の印刷教材の一部の草稿です。これまでに発表した論考に依拠しています。
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