反政府運動の主体
ネット世代の若者たち


圧力釜を爆発させたのは、チュニジアの革命であった。エジプトと同じような状況にあったチュニジアで市民が立ち上がり、独裁体制を倒した。チュニジアの炎がエジプトに移り、濃縮された怒りが爆発して圧力釜のフタを吹き飛ばした。


しかし、エジプトの治安当局は強大である。エジプトの個々人が不満を抱いていても、それは分断され、細分化されており、体制を吹き飛ばすほどのエネルギーとしては、これまで結集されていなかった。エジプトの既存の野党は徹底的な弾圧を受けており、人々の不満を結集する拠点とは、成り得なかった。また最大野党のムスリム同胞団も厳しい監視下にあった。そうした中で、誰が、何が、不満を結集する焦点と成り得たのであろうか。


それは、名も無い市民たちであった。そしてインターネットを使ったコミュニケーションであった。デジタル時代に適応した若者たちの登場が、エジプトの反政府運動を変えた。テレビや新聞などのマスメディアが政府の検閲によって御用宣伝機関に堕する中で、知識層はインターネットによって、またアルジャジーラのような海外からの衛星テレビによって情報を獲得し始めていた。


チュニジアの場合、そしてエジプトの場合、これまでは批判は存在したが、批判勢力は存在しなかった。組織化が警察力によって抑えられてきたからである。その組織されていなかった批判や不満をつなぎ、組織化されたエネルギーに変えた力は、インターネットであった。政府が検閲している既存のメディアではなく、若者たちが操るインターネットを通じた連絡網が孤独な群集をネットでつないだ。群集は孤独ではなくなった。


『潮』(2011年4月号)122~127ページに掲載
*既に発表した論考に加筆したエッセイです。


>>次回 につづく


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