マンガの話をします。
今日のお題は(また)諸星大二郎の「西遊妖猿伝」です。
斉天大聖とは西遊記で孫悟空が自ら名乗った称号です。
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原作の西遊記では、石から生まれた猿である孫悟空は生まれつき超パワフルな存在で、占術を学んで七十二般の変化術や觔斗雲を操れるようになり、更には冥界で悪さをして不死身になってしまいます。
で、天からも危険視され、懐柔策として馬の世話係:弼馬温として採用し大人しくさせようとします。しかしこれが逆効果で悟空を怒らせてしまい、悟空は天界で大暴れし、天の神様にも手に負えない存在となり、遂には自ら「斉天大聖」を名乗ります。
「斉天大聖」とは、”天にも等しい大いなる存在”と言う意味です。
その後はご存じの通り、お釈迦様に五行山に封じ込められてしまいます。で、その罪を贖うため三蔵法師のお供をすることで、五行山から解放され「西遊記」のヒーローとなる訳です。
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「西遊妖猿伝」では諸星大二郎は独自の解釈で孫悟空を再構築します。
「西遊妖猿伝」では孫悟空は獲猿(山の猿の化物)にさらわれた女の子供として登場します。女は再び人里に現れて、子供を置いて山に戻ってしまいます。この子供が孫悟空なのです。(この辺は遠野物語っぽい)
「西遊妖猿伝」の「斉天大聖」は、本来、無支奇という水の妖怪です。作品中、無支奇はモノアイの巨猿として描写されています。この無支奇は、「虐げられた民衆の怒りや恨み」をパワーの源として、それが無くならない限り永遠に生き続けるのです。そのパワーは恐るべきものなので、道教の神様(顕聖二郎真君)により鎖で封印されています。
孫悟空は無支奇と出会い、無支奇の精を受けて生まれたことを告げられます。そして、無支奇から「斉天大聖」の称号とパワーを譲り受け、超人となります。
つまり、「西遊妖猿伝」の孫悟空のパワーの源は「虐げられた民衆の怒りや恨み」なのです。
孫悟空は玄奘三蔵に導かれることで、パワーを概ね良い方に使いますが、そのパワーはあまりに強大なため、時として悟空自身でさえコントロール不能となり暴走することもあるのです。
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「虐げられた民衆の怒りや恨み」というパワーは強大で、現実の歴史上でも大きなイベントを引き起こしました。フランス革命やソビエト革命などがそうです。
現在の中東の混乱の背景にもこれがあります。クルド人問題などの民族独立問題は明らかにそうです。ISはちょっとどうだか判りませんが、通底する物を感じます。また、その延長線上に北朝鮮があるとも言えると思います。
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そう言えば、このパワーを背景に大物になりつつある人物が居ます。
ドナルド・トランプです。
トランプが大統領になることで、アメリカそして世界は間違いなく変わると思います。
しかしその「変化」が良い結果をもたらすかどうかは未知数です。トランプを支持している人々は「良い方に変わる」と期待を持って居るんでしょうが、やってみないと判らないと言うのが正直な所でしょう。
ただ、言って置くと”「虐げられた民衆の怒りや恨み」というパワー”は強大ながら、ダークな方向にバイアスを持つ危険な物です。これは上手にコントロールされる必要があります。
悟空は三蔵法師という「導いてくれる人」がいたからこそヒーローとなりましたが、トランプに三蔵法師はいるのでしょうか・・・