2010年の事故では、中央制御室の作業員が外部ディーゼル発電機を起動し、
原子炉格納容器のベント(弁の開放)を行い、容器下部にある抑制室に蒸気を逃がして圧力を下げたことで、炉心の破損は免れた。

この事故事体は、既に民主党・森ゆう子議員の国会質問などで明らかになっていましたが、今回の重大事故で、なかなか実施されなかった『ベント』が、周辺住民に事前に知らされることもなく、このときにも行われていた事実は、原子力関連法規にも抵触する重大な意味があると思われます。

WSJ日本語版より
 『福島第1原発、2010年にも電源喪失事故』
【東電と原子力安全・保安院は10年7月に、それぞれの報告書で事故の原因は人為的ミスであったとしている。この件に関し、福島市の東電広報担当者は先日行った電話取材で次のように回答した。

 「協力企業作業員が記録計の交換作業を行っていたところ、記録計付近にある所内電源切り替え用補助リレーに知らずに接触した等、何らかの衝撃が補助リレーに加わり、誤動作した可能性が考えられる」

 福島第1原発2号機で使用されているタイプの原子炉に詳しい米ミシガン大学のジョン・リー教授(原子力工学)は、「何らかの原因による数分間の電力遮断は起こり得る」と述べ、発電所が外部電源の一時喪失に見舞われること自体は珍しくないとしたが、「炉心の水位低下は極めて異常であり、留意すべき重大事象といえる」と述べた。

 専門家らは、原発運営会社は「SCRAM(スクラム)」と呼ばれる原子炉の緊急停止を軽視すべきではなく、スクラムは構造的改修を促すきっかけにもなり得ると話す。電気工学に詳しい米ワシントン大学のロバート・アルブレヒト名誉教授は、「この種のスクラムは原子炉に大きな負担をかけることなる。設計変更をしてもいいくらだ」と述べた。

 事故後、東電と原子力安全・保安院は作業員への注意喚起の必要性は認めたものの、福島第1原発の電力供給網の根本的見直しは要求しなかった。再発防止策として、東電は重要な制御盤近くに作業員の注意を喚起する表示を掲示した。

 原子力安全・保安院は震災発生の5週間前の今年2月、設計寿命の40年を迎える福島第1原発について、稼働年数の10年延長を許可した。

 原子力安全・保安院と東電のトップは、震災後の原発危機を受けて国会で証言した際、この事故についても厳しい追及を受けた。東電の清水正孝社長は5月1日の証言で、東電の公式報告書では省かれていた事故の詳細について確認した。それによると2号機原子炉内の水位は2メートル低下し、通常レベルに回復するまで約30分かかったという。

 東電は2号機の運転を1カ月停止し、その間に事故原因を協力会社の保守要員によるものと断定した。制御盤背後にある記録計を交換していた際、所内電源切り替え用の補助リレーにうっかり肘が当たったのだ。

 原子力安全・保安院と東電の報告書の記述によると、それによって補助リレーが「瞬間的」に誤動作し、原子炉主電源の遮断器が切られたが、誤動作が極めて瞬間的だったために通常の非常用電源は作動しなかったという。その結果、給水ポンプが停止し、燃料棒を冷やす冷却水の注水が一時的に止まったという。

 補助リレーは、1984年に設置された送電線の系統安定化装置の一部であり、東電が運営するその他の原発にも使用されている。東電は09年、新しい送電線の設置に伴ってそれら装置は不要になると判断し、撤去を決めた。この件について東電広報担当者は、「この系統安定化装置の所内電源切替え用補助リレーを含む電気回路を撤去する計画が既にあった」と述べた。
 
10年の事故では、中央制御室の作業員が外部ディーゼル発電機を起動し、原子炉格納容器のベント(弁の開放)を行って、容器下部にある抑制室に蒸気を逃がして圧力を下げたことで、炉心の破損は免れた。東電は報告書で、この措置によって1時間後には水位が回復し、外部に放射性物質が放出されることもなかったとしている。

 原子力発電の専門家によると、燃料棒は酸化ウランを焼き固めたセラミックペレットをジルコニウムで被覆したもので、常に水で冷やしておかないと核分裂を起こす可能性がある。2号機の燃料棒は長さが約4メートルで、通常その2倍の水位の水に浸されている。10年6月の事故では、水位は一時的に6メートル近くに急低下した。

 3月11日の震災では、停電によって給水ポンプが停止してから5時間もたたないうちに、稼働中の原子炉3基のうちの1つで燃料棒が溶け始め、15時間以内に完全に溶解した。2号機を含む他の原子炉内の燃料棒も数時間で溶解した。

 東電は先月、それら原子炉の格納容器がメルトダウンによって破損している可能性があり、それが放射性物質の拡散につながった可能性があることを明らかにした。】