土壇場で巨人覚醒。。第73期A級順位戦/9回戦「森内九段-行方八段を振り返ろう」
本日は3月3日の「ひな祭り」
将棋界では第26期女流王位戦の挑決リーグ
紅・白組で最終戦・一斉対局 が行われています。。
紅組は3勝1敗で
清水市代女流六段、鈴木環那女流二段に
岩根忍女流二段が並ぶ大激戦で最終戦に。。
一方の白組は
年明けから復活なった里見香奈女流名人と
本田小百合女流三段が同じく3勝1敗で並び
最終戦を迎えました。。
果たして挑戦者決定戦に駒を進めるのは
どの女流棋士となりますでしょうか。。
さて、今回も昨日に続きまして
日曜日(1日)に行われた「将棋界の一番長い日」
第73期A級順位戦/最終戦・一斉対局の中から
「森内俊之九段-行方尚史八段」の模様を振り返ります。
3手目▲6八銀。
上図での持ち駒
▲森内九段: なし
△行方八段: なし
行方八段には単独優勝の可能性が
森内九段にはA級陥落の危険性があった
注目の大一番は森内九段が先手。
その初手▲7六歩に対して
生粋の居飛車党・行方八段は2手目に飛車先を突く
△8四歩と返して、対局はスタートとなりました。
先手の作戦が明らかとなる次の3手目。
森内九段は▲6八銀とし、十八番の「矢倉」を指向。。
くしくも同じ日に放送された
第64回NHK杯/準決勝・対深浦康市九段戦でも
後手番で「相矢倉」を戦い、勝利をおさめた森内九段は
同じ戦型で手番を入れ替え連勝を狙います。。
10手目△4二銀。
上図での持ち駒
▲森内九段: なし
△行方八段: なし
居飛車の本格正統派を自負する
行方八段にとっても得意の「矢倉」戦は望むところ。
先手の駒組に追随し、いざ「相矢倉」を目指します。。
15手目▲6九玉。
上図での持ち駒
▲森内九段: なし
△行方八段: なし
確立された定跡手順の進行で迎えた
上図から次の16手目が後手の作戦の分かれ道。。
△5二金なら現在の主流「持久戦」も模様へ
△7四歩なら「急戦」含みとなりますが。。
18手目△5三銀右。
上図での持ち駒
▲森内九段: なし
△行方八段: なし
行方八段は△7四歩と突き「急戦」を示唆すると
先手の17手目▲7七銀をみて、右の銀を5筋に繰り上げ
かつては羽生善治名人から勝利を飾ったこともある
「△5三銀右阿久津流急戦矢倉」を投入しました。
20手目△5五歩。
上図での持ち駒
▲森内九段: なし
△行方八段: なし
行方八段は「阿久津流急戦」の第一歩となる
5筋の歩を突き合わせます。。
森内九段が▲同歩(21手目)と応じると
以下、△同角~▲5七銀~△5四銀~▲4六銀に
△3三角~下図27手目▲6八銀と進行。。
27手目▲6八銀。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩
△行方八段: 歩
「阿久津流急戦矢倉」は
後手が7三の地点に、先手は4六の地点に
それぞれ角のポジションを取り、ラインが入替わるのが
大きな特徴の一つでしたが、しかし
本局では森内九段が
居角のまま駒組を目指したことにより
行方八段も元居た側へと角を引き戻しました。。
35手目▲3五歩。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩
△行方八段: 歩
先に仕掛けたのは、森内九段。
互いの飛車が中央5筋へと移動した後
後手の角頭となる3筋で歩を合わせます。。
次に
行方八段が△同歩(36手目)と取り込むと。。
37手目▲6五歩。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩
△行方八段: 歩2
森内九段は今度は6筋の歩を突き合わせ
閉じていた角道をこのタイミングで開きました。。
この局面で夕食休憩に。
38手目△6二金。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩
△行方八段: 歩2
夕食休憩明けの一手で
行方八段は手拍子の角交換には行かず
ジッと金を一段上げて、先手の手を待ちました。。
この手は角交換後の先手の狙い目となる
▲8三角の打ちこみへの備えともなっています。
しかし、この手を見て
森内九段が6筋の歩を取り込むと。。
(39手目▲6四歩)
40手目△8八角成。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩2
△行方八段: 角、歩2
行方八段はモタモタはしていられないと
角交換を敢行。。自ら局面を動かしに行きます。。
44手目△6六歩。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩2
△行方八段: 歩
角交換成立直後
行方八段は先手の飛車のコビンと2筋を鋭く捉える
3六の地点に手持ちの角を打ち込みました(42手目)。。
すると、森内九段は55分の長考の末
何と2筋と4筋の歩を守るために自陣に角を投入。。
(43手目▲3八角)
どんな狙いが秘められているにせよ
この瞬間は森内角は受け駒としてしか機能せず
行方八段はチャンス到来と攻勢を強めます。。
まずは金を叩いた上図から、以下
▲同金~△6五銀~▲5五金~△7五歩~▲同歩に
△7二角~▲7四歩~下図52手目△同銀と進行。。
52手目△7四同銀。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩4
△行方八段: 歩2
行方八段は角を自陣へ取り込み
アングルを変えつつ、活用に柔軟性を持たせました。
こうなると3八の角が重荷となってしまった
森内九段はしかし、慌てることなくそっと9筋の歩を突き
玉の左辺に空気を入れます(53手目▲9六歩)。。
すると。。
56手目△9五歩。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩3
△行方八段: 歩2
行方八段は不急にも思えたこの端歩を
受けて返しました(54手目△9四歩)。。。
次の瞬間
森内九段は繰り上がった5筋の金の真上に
歩を打ち込み、後手の飛車先の押さえ込みに成功。。
(55手目▲5四歩)
先手に大きな手が入ったかに見えましたが
行方八段は構うことなく、9筋の歩をそのまま突き合わせ
端から仕掛けを開始しました。。
森内九段が▲同歩と応じて(57手目)
以下、△9七歩~▲同香~△5三歩~に
61手目▲4五銀が好手となり、次の△8五桂をみて
下図63手目▲4六歩。。。
63手目▲4六歩。
上図での持ち駒
▲森内九段: 歩5
△行方八段: なし
辛抱を強いられ自陣に埋もれたかに思われた
森内角の上空の視野がこの瞬間、解き放たれ
いよいよ巨人・森内九段が目を覚まします。。
75手目▲9八歩。
上図での持ち駒
▲森内九段: 桂、歩5
△行方八段: 香、歩
しかし、そうはさせじと
行方八段は端から懸命に食らいつきますが
森内九段は真骨頂の「鉄板の受け」で対応。。
攻守に雰囲気が出てきました。。
83手目▲6三歩成。
上図での持ち駒
▲森内九段: 桂、歩4
△行方八段: 香、歩
行方八段の執拗な攻撃の前に
形勢判断もままならない大熱戦となった本局の
クライマックスを迎えたのは上図の局面
後手の銀取りを手抜いて歩を成りこんだ
森内九段の「勝利宣言」からでした。。
以下
△6七歩成~▲5二「と」金~△7六角に▲4二「と」金。。
双方、一目散に敵将を仕留めに出ますが。。。
【 投了図・95手目▲4二銀 】
投了図での持ち駒
▲森内九段: 歩5
△行方八段: 銀、歩2
森内九段が最後の最後で圧倒。。
上図95手目の局面をみて行方八段、無念の投了へ。。
土壇場でさすがの強さをみせつけた
森内九段は順位戦成績を4勝5敗とし、辛くも残留決定。。
一方、久保九段が敗れ 勝てば単独優勝となった
行方八段は痛恨の黒星を喫し、あらためて優勝を目指し
4者によるプレーオフ に挑みます。。
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【 序 章 】
「私と将棋界」
柔らかブログ誕生のきっかけとなった
第21期竜王戦以降の将棋界を熱く振り返ります。
【 第一章 】
「愛知女子将棋界の駒音」
山口真子さん/中澤沙耶さんインタビュー
【 第二章 】
「明日咲く花」
今泉健司さんへのエール&ミニインタビュー