熱狂なき終幕。。第71期名人戦7番勝負/第5局「森内名人圧勝、名人3連覇を達成」
森内俊之名人に
羽生善治三冠が挑戦する、第71期名人戦7番勝負。
ここまで4局を消化し、森内名人が3勝1敗とリード。
名人位防衛に王手がかけられて迎えた注目の第5局が
昨日より、名古屋市「ウェスティンナゴヤキャッスル」にて開幕。
第5局の先手は
カド番でもう後のない羽生三冠。
その初手▲7六歩に対して
森内名人の2手目は飛車先の歩を突く△8四歩。
居飛車を明示し、戦型選択を先手に委ねます。。。
3手目▲6八銀。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: なし
△森内名人: なし
先手の作戦が明らかとなる
注目の羽生三冠の3手目は▲6八銀。
▲2六歩からの「角換わり」も十分考えられましたが
負ければ終わりの大一番で、羽生三冠は居飛車の看板戦法
「矢倉」での勝負を明示しました。
15手目▲6九玉。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: なし
△森内名人: なし
森内名人も先手の駒組みに追随し
先・後呼吸を合わせて一路、「相矢倉」を目指します。
定跡手順の進行となり
上図から次の16手目は後手の作戦の岐路。
△7四歩とすれば急戦含みとなりますが
森内名人は△5二金として、持久戦模様を志向。。。
35手目▲3七桂。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: なし
△森内名人: なし
細かな駆け引きを入れながら
羽生三冠は「矢倉囲い」に玉を入城させてから
現代矢倉の主流である「▲4六銀3七桂」型に構えました。
一方、森内名人は
玉の入城にもったいをつけながら、9筋を突き越し(38手目△9五歩)
銀の先受け(42手目△2五銀)を優先するなど、ケレン味をみせ
ここまで勝ち越している余裕を漂わせます。。
49手目▲3五歩。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: なし
△森内名人: なし
森内名人は44手目にようやく玉の入城を完了。
そこから羽生三冠が右の桂馬に二度目の跳躍をさせ
森内名人が右の銀を引いた(48手目△4二銀)、次の瞬間
羽生三冠は3筋に歩を突きあわせ、仕掛けを開始。。
以下
△同銀~▲同銀~△同歩~の進行で銀交換が成立。。
62手目△3七銀。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 銀
△森内名人: 歩2
羽生三冠が3筋に歩を垂らすと
森内名人は飛車の頭上に露骨な銀の打ち込み。。
互いに角のライン上で争点を作り
早くも一日目から戦いは加熱していきます。。
【 一日目終了図・68手目△1三桂 】
68手目△1三桂。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 銀
△森内名人: 桂、歩4
一日目は上図68手目の局面まで。
羽生三冠が39分の考慮の末、次の69手目を封じて
終了となりました。
69手目▲3六銀。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 銀
△森内名人: 桂、歩4
▲1四銀が本命とみられていた
羽生三冠の封じ手は、1三の桂馬に狙われた銀をバックさせる
やや意外な▲3六銀。。意表の一手というよりも、明らかに
変調を感じさせる不穏な「封じ手」から、二日目はスタート。。
74手目△6六桂。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、銀
△森内名人: 角、歩4
羽生三冠の「封じ手」をみて
森内名人は37分の考慮の後、角迫り出し馬を作りました。
(70手目△3七角成)
この馬は
羽生三冠がすぐに角を合わせて消したものの(71手目▲4六角)
森内名人は角交換直後に持ち駒の桂馬をズバッと投入。。
上図以下
▲6八飛~△7八桂成~▲同玉~△8六歩~と猛攻を仕掛け
通常は専守防衛が前提の「相矢倉」後手番から積極的に
攻撃を仕掛ける異例の展開となりました。。。
82手目▲8六歩。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、銀、桂、歩2
△森内名人: 角、金、歩2
さらに森内名人は
自らの飛車先となる8筋で羽生三冠の歩を吊り上げてから
嫌らしく歩を垂らします。。
二日目開始から存分に
後手に仕掛けの下準備を許した格好となった羽生三冠は
この歩を手抜いて、次の83手目は▲1四歩。。
端から攻略に反攻ののぞみを託します。。
84手目△2五桂。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、銀、桂、歩
△森内名人: 角、金、歩2
二日目午前中の対局は上図84手目まで。
歩を突きつけられた桂馬を、ひらりと2筋へ跳躍した局面で
お昼休憩突入となりました。
【 お昼のメニュー 】
羽生三冠: オムライス、オレンジジュース
森内名人: 大エビフライカレー、アイスウーロン茶
昨日に続き大エビフライカレーを食した森内名人に対し
羽生三冠の弱気なオーダーからは、現在の不調さが投影されてる
そんな印象も正直受けましたが。。。
87手目▲8八歩。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、銀、桂
△森内名人: 角、金、歩3
羽生三冠は
午後開始の一手で4筋の歩をぶつけましたが(85手目▲4五歩)
森内名人は構わず、飛車を力強く浮かせます(86手目△8五飛)
その迫力の前に
羽生三冠は自陣二段目に歩を配置する辛抱の受けで
守備を固めますが。。。
88手目△6六歩。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、銀、桂
△森内名人: 角、金、歩3
しかし次の瞬間
森内名人は6筋の歩をグッと突き、すでに形の乱れている
「羽生矢倉」の要の金に突き立てると同時に、飛車の横利きも通し
瞬く間に攻撃の形を整え、勝負に出ます。。
防戦一方となった羽生三冠ですが
上図から▲同銀~△3七桂成~▲7七桂~△8三飛~
と必死の抵抗。。何とか形勢を引き戻しにかかりますが。。
94△3六成桂。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、銀、桂、歩2
△森内名人: 角、金、銀、歩3
森内名人は
羽生三冠の反撃の狼煙・93手目▲4四歩を手抜き
長らく戦列から離れ3六の地点で浮いていた羽生銀を捕獲。。
「金を取りに来い」と挑発された羽生三冠は
他に思わしい手がないのか、危険な罠を承知で次の95手目に
▲4三歩成と金を取り込み、もう後戻りの出来ない終盤戦へ
自ら舵を切りました。。。
そして、次の瞬間
今シリーズの命運がはっきりと、浮き彫りに。。
96手目△8七角。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、金、銀、桂、歩2
△森内名人: 金、銀、歩3
森内名人はガツンと角で王手。
すでに読み切っているとばかりに、ド迫力の一手で
寄せを宣言。。
一方、羽生三冠はこの角を払うことさえ出来ずに
力なく、玉を自陣最下段へと逃がすのが精一杯。。。
(97手目▲8九玉)
以下、△4三飛~▲8七歩~△4九飛成~▲6九歩~
そして、102手目△8七歩成までの電車道。。
【 投了図・102手目△8七歩成 】
102手目△8七歩成。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 角2、金、銀、桂、歩
△森内名人: 金、銀、歩5
今シリーズを象徴するような
森内名人の一方的な展開となり、上図102手目までで
羽生三冠無念の投了。。
今シリーズ5局中、実に3局目となる
夕食休憩すら待たない、終局時刻午後4時55分という
あまりにもあっけない幕切れとなりました。
この結果
今シリーズの対戦成績を4勝1敗とした森内名人が
圧倒的な強さを見せつけ、堂々の名人戦3連覇を達成しました。