羽生三冠5連覇成らず。。第62回NHK杯/決勝戦を振り返ろう
3手目▲2六歩。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: なし
△羽生三冠: なし
昨日、放送されました
日曜午前のお楽しみ第62回NHK杯将棋トーナメントの決勝戦
「羽生善治三冠-渡辺明二冠」
くしくも昨年の決勝戦でも顔を合わせた両者。
その時は羽生三冠が先手で「相矢倉」戦を制し、優勝。
見事、初代「名誉NHK杯選手権者」の称号を手にしました。
あれから一年
振り駒の結果、先手は渡辺二冠。。
今期は特に下半期から4タイトル戦連続出場、朝日杯優勝 など
八面六臂の大活躍を演じている、将棋界の主役。
昨年の借りを返す上で
先手番を得たのは願ってもない追い風スタートとなりました。
その初手はいつものように▲7六歩から。
羽生三冠の2手目は飛車先の歩を突く△8四歩ではなく
同じく角道を開ける△3四歩でした。。
横歩取りか、角換わりか、あるいは飛車を振るのか。。
様々戦型が予想される中、渡辺竜王は堂々と3手目▲2六歩。
角道を開け、飛車先の歩を突く居飛車党王道の出だしを披露します。
さあ、注目の羽生三冠の4手目は。。
4手目△4四歩。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: なし
△羽生三冠: なし
羽生三冠の4手目は角道を止める△4四歩。
昨秋の第60期王座戦を彷彿させる 「振り飛車」模様を描きます。
この動きをみて
渡辺竜王はすかさず飛車先を決めて(5手目▲2五歩)
3三の地点を角で受けさせてから(6手目△3三角)
▲4八銀とし(7手目)、自身は紛れることなく居飛車を明示。
羽生三冠の出かたを見ます。。
8手目△8四歩。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: なし
△羽生三冠: なし
すると、直後に羽生三冠も飛車先を突き
どうやら「振り飛車」ではなく「居飛車」での駒組みを目指す姿勢を
一転、示しました。。
羽生三冠の意表の駒組みにより
一手、一手に神経を使う、重い序盤戦に。。
24手目△4三金。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: なし
△羽生三冠: なし
羽生三冠の作戦の目的は「矢倉」でした。
しかし、それにしても
これほどまでに複雑に手数をかけて誘導しなくても
2手目△8四歩とすれば「相矢倉」への進行が濃厚でしたが。。
このところ、先手を持って渡辺二冠と対峙した佐藤康光王将(当時) や
郷田真隆棋王 が、まるで渡辺二冠にお伺いを立てるように、消極的な(?)
ワンクッションをおく駒組みで「相矢倉」を戦ったことがひっかかっているだけに
今回の羽生三冠の回り道するような駒組みも気になるところ。。。
現時点で、渡辺二冠を相手に定跡手順で「相矢倉」を戦うのは
先手でも後手でも、あまりにも危険すぎるということなのでしょうか。。
上図から、渡辺二冠は
いきなり3筋の歩を突きあわせ(25手目▲3五歩)
苦心の駒組みをあざ笑うかのように、早くも仕掛けを開始します。
以下
△6四角~▲3四歩~△同銀~▲4六歩~△4一玉~下図▲2四歩~
31手目▲2四歩。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: 歩
△羽生三冠: 歩
渡辺二冠は自玉の囲いよりも
先に「羽生矢倉」の陣形を乱し、完全に力戦模様となりました。
上図から次に▲同歩~△同飛~
渡辺飛車の突進に素通しとなった2筋を、羽生三冠は受けずに
ジッと玉を寄せ駒組みを進行(34手目△3一玉)
まだ序盤ながら、意地と意地がぶつかり合い
もやは引くに引けない展開に。。。
51手目▲6七金右。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: 歩2
△羽生三冠: 歩2
2筋は渡辺飛車が素通しのままで
玉の入城を果たせない羽生玉に対し、渡辺玉は堂々と
「矢倉囲い」の中へと入城を果たします。
しかし、かわりに羽生三冠は3筋に駒を積み上げ
手厚い構えで開戦に備えます。
66手目△9二飛。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: 歩
△羽生三冠: 歩
さらに駒組みは続き
両軍のほとんどの駒が戦列に参加。。
羽生三冠は9筋の香車を上げて、その真下に飛車を配備。
二段ロケットによる端攻めに命運をかけます。。
しかし、渡辺竜王は緊張高まる上図の局面で
そっと1筋の歩を突き、手を渡す(67手目▲1六歩)
心憎いばかりの余裕を見せます。。。
77手目▲6四銀。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: なし
△羽生三冠: 歩2
先に仕掛けたのは渡辺二冠。
中央5筋から羽生陣営に嫌らしく歩を垂らしてから(75手目▲5二歩)
銀交換を迫ります。。
87手目▲7五角。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: 歩
△羽生三冠: 歩2
しかし、羽生三冠は銀交換を拒否。
銀を後退させて専守防衛、徹底抗戦の構えをみせました。
ならばと渡辺二冠は飛車を中央5筋へと振り
今度は角交換を要求。。
羽生三冠はこの要求には応じ、角交換が成立。
はじめて歩以外の駒が駒台に乗りました。
97手目▲5六角。
上図での持ち駒
▲渡辺二冠: 歩
△羽生三冠: 歩
盤上には溢れんばかりの駒が躍動し
みるからに力の篭る模様が描き出されました。
渡辺二冠は中央突破を目指し
羽生三冠は馬で何とか駒を払おうとしますが
金と銀にまたがる形で好所に角が投入され中央付近を分厚く制圧。。
【 投了図・109手目▲8三歩成 】
投了図での持ち駒
▲渡辺二冠: 銀、歩
△羽生三冠: 歩2
決着はあっけなく。
渡辺二冠が二枚の桂馬を重ねた上で
8筋の歩を前進させたところで、羽生三冠が投了。
まだ後手玉に詰みが発生した訳ではありませんが
例えば
投了図から△5六桂~▲8二と~△4七馬~▲7一飛~△4六馬~
と攻め合っても▲5七銀~以下まだ中央は厚く、後手に分があり
致し方ないところだったのかもしれません。。
内容的には
渡辺二冠が終始一貫してペースを握り
圧勝だったように感じました。
この結果、羽生三冠の偉大なる大記録
「NHK杯戦25連勝、5連覇」の野望は残念ながらストップし
渡辺二冠のNHK杯初優勝が決まりました。