第38期棋王戦本戦/決勝は「角換わり」。。「羽生三冠-渡辺竜王」を振り返ろう
2手目△8四歩。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: なし
△羽生三冠: なし
昨日行われました
注目の第38期棋王戦挑戦者決定トーナメント本戦/決勝
「羽生善治三冠-渡辺明竜王」。
振り駒の結果、先手は渡辺竜王に。。
両者の対戦のこの手番で、すぐに思い起こされるのは
今秋の第60期王座戦5番勝負での2局(第2局 、第4局 )。。
いずれも
渡辺竜王の初手▲7六歩からスタート後
対渡辺竜王戦は相居飛車に拘りをみせていた羽生三冠が飛車を振り
「対抗形」となりました。
結果的に、この羽生三冠の「振り飛車」作戦が功を奏し
見事、王座奪還を果たした のはご承知の通り。。
現居飛車党党首で
「相居飛車」の先手番では現在最強との呼び声も高い渡辺竜王が
よもや羽生三冠との対決で、「対抗形」の研究で遅れを取り
プロ棋士人生初となるタイトル陥落の屈辱を味わうはめになろうとは。。
それだけ羽生三冠が、王座奪還にかけていたわけですが
現在の将棋界における、事実上の頂上対決であり
今後も幾度と無くタイトル戦で顔を合わせるであろう両者だけに
その後の展開、渡辺竜王の巻き返しに注目が集まります。。
王座戦後の初対決は
11月26日に行われた第62期王座戦挑戦者決定リーグ戦。
この時も渡辺竜王が先手で、初手は▲7六歩。
対する羽生三冠は三度、飛車を振り
「ゴキゲン中飛車」に構え、渡辺竜王が「超速▲3七銀」で迎え撃つ
最先端の戦いとなりました。
結果は103手までで、渡辺竜王の完勝 。
全勝優勝を手土産に、王将戦挑戦者に名乗りをあげました。
そしてむかえた昨日、今年7度目となる対決。
またもや先手となった渡辺竜王が
「そろそろ居飛車で勝負しましょう」
と、いう気持ちも多少はあったのか。。
初手▲2六歩とし、角道を開けずに飛車先の歩を突きました。。
「分かりました」
初手をみて、渡辺竜王の気持ちを汲んだのか。。
羽生三冠も2手目に飛車先を伸ばし(上図▲8四歩)て返し
本局は早々に「相居飛車」が明示されました。。
10手目△7七角成。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: なし
△羽生三冠: 角
かわりに本局で羽生三冠が採用した戦型は
手損のない「角換わり」。。こ、これは
そう、今期の竜王戦
でも連続採用された、渡辺竜王の十八番
。。
勝つために選んだ「振り飛車」作戦から
相手の得意な形を持って見解を試すという、ある意味で
本来の羽生三冠らしい選択がなされました。
45手目▲4五歩。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: 角
△羽生三冠: 角
角交換成立後は
互いに細かいけん制を入れ、手を渡しながら
定跡手順の進行し「相腰掛銀」に。。
実は上図45手目の模様は
今夏、羽生三冠が優勝を飾った第20回銀河戦/決勝 と全く同じ。
後手を持って勝利した銀河戦/決勝での感触をベースとして
羽生三冠がこの局面に誘ったと思われますが
当然、渡辺竜王もこの形は研究済みのはず。。
渡辺竜王が4筋から突っかけて、いざ開戦となりました。
62手目△4六歩。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: 歩2
△羽生三冠: 歩
開戦後も
銀河戦/決勝「▲阿久津七段-△羽生三冠」戦を粛々と
踏襲する両者でしたが、先に手を変えたのは渡辺竜王でした。
上図62手目の局面で
銀河戦/決勝では阿久津七段が△2八飛とした次の63手目。。
63手目▲4六同歩。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: 歩3
△羽生三冠: 歩
渡辺竜王は垂らされた歩を角で払い
飛車よりもむしろ角の活用を優先させる構えを見せます。
69手目▲5三角成。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: 銀、歩5
△羽生三冠: 桂、歩
渡辺竜王はその構想をすぐに実行。
とんとん拍子に角が羽生陣営へと駆け上がったかと思ったら
銀との交換でバッサリと切り捨てます。。
71手目▲4一飛成。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: 銀、歩5
△羽生三冠: 角、桂、歩
そして△70手目△同金と角を取らせている隙に
飛車が一本道を突っ走り、ものの見事に4筋突破
龍を作り、主導権を握った渡辺竜王。。
さらに、ここから休むことなく
△7五歩~▲2三銀~△同金~▲同歩成~△同玉~
▲2一龍~△2二飛~▲3五桂~
と怒涛の攻めをみせ、一気に勝負を決めにいきます。
96手目△2四銀。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: 香、歩7
△羽生三冠: 金、桂、歩3
渡辺竜王の猛攻にさらされながらも
しのいでしのいでしのぎまくった羽生三冠は
その対価として持ち駒が豊富に。。
反撃の味を残しつつ
4段目までつり出された玉の両サイドに角と銀
後方には桂馬、さらに1筋に馬も配置して上部脱出の視野に入れ
分厚い包囲網で敷き玉を守ります。。
106手目△7八歩。
上図での持ち駒
▲渡辺竜王: 桂、歩5
△羽生三冠: 金、銀、歩3
逆に持ち駒の少ない渡辺竜王は受けに回り
攻守交替となりましたが、羽生三冠も安易に駒を渡せず
互いに深く読み合い秘技を尽くしあう、難解で高度な終盤戦へ。。
【 投了図・119手目▲1六角 】
投了図での持ち駒
▲渡辺竜王: 桂、歩5
△羽生三冠: 飛、金、歩4
しかし、水面化で主導権を握っていたのは渡辺竜王。
羽生三冠の粘り強い巻き返しを振り切り、上図119手目をみて
羽生三冠、無念の投了。
この結果、渡辺竜王は棋王戦/本戦優勝。
羽生三冠は広瀬章人七段との敗者復活戦にまわり
この勝者と渡辺竜王があらためて棋王戦挑戦者決定戦を戦います。
本戦優勝の渡辺竜王は、1勝すれば挑戦権獲得。
敗者復活戦勝ちあがり者は二番勝負に2連勝で挑戦権獲得。
というわけで
棋王戦挑戦権をめぐる争いには、まだ続きがあります。。。