クリスマスイブの深夜、友人と遊んで帰ってきた娘に聞きました。
今日行ったの?、なんて言ってきたの?
実はきのう24日の午後、区役所に高額療養費還付申請に行ってきたの。
その日まで手続きをすれば来月末に振り込みます。って書いてあったから。
その葉書は22日に届いて、23日は休日だから混むのを覚悟してね。
抗癌剤を続けているとお金がかかる。
とくにアバスチンは一回で50万は軽く超える。
3週に一度だから月に2回って事もある。
治療ごとに会計に限度額認定の標準費用認定証を毎回みせて、
自己負担分しか払わないようにしてるから
治療そのものは上限しか支払わないけれど、そのほかにかかった薬代等の還付があるのです。
混雑を覚悟で窓口に行って呼ばれて。
座るところもないくらいなのだから、窓口の人の気持ちも分かる。
あ、高額療養費還付ね。って独り言を言って書類を持って来た。
『えーと。日本医科大学武蔵小杉病院ですね。あー、すごい金額が高いですねー。入院?え?通院?』
すみません。という。
みんなの税金をこんなにつかってごめんなさい。って言う。
『いやいやそんなこと言ってませんよ』
いいえ、あなたはこの間もそういいました。凄い金額ですね。って私に言ったとき、
私はその時もごめんなさい。皆さんの税金をこんなに使ってごめんなさい。って言ったんです。
でも。
私、がんなんです。
この抗がん剤がいま効いてるから生きているんです。
自然と涙があふれてきて震えてくる。
死んでいったみんなの顔が浮かぶ。
ほんとにごめんなさい。でも半年先はいないかもしれないからゆるしてね。
もうすこししたら死ぬかもしれないから、それまで許してね。
泣きながら書類に書く手も震えてさだまらない。
突然にその日休みで付き添ってきた娘が
『謝らないんですか?こんなに人を傷つけて、どう考えてもあなたの一言が母を泣かせているのに謝らないんですか?』と大声で泣きながら話す。
うしろから人が出てきてすみませんでした。という声を聞いて
その人が目を見ずにすみません。と言った。
家に帰って私の気持ちは落ち着いていたの。再度自分の病気の重みを考えさせられたけど、
世の中の人ってそうは思わない人もいるんだろう。
どんな治療をしたらこんな金額になるの?
そんな簡単な疑問だ。
でも娘の気持ちはどうしてもおさまらないようでね。
出掛ける途中区役所にもう一度一人で行って話してくる。
これはママだけのためじゃないよ。
あそこに行ってもう傷つく人がいないようにしなければいけない。ってプンプン。
主張を我慢することはないけど、ホントに行くの?って私は聞いたんだけどね。
で、深夜ちょいと酔いの回ってかえって来た娘に聞いたわけ。
『ここの場所にいた人とお話がしたいんですけど。って言ったらね。もう帰った。って言うんだよ。4時半だったけどね。じゃ、上の人をお願いします。って隣りの窓口の人に言ったらさ。
さっき、あとから出てきて先にすいません。って言った女の人が上司だったよ。
言ったよ。
母は毎月ここに手続きをすることが仕事だと言って、具合が悪い時も杖を突いてでも来てるんです。調子が悪い時があった時でも自分が行く。って言って出かけてきた。生きることをがんばった印であるみたいに来てたんです。それを紙に書いてある金額を見て、窓口の人が、高いですね。ってどういう意味でしょうか。母の命とこの金額を天秤にかけているんでしょうか。
そうですよね。ここの窓口に来るのはお客さんではありません。来なくたってあなたたちには痛くもかゆくもないし、仕事が増えるだけのものです。わたしだって友人に、あ、今の一言言い過ぎたなって事もあります。でも、あなたたちはそんな人を傷つける言葉を言っていいんでしょうか。
聞いてたら、これを言われたのは初めてじゃなくって前回も母は謝ったと言っていた。
母が謝る事なんでしょうか。
母はもう行きたくないな。って言いました。
あなたはそれがどんな意味か解りますか?
其れが意味することに想像ができますか?
ぼろぼろ泣いちゃったよ。ぜっかく化粧したのにさ。むこうの上司も泣いて謝ってたよ。
来月、もし母が手続きにやってきたなら、よくまた一ヶ月頑張りましたね。って思ってください。ここに手続きに来る人たちみんなはそんな気持ちで来てるんだということに気付いてください。って言ったよ。
大声でねっ(笑)
ママだけのためじゃないよ。区民のためだよ!あたりまえの常識だし、当たり前の権利だ。』
娘は普段、絶対に謝らない。
だって~。って言い訳から答えが返る。これは主人譲り(笑)
でもね、きょうあなたがしたことにママは気付かされたよ。
がまんする事だけがよい人間ということではないんだね。
小さい頃から欲しい物はひっくりかえって泣いてだだをこねる人だったけど、
私と共に患者家族歴を5年続けている間に、この子も強くなったんだな。って想いました。
その日はメリークリスマス。
意地を張った彼女からのママへのプレゼント。
我が家のクリスマスメニューは主人と息子が力を合わせてくれました。