「精神療法」  の続き


■予後


じゃあ躁うつの波は天性のもので、ずうっとあるんだから、薬をずっと飲まなきゃいかんとなると、薬漬けだ。煙草をやめられないのと同じで、薬をやめられないようになるか。そんなことはないんです。そうでない人もたくさんいるの。


さっき言いましたように、人にしてあげて自分がうれしいということ、それから気分屋的にこうしてみたり、ああしてみたり、講演会に出ても面白くなかったら我慢せんで途中から帰ったり、そういう生活をするとだんだん波が小さくなってくる。本質としては消えません。消えないけど、小さくなります。


つまり中学校や高校のときは、波があっても、病院なんかにかかってなかった。「この頃、調子悪いなぁ」と思っても、病院にかかってなかった。その頃のようになります。


だけど今度は違いますよ。中学や高校のときは「どうしてかなぁ」とわからなかった。今度はもう知識があるから、「ああ、うつの波が来とるねぇ」と、「もういっときしたら、これは過ぎるねぇ」と思っとけば、薬がいらないようになる。そういうことも多いのです。


そうなっている人が、昨日、親子で来たんですよ。お母さんは双極性障害でリチウム飲んでたけど、気分屋的に、外界に奉仕するような生活をするようになって、リチウムがいらなくなった。もう3年ぐらい全然飲んでなくて、「波がありますか?」と聞いたら、「ありますよ」と言うけど、薬を飲まなくて社会生活しています。


それで娘さんを連れてきた。娘さんも同じようにリチウムが200ミリ必要だったけれども、娘さんも同じ調子で、ワッショイワッショイお祭り人間みたいになるように指導したら、もういらない。


で、昨日来ましたが、そういう人たちは、やっぱり波があると体調が悪くなるんで、漢方をもらいに来るんです。そんなときに漢方をあげて、飲み方を教えてあげるの。そして漢方の使い方の素人向けの本があるから、それを紹介して、「薬が余ったらとっといて、誰かそんな人がおったら、ちょっと飲ませてごらん」とか言っておくと、飲ましてやったりして、「感謝された」とか言って、またそれが本人の精神的健康の源になります。


その娘さんもリチウムをやめて、もう1年。たくさんいますよ、そういう人が。バルプロ酸を飲んでた人でも、もう飲まなくなった人がいます。そういう人がね、「この人もそうじゃないでしょうか」と患者さんを連れてきます。誤診だったりするけど、そりゃ素人だからね。それは、少しでも人々の幸せに役に立ちたいと思う生き方。それが双極性障害の人の精神的健康法なんです。何か悩んでいる人がいたら、神田橋先生のところに連れて行ったらいいかもしれんと、「行きなさい、行きなさい」とか言って、誘惑して連れてきます。「私も行って、薬も全然いらなくなったから」と連れてくる。だから薬がいらなくなって来なくなった人が、他の人を連れて、また来たりします。そして「先生、こうですよ」とか、いろいろ教えてくれたりしてね。自然発生的フォローアップにもなります。


まあ、みんな大変です。添書を見たら「こんなに自殺企図を繰り返すようじゃ、入院させられません。病院に迷惑をかけるから強制退院」とか書いてあって、病院で、ガラスで手首をちょっと切ったり、病棟の2階から飛び降りて足を折ったりして、退院させられた人がいた。その人が、彼女の病気を理解できる男性にめぐり合って、最近、結婚式を挙げました。だんだんよくなってくるとうれしいです。


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これで、「双極性障害の診断と治療」のお話は終わりです。後、「臨床医の質問に答える 」コーナーがありますので、それもアップしたいと思います。







◎ この一連の記事はすべて神田橋先生の了承を得て載せています。