「面接」  の続き



■フラッシュバック


一言で言いますと、双極性障害が統合失調症と誤診された原因の大半は、フラッシュバックです。だから幻聴だと思ったときには、フラッシュバックではないかと考えてみてください。


フラッシュバックは中井久夫先生がおっしゃっているように、抗精神病薬が効かないんです。効かないものだから、「これは難治性の統合失調症だ」というので、どんどんメジャートランキライザーが増やされて、全然効かないんです。そのうちにあんまりメジャーが多いから自発性がなくなって、自閉的になって、能動性がなくなって、一見したところ、立派に慢性の統合失調症のようになります。なりますっていうか、悩む能力もなくなって、ぼうっとなりますから、後は作業療法やSSTをやらされています。


いちばんひどかった人は、あれには、私はいまだに怒ってるけど、東京のクリニックで何ヶ月か治療されて、「もうあなたは治らないから、郷里に帰りなさい」と言われて、職を辞めて、帰ってきた。それで「どういう病状があるんですか?」と聞いたら、「幻聴があります」と。「その幻聴は今もありますか?」と聞くと、「今もあります」と言うので、「どのくらいありますか?」と聞いたら、「だいたい1秒の半分ぐらいあります」と言う。ぴょっこさぴょっこさと、1秒の半分ぐらい聞こえる。そんな幻聴があるわけない。


なんでそれを東京のクリニックの精神科医は聞かなかったんだろうと思ってね。で、「どんな幻聴ですか?」と聞いたら、「悪口を言われます」と言う。そこまでは聞いたんだろうね。で、「誰がその悪口を言うんですか?」「前の職場の課長です」。課長からいつも「ばかたれ」とか「能力がない」とか悪口を言われていたのが、そのまま聞こえる。「他の人は言わないんですか?」と聞いたら、「他の人が言うことはありません」と言って。それはフラッシュバックですよね。ひどい話だ。


これは今、診断の話をしてるんですよ。さっきの14~31歳までの人もいっぱい幻聴があると思われて、治療されてきたんですが、それは何か。いじめなんです、いじめ。小学校、中学校時代のいじめでいろいろ言われているの。「お前は死ね」とか、「人間じゃない」とか、いろいろと同級生やなんかに言われているんです。それが幻聴になっちゃった。


だけど今、出ているフラッシュバックは、それじゃないの。ほとんどが精神病院に入院しているときに、看護師やお医者さんから「君はもうダメだ」とか、「君みたいな人が立ち直るということはないから、一生、生活保護で暮らすしかないよ」とか言われたのが、全部フラッシュバックで出てくるんですよ。そうすると腹立つし、でも怒って、恨み続けるのは双極性障害の資質の人にとって、もっとも不得意かつ不健康な作業なので、大変だし、かわいそうなんです。


どうしてそういうことが起こるかと言うと、これは覚えといてください。双極性障害につながるような性格傾向を持っている人は、相手に接近して行って、相手と融和しようとしますので、いじめに遭うチャンスが、チャンスっておかしいな、危険がすごく高いんです。すごく高い。だからノーベル賞の田中さんみたいな人だったら、あまりいじめられないと思うんです。いじめても、あっちに行ってしまって、面白くないから。


いじめてもすり寄ってくるような人になら、毎日、いじめる作業も日々新たです。うまく人間関系を作る能力があって、いじめる人になんとか同調しようと思って工夫して、また寄ってくるから、違ういじめをやって、とてもクリエイティブなんだね、いじめる側にとって。そのせいで、いじめの対象になっている人がたくさんいます。


このメカニズムは内省心理療法で悪くされてしまうのと全く同じ構造ですし、内省心理療法でいじめ体験がフラッシュバックすることも多いのです。


ですから小中学校でいじめの対象になっていた人を診たときには、この人はひょっとしたら、双極性障害なムードスィングがないかと検討してくださるといいと思います。


(つづく)











◎この記事を書くにあたり、神田橋先生の了承を得て載せています。