※年収4000万円Wさん(7) の続きです。
やがて、私が東京駅から乗った新幹線は××県に到着した。
長かった。やはり××県は遠い。それが率直な感想だった。
改札口を出るとWさんが迎えに来ていた。満面の笑顔で
「きららちゃん、時間通りだね」
彼は私の腰にそっと手を添えると
「車で来てるから」
と歩き出した。
駅の外に出る。
××県にはこれまでにも出張で何度か来ている。それでも私は、初めての街に来るように周囲を眺め回した。
周辺はにぎやかだ。東京とそれほど変わらない。
駐車場には黒いベンツが待っていた。
私たちはさっそく乗り込んだ。革張りの座席にそっと触れてみる。高級な革らしいひんやりと滑らかな触り心地だ。
「まずは病院を見てもらうから」
彼は言う。私は「はい」と答え、黙って窓の外を見ていた。
しばらく経つと車は高速道路に乗る。
「中心部からは少し離れているから」
走ること小一時間。
周囲の風景は海と山ばかりになってしまった。
「…キレイなところですね」
それは偽りのない感想だったが、東京から新幹線に乗ってきた私は、故郷からどんどん離れていく自分に言いようのない心細さを感じるのであった。
やがて、道路脇の電柱に、Wさんの病院である「W病院」の看板が目立ち始める。
そして角を曲がると、ついに見えてきた。
白い5階建ての病院が、広い敷地を贅沢に使って建てられていた。
「着いた。ここだよ」
「…大きな病院ですね」
「その建物が外来、そっちは入院病棟それに厨房」
Wさんは病院の駐車場に車をとめたままで説明した。
中には入らない。副院長が休日に突然女連れで現れたら問題があるのだろう。
「きららちゃん、料理苦手だって言ってたよね。結婚したらしばらく厨房に入って教えてもらうといいよ」
Wさんは楽しそうに言った。
私は…
故郷から離れ、しかも新幹線の駅からも遠い海と山ばかりの町。
知らない人の中、厨房で料理を教わる自分を想像した。
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