『頭のうちどころが悪かった熊の話』安東みきえ/理論社 | 砂場

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頭のうちどころが悪かった熊の話
理論社
安東 みきえ(著)下和田 サチヨ(イラスト)
発売日:2007-04-02



動物たちが主人公の短編が7つ。童話風のつくりだが内容は大人向け。『頭のうちどころが悪かった熊の話』では、うちどころが悪くて記憶を失ってしまった熊が主人公。唯一覚えているのは、自分にとって大切なのはレディベアだということだが……でも、レディベアって何だっけ? と求めて森をさまよい歩く話。ほのぼのしつつも皮肉が効いてて、でも笑えて幸せな気分が味わえる。とぼけた熊のイラストも内容にぴったりだ。

どの物語も短いのに読み応えがある。特に好きなのは『ヘビの恩返し』と『りっぱな牡鹿』。

ヘビの子供は自分の体よりも大きな卵を飲み込みたいのだけど、どうしていいか分からなくて困ってしまう。父ヘビは「カコの実」を食べてしまい、過去のことばかりに捕らわれて今の子へびにかまってくれないし、母ヘビは「ミライの芽」を食べたせいで、未来のことばかり考えて、子へびの今を考えてくれない……。

牡鹿のホーイチは仲間から頼りされている存在だ。動物たちは頻繁に人生相談にやってきては、ホーイチが何気なく発した言葉に好き勝手に意味を見いだして納得して帰っていく。そんな状況にうんざりしたホーイチは、意味というものを嫌って、意味のない行動をするぞと決心する。ヤカンを前にしたホーイチはどうすれば意味の無い行動になるか考えて、ヤカンを飼うことにする。そんな様子を心配した父鹿が現れ……。

バカバカしくも考えさせられる内容で、深刻なのに笑えてしまうという絶妙なバランス。