あいつはあいつは可愛い年上の女の子 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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WRITING ABOUT MUSIC IS LIKE DANCING ABOUT ARCHITECTURE.

スーちゃんの訃報を聴きキャンディーズのベストを聴き直しています。はっきりいって僕はシングル曲くらいしか知らない浅いファンですが今更ながらキャンディーズの楽曲が洋楽ばかり聴いていた僕の心の中のメロディとして深く刻み込まれていることに驚いている自分がいます。

そんなわけでいつものように尻切れになるかも知れませんがスーちゃんへの追悼の思いも込めシングル曲のご紹介をしたいと思います。

1973/9/1 あなたに夢中 (山上路夫/森田公一/竜崎孝路)
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記念すべきキャンディーズのデビュー曲。当時ランが18才、スーとミキは17才ですが、ジャケを見るとも少し大人の雰囲気がありますね。キャンディーズの3人はもともと東京音楽学院のスクールメイツの一員でスクールメイツもバックダンサーで出演していたNHKの「歌謡グランドショー」で番組のマスコット・ガールを作ることなり、スクールメイツの中から3人が選抜され結成されています。番組プロデューサーが「食べてしまいたいほどかわいい女の子たち」という意味合いの「キャンディーズ」というグループを決めています。同じくスクールメイツであった太田裕美も最終選考まで残っており、ひょっとしたら太田裕美入りのキャンディーズというのもあったようです。

マスコット・ガールということで番組内で歌を披露することもあったようですが当初は特にレコード・デビューといった話しはなかったようです。しかしながら渡辺プロでプロデューサーとして仕事を始めたばかりでなんとか売れるアーチストを育てたいと考えていた松崎澄夫が東京音楽学院でレッスン中の3人に目をつけ自分がプロデュースすることを申し出ます。現アミューズ社長の松崎澄夫ですが元々はアウトキャストというGSで轟健二という芸名でボーカルを担当していた人で、実はこのアウトキャストの人脈がキャンディーズの成功に大きく係わっていきます。

キャンディーズの多くの楽曲で曲作りやアレンジを行っている穂口雄右もアウトキャストでオルガンを担当していた人です。ある日穂口が松崎と喫茶店で会っていた時にTV(おそらく歌謡グランドショー」)で見た可愛い3人組のことを松崎に話しああいう3人組ボーカル・グループを松崎も作るべきだと提案したところ、実はお前が見た3人組をプロデュースしているのが俺なんだということになりおおいに意気投合し、穂口もキャンディーズに参画していくようになったようです。さすがに同じ釜の飯を食ったバンド仲間ということで感性が似ているのでしょうね。

アウトキャスト/のっぽのサリー

(日本のサイケ・バンドとして海外での評価も高いというのが分りますね、穂口のオルガン・ソロもすてきです)

ところでキャンディーズといえばNHKよりはドリフの「8時だョ!全員集合」の体操のコーナーにゴールデン・ハーフの後釜として出ていたことを記憶されている方も多いのでは。これも同じナベプロということでデビュー前に顔を浸透させたいという仕込みだったのでしょうね。

松崎としては穂口と一緒にという気持ちがあったと思われますが松崎同様に穂口も駆け出しの作家/アレンジャーですのでデビュー曲をいきなりというのは難しかったのか、結局は天地真理や小柳ルミ子というナベプロの看板歌手の作詞を行っていた山上路夫と同じく天地やアグネス・チャンの作曲をしていた森田公一という手堅い布陣での楽曲となりましたが、竜崎孝路のアレンジを含めアイドル歌謡のお手本のような楽曲になっています。特にラン、スー、ミキの三声による素晴らしいコーラス、歌唱力の問題でライヴなどではユニゾンで歌うことも多かったようですが、レコードに刻まれた音源については本当に素晴らしく、爽やかな印象を与えてくれます。

キャンディーズの「声」の魅力について穂口雄右は次のように語っています。

「ランは、時代を先取りしたリズム感、さらにアルトからソプラノまでをカバーする広い音域を持っていました。
スーは、サウンドを包み込む音色、安定した歌唱力、そして何よりも中音域での説得力が貴重でした。
ミキは、しっかりと音楽教育に裏打ちされた読譜力と絶対音感で、音楽的要になってくれました。」

「あなたに夢中」でデビューした当時は3人のセンターはスーちゃん(田中好子)でした。これは歌唱力がもっとも安定しているのとふくよかで健康的で明るい笑顔という当時としては王道の可愛い子ちゃんだったからだと思われます。ランちゃん(伊藤蘭)はコケットでニンフっぽいイメージが、ミキちゃん(藤村美樹)はボーイッシュということでいうなれば非主流派、しかしブレイク後はこの三人三様の魅力がファン層の幅を広げる結果になります。

メインはスーちゃんなのですが出だし”あなぁたぁ~が すぅ~き~”というランちゃんの声にやられてしまうランちゃん派の私でした。

1974/1/21 そよ風のくちづけ(山上路夫/森田公一/穂口雄右)
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2ndシングルの「そよ風のくちづけ」は作家陣は「あなたに夢中」と同じですがアレンジャーとして穂口雄右が登場します。「あなたに夢中」よりテンポをアップしおっかけコーラスを使ったこれまた典型的なアイドル歌謡。コーラスでいえば前作はビーチボーイズで今回はビートルズといった感じでしょうか(言い過ぎですか)。

ちなみに鳥肌音楽的ネタとしてはこの曲の元ネタはドリフターズの59年のヒット「(If You Cry) True Love, True Love」だといわれています。ナベプロの先輩と同じ名前のコーラス・グループからの引用というのがご愛嬌と言っておきます。

Drifters / (If You Cry) True Love, True Love


デビュー作の「あなたに夢中」はオリコン最高位36位で8万枚ほどの売上、「そよ風のくちづけ」は39位と少し順位を落としてしまいます。その打開策としてか3枚目の「危ない土曜日」では新しい感覚の作詞家である安井かずみを起用します。

1974/4/21 危い土曜日(安井かずみ/森田公一/竜崎孝路)
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初めての夜を迎えようとしている少女の不安と期待がないまぜになった焦燥感を描いた歌詞に呼応するかのように頭からブラスが響き渡る竜崎孝路のアレンジも攻撃的で一枚目二枚目とは違ったキャンディーズがいます。コーラスが今までのようにハーモニーではなくユニゾンをメインにしているのも歌の攻撃的な印象を高めている気がします。そしてコーラスを切り裂くかのように飛び出してくる”もぉ~っと もぉ~っと”ハイ・トーンのボーカルがこの曲の肝だと思います。これはスーちゃんの声じゃなきゃ成立しなかった名唱です。

名曲と思うのですがオリコン最高位は46位とさらに売上は伸び悩みます。アイドル・グループは売れないという当時のジンクスどおりの流れになってしまうのか。ここで松崎はどうせ駄目ならば自分の思い通りにやってやれと思ったのか4枚目のシングル「なみだの季節」からは盟友である穂口雄右を全面的に起用します。

青春歌謡っぽい「なみだの季節」(千家和也/穂口雄右/穂口雄右)が40位となんとか下降線を食い止めた穂口は5枚目のシングル「年下の男の子」でも作曲とアレンジを担当することとなります。

1975/2/21 年下の男の子(千家和也/穂口雄右/穂口雄右)
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当初製作スタッフから作曲家である穂口に伝えられた5枚目のシングルの方向性は「マイナーで青春時代の哀愁を表現する作品」という前作の「なみだの季節」を踏襲するものでした。自分が考えるキャンディーズ像とは違う要求に対して穂口は悩んだ末に、キャンディーズに本当は歌って欲しいブルー・ノートを使った当時としては斬新なアイドル歌謡の自信作「年下の男の子」をB面候補に、製作サイドからの要求であるマイナーな青春歌謡の「私だけの悲しみ」をA面候補としたテープを渡します。2曲を聴いた中曽根皓二ディレクターと松崎がB面候補の曲の方がいい曲だねということになり晴れて「年下の男の子」がシングルA面曲として世に出ることとなります。

中曽根ディレクターと松崎プロデューサーを唸らせた斬新な「年下の男の子」ですが現在我々が聞くことのできるバージョンとは違ったものだったようです。当初録音されたものはバック・トラックにポンタ(Drums)や岡沢章(Bass)といったメンバーが参加しており穂口曰く「全く日本とは思えない仕上がり」のバージョンだったようです。ところがそのテープを聴いたナベプロの社長渡辺晋の「これは歌謡曲ではない」という一言で発売ができなくなりそうになります。しかし松崎の「没にするのは忍びない」という判断から、通常の歌謡曲のセッション・ミュージシャンを急遽召集しバック・トラックを取り直し、なんとか発売にこぎつけたというのです。結果的には大ヒット(オリコン6位51万枚)したわけで渡辺晋社長の言葉が正しかったのかも知れませんが、取り直したバックトラックでも充分に当時の歌謡曲の中では洋楽テイストを感じさせてくれるものなので余計にポンタ、岡沢章という3年後に山下達郎と『It's A Poppin Time』という名盤を作り上げた二人による「全く日本とは思えない仕上がり」がどんなものだったのか聴いてみたい気がいたします。

さてこの曲からランちゃんがスーちゃんに代りセンターに移動しメイン・ボーカル的な位置についています。これはなかなか芽が出ないキャンディーズを生まれ変わらそうと考えていた当時のマネージャー諸岡義明のお姉さん的キャラで人気のあるランちゃんをセンターにしてはどうかという提案に基づいて立ち位置の変更とお姉さんというキーワードに合った楽曲作りが行われた結果でした。結果的にこの曲の大ヒットせいで解散まで基本的にはランちゃんのセンターという立ち位置が続くことになってしまいます。

この曲のエピソードとして、全ての録音が終わり締め切り間際にミックスをしていたところ、3人のボーカルでどうしても不満が残るところが見つかってしまい作業は行き詰ってしまいます。するとエンジニアの吉野金次(金次さんだったんですね!びっくり)が蘭ちゃんを呼ぼうといいだし、深夜にもかかわらずランちゃんに連絡しボーカルを録り直して締め切りに間に合わせたということです。それまでの民主主義的なコーラスから一転してランちゃんのボーカルが大々的にフィーチャーされることとなったのはこの録エピソードの影響もあったのでしょうね。

つづくかも

参考→Candy Base http://candies.sound.co.jp/index.html

PS. 大好きな「年下の男の子」をもう一回