僕の見たビートルズは30cm四方の中 レット・イット・ビー 補足 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

鳥肌音楽 Chicken Skin Music

WRITING ABOUT MUSIC IS LIKE DANCING ABOUT ARCHITECTURE.

ようやく終わったと思ったビートルズのジャケット特集ですが、最後を過去記事のコピペで済まそうとしたのがいけなかったのかいろいろ忘れ物があったので今日はその補足です。

まずはnot second time先輩からいただいたコメントの写真集つきのBOXセットについて。英国で最初に発売された『レット・イット・ビー』のアルバムはコメントにあるようなLP盤に写真集がついたBOXセットで1970年の5月8日に発売されました。日本も初回盤はこのBOXセットで6月5日に発売されているようです。

鳥肌音楽 Chicken Skin Music  

この初回盤の実物は残念ながらお目にかかったことはないのですが、写真を見る限り外箱は写真は一緒ですがジャケ上部の白抜きの「LET IT BE」の文字が無い、つまりアーティスト名もアルバム名も無いことが分ります。写真集にも何も書かれていませんがこの写真集は「The Beatles Get Back」と呼ばれていたようです。元々のタイトルはこんなところにも生き残っていました。写真集は164ページという豪華なもので中にはスチール写真と映画では使われなかった会話が掲載されていたようです。

ところでBOXの仕様なのですが上の日本盤の写真を見ると言葉通りの箱(底箱と上蓋があるものたとえば『ビートルズ物語』のような)のように見えるのですが、ebayから拾った英国盤の写真(↓)を見ると外箱は箱というよりはスリーヴのようなもののように見えます。実際はどんな形状だったのでしょうか?

鳥肌音楽 Chicken Skin Music

英国や日本その他の数カ国でこのBOXが発売されていますがアメリカではBOX仕様ではなく写真集なしのLPのみが5月18日に発売されます。写真集がない代わりなのか英国盤LPがシングル・スリーヴだったのに対して米国盤は内ジャケに写真集からの写真を数点掲載したゲートフォールド(見開きジャケ)になっていました。

$鳥肌音楽 Chicken Skin Music

日本盤も通常仕様(71年2月25日)は米国盤に準拠したジャケットになっていました。僕が持っていたLPも当然のごとくこの仕様で、not second time先輩も書いていらっしゃるように限定で当時としては高額(¥3900だったようです)だったこともあり、多くの日本人ファンにとって『レット・イット・ビー』といえばこの見開きのものなのではないでしょうか。久々にこの内ジャケを見ましたがジョンの横にしっかりヨーコが写っているのが(考えてみると)すごいですね。

ちなみに米国盤のアップルのレーベルの林檎は真っ赤な色になっています。発売の時点では解散が決まっていた(ポールの脱退宣言が4月20日)わけですから、林檎も熟しきっているということですね。忘れていましたが日本盤の裏ジャケのアップル・ロゴも赤でした。

$鳥肌音楽 Chicken Skin Music

余談になりますが映画「レット・イット・ビー」について。資料を見ると映画の公開はアメリカが70年の5月13日、イギリスは5月20日そして日本は8月25日でした。先ほども書きましたが4月の20日のポールの脱退宣言でビートルズは事実上の解散をしてしまっていたわけです。そして発売されたアルバムは(実際は逆なのですが)前作の『アビイ・ロード』の見事な完成度に比べるとラフで散漫なものである意味投げやりな内容に思えたのではないでしょうか。映画も後半のルーフ・トップのシーンこそ円熟したビートルズの貫禄の演奏が観れるとはいえ、そこにいたるまでのレコーディング風景は時に目を覆いたくなる暗い感じで、ビートルズは解散してしまったとういう事実を目の前で見せられているという気分になったのじゃないでしょうか?(追記:と書いた後で久々に映画を見直してみたらそんなに暗い感じではありませんでした。記憶と印象だけで書いちゃだめですね。)

$鳥肌音楽 Chicken Skin Music

この映画のクレジットは「APPLE an abkco managed company presents」ということでアラン・クラインはしっかりと自分の会社をクレジットに加えていますね、さすが抜け目が無いというか。未だにアップルからのソフト化が行われていない映画「レット・イット・ビー」ですがアラン・クラインが絡んでいたおかげで80年代に一度アブコによりVHSとレーザー・ディスクが発売されたことがありました。僕はコピーを持っているのですが当然のことながら字幕無しなので会話の内容がほとんど分らない状態です。なんとか正式リリースをお願いしたいのですが諸般の事情があり発売されないままになっています。ニール・アスピノールによると元のフィルムの状態が悪くリマスターに様々な問題があるとのことなのですが本当は権利上の問題がクリアしきれていないのではないかと想像します。

閑話休題。『レット・イット・ビー』のジャケに話しを戻します。裏ジャケの上部にキャッチー・コピーというかメッセージのようなものが書かれているのをご存知でしょうか?

$鳥肌音楽 Chicken Skin Music

写真では読みにくいでしょうがこう書かれています

This is a new phase BEATLES album ...
essential to the content of the film, LET IT BE was that they performed
live for many of the tracks; in comes the warmth and the freshness of a live
performance; as reproduced for disc by PHIL SPECTOR


「新たな段階に入ったビートルズのニュー・アルバム...」ですか。発売の段階で事実上の解散が決まっていたわけですから何ゆえこのようなメッセージを残したまま発表してしまったのでしょうか?ポールも”ビートルズのアルバムとしてははじめて、ジャケットの裏にちょっとしたデッチ上げがあった。あのころビートルズのメンバーはおたがいにとてもピリピリしていて、楽しいどころじゃなかったんだ。新段階に入ったビートルズのアルバムと書かれていたけど、あれくらい真実からかけ離れている文章はないよ。あれがビートルズ(がリリースする)最後のアルバムになるってみんなも分っていた」とインタビューで語っていますが、それだけビートルズの4人の手を離れたところで発表されてしまったアルバムだったということなのでしょう。

「the warmth and the freshness of a live performance」という部分もポールの元々の(『ゲット・バック』用の)アイデアをそのまま引用している感じで、スペクターによってオーケストラや女声コーラスが加えられたアルバムの内容を言い表しているとは言い難い気がします。

ただここに書かれているようにもし”熱く新鮮なライヴ活動”を行うという新しい展開があり、ルーフトップではなく実際のファンたちを目の前にしてスタークラブやキャバーンようなところで演奏することがあったなら、ひょっとしたらビートルズの解散というのは先送りになっていたのじゃないかなんてことを夢想してしまいます。

ONE AFTER 909 63&70


最後に『LET IT BE... NAKED』について少しだけ。

$鳥肌音楽 Chicken Skin Music

「ありのままのビートルズ。」というキャッチ・フレーズで発売された『ネイキッド』の日本盤ライナーでビートルズ・クラブの代表遠藤早苗氏はフィル・スペクターのプロデュースについてかなり辛辣なことを書いています。ポールは「ロング・アンド・ワインディング・ロード」にエコーやオーケストラ、女声コーラスを加えられたことに対して常々不満を抱き自分のキャリア最大の汚点と言っていた。スペクター版『レット・イット・ビー』を気に入っていたジョンとジョージだがジョンは『ロックン・ロール』のマスター・テープを持ち逃げされ散々な目にあったしジョージは2001年に『オール・シング・マスト・パス』をリマスターする際にスペクターのエコーを取り去った。スペクターは2003年に殺人容疑で逮捕された云々。

人殺しの悪人スペクターによって最高のバンドの音楽がめちゃめちゃにされてしまっていたけれど『ネイキッド』の発売よってようやくビートルズが本当にやりたかった音楽を聴くことができたといったような書きぶりになっています。僕はスペクターは大好きなので擁護をするわけではありませんが一言いわせてもらいます。

確かにポールは「ロング」について不満を漏らしていましたが、初心に帰ってスタジオで曲を作りライヴで演奏するという当初のコンセプトが4人の関係が悪化し崩れていく中、アルバムとしてまとめることに興味を失ってしまったのが他ならぬポールであり、すでにコンセプトは失われてしまった音源たちをなんとかサントラという形でまとめ上げてくれたのがフィル・スペクターだった。要はポールの手を離れまったく違うコンセプトのアルバムにすでになってしまっているですからそれを俺の考えと違うと非難するというのもなんだかなぁ。ジョンの場合は確かにスペクターによってひどい目にはあわされましたがそれでも『ロックンロール』にはスペクターのプロデュースした音源も残してますからスペクターのプロデュース自体に不満があったというわけでは無いと思います。ジョージにしても発売から30年以上たったアルバムですから『ビートルズ1』なんかと同様に現代的な音を作る中でエコーを外してみたといったとこでこれまた決してスペクターのプロデュースに不満があったというわけでは無いと思われます。リマスター盤のライナーの最後にわざわざスペクターへの感謝の辞を書いているくらいですからね。

『ネイキッド』はネイキッドだけでは何のことか分らないので便宜上『レット・イット・ビー...ネイキッド』となってはいますが僕はサントラの『レット・イット・ビー』と比較して聴くものではなく別物として聴くべきではないかと思います。間に「・・・」が入っているのもそんな意味があるんじゃないかと勝手に想像します。

比べるなとは言ってもどっちが好きかと問われればやはり中学校の時から耳馴染んでいる『レット・イット・ビー』の方が好きというかしっくりときます。『ネイキッド』の「レット・イット・ビー」を最初聴いたときに2番の途中から入るリンゴのシンバルの音にガクっと来てしまいました。冷静になって考えればあの”パシッ”という音が自然な音なのですがオリジナル版のエコーがかかった”バシッ~シッ~シッ”という不自然な音で聴きたいっとあわてて87年版『レット・イット・ビー』を引っ張り出したのを思い出します。

Let It be Naked________________________________________________Let It Be Original
-

そして何よりも曲順と会話。「ディグ・イット」や「マギー・メイ」がオリジナル版に収められているのはやはりサントラということで映画の内容を思い出させるような小道具として組み込まれたのだと思います。それは曲間に挟まれるおもにジョンによるジョークもしかりなのですが、「ゲット・バック」が終わった後の

"Thanks Mo"(Paul)
"I'd like to say thank you on behalf of the group and ourselves and I hope we pass the audition"(John)

”ありがとう モ(モーリン、リンゴの奥さん)”
”グループのみんなと自分の頑張りに感謝の言葉を言いたいです、それから僕たちがオーディションに受かりますように”

ジョージ・マーティンとの最初の出会いの時にマーティンから「何か気にいらないことがあったら言ってくれ」と言われてジョージが「あんたのネクタイ(が気にいらない)」といってデビューが決まったビートルズなのでラスト・アルバムの最後の曲の後にこのブラックともいえるジョークがあってこそのビートルズです。その意味からすれば『ネイキッド』に”ありのままのビートルズ”のアルバムではありえないと思うのですが、皆さんはいかが思われるでしょうか。

Get Back


おっとジャケについて書き忘れていましたネイキッドということで素の状態のフィルム=ネガを使ったと想像しますがちょっと安易なアイデアという気がします。あと地の色とか字体とか味気ない気がします。CDサイズなので仕方ないのかもしれませんね。