薬剤の耐性には、
・経口薬に対する肝臓の「代謝耐性」と、
・ターゲットとなる臓器そのものが獲得する(もしくはそもそも保有している)「組織耐性」
に分類できる。

経口投与された薬品は腸で吸収される。但し一部は全身に行き渡る前に肝臓で解毒され腎臓を介して
排出される。(自然物質由来も含め)合成された化学物質は身体にとっては「毒」だからである。

薬を分解する酵素の活性度は元々遺伝レベルの個人差がある。薬が効きやすい人や効きにくい人が
居るのはその為である。「代謝耐性」は肝臓酵素の活性レベルの「増強」だと考えられている。
薬の長期服用で効果が落ちたり、同じ効き目を維持するのに増量が必要になるのもこの為である。

経口投与となるTS-1やイレッサには代謝耐性も関係すると思われるが。ここでは広く普及する
点滴薬について議論する。直接血液中に投入する抗癌剤については「組織耐性」が問題になる。

例えばシスプラチン(カルボプラチン等他の白金製剤も同様であるが)は中心プラチナの両側
の塩基が「シス型」結合している。これがDNA2重鎖の両方にとりつき架橋を形成し細胞分裂を
阻害する。化学反応のポテンシャル自体には個人差は無い。薬剤がDNAに届けば一定の割合で
期待される反応が起きるはずある。

またパクリタキセルは細胞質の中の微小管、つまり「治具」に作用する。微小管は細胞分裂の際、
「ひも状」の手になり核の分裂を促進する。タキソールはこの微小管をムダに結合させ、肝心の
細胞分裂の際に材料不足にする事を狙っている。これも薬剤が細胞質の中に取り込まれれば反応
自体は起こると考えられている。

「抗癌剤が効く人or効かない人」の議論は重要なので別記事で述べる。ここでは「獲得耐性」
に絞って話を進める。すなわち「抗癌剤治療を2~3コース実施する事で多少効いていた薬剤が
効かなくなる事」として説明される場合が多い。これは本当だろうか?

例えば私には抗癌剤は良く「効いた」。しかし0.1%は生き残り「中心部だけから」再発した。
「耐性」の話をする際、しばしば「癌細胞に突然変異」が起こった、と考える様である。が、
私はそれには賛同出来ない。

一般に癌化は5回程度のゲノム的置換が重畳され起こるとされている。多くの癌は年齢に
よりリスクが上昇する。その程度が概ね年齢の4乗から7乗に比例している事からの推定である。
仮に、ありきたりな抗癌剤に相当な置換作用があると譲歩しても、DNAの化学ポテンシャルを
変えたり、細胞質の成分比率に影響するようなゲノム的な突然変異が起こる為には少なくとも
数回以上の「刺激」and/or「細胞分裂」が必要では無いだろうか?

足の速い肺癌ですら1回の細胞分裂に要する時定数は1ヶ月、乳がんなら100日である。
突然変異による「最初の1粒」が生成するのはどんなに控えめに考えても3~4ヶ月、
癌種によっては1~2年後の事である。

さらにその「1粒」が代々「耐性」を受け継ぎ観測に掛かる大きさ~Φ5mm程度になるまでには
25回程度の細胞分裂が必要である。一般的な肺癌の成長速度から考えても最低2年程度は
要する。さらにもう1歩の譲歩を加え、耐性を持った細胞が一粒でなく多数あり、それらが
一斉に成長を始めたと考えてもその「成長」が見えるのは「年」のオーダー以降である。

少なくとも私のケースや多くの再発例とはタイミングが合わない。