1996年(H8)11月に開始されたいわゆる「金融ビックバン」は、フリー・フェア・グローバルの三原則の金融市場改革を目指した。対象は、金融・証券・保険分野で、そのために外為法の改正も行った。
http://www.fsa.go.jp/p_mof/big-bang/bb1.htm

 内容的には1995年(H7)2月の日米包括協議の「金融サービス」に書かれている筋書きに近い。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/framework/pdfs/financial_9502_j.pdf


 1998年(H10)4月から外資の出入りが自由になり、またこの1998年(H10)4月までに、国際業務を行う銀行は8%以上、国内業務のみを行う銀行は4%以上の自己資本を積み増さないと、事業継続が出来ないという自己資本比率規制(BIS規制)の強化をおこなった。
 この結果、1997年(H9)春より、銀行は、資産の圧縮、つまり貸し渋りや貸し剥がしを行った。そして倒産が急増し、さらに不良資産を増加させ、金融危機をまねくことになった。
三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券の破綻をはじめとして、次々と企業が倒産して行く。1998年(H10)3月に1兆9156億円の公的資本注入、整理回収機構の設立を行ったが、10月に日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が破綻する。倒産件数・負債総額が平成9年より急増し、平成12年には約24兆円の負債総額のピークを迎えている。通常レベルに落ち着くのが平成16年である。
 政府は平成11年に早期健全化法を施行、金融機関に7兆4592億円資本注入したが、倒産件数と負債総額はグラフのようになり多くの企業が消えた。
 

 企業倒産件数と負債総額グラフ


方谷先生に学ぶのブログ-倒産件数負債総額

 ビッグバンのもう一つの改革、企業の会計基準の変更が、経営に大きな影響を与えた。退職給付会計(H10年度)、連結決算透明化(H12.3)、有価証券時価会計(H13)、減損会計(H18.3)など。とくに、退職給付会計は、確定型給付が債務になり、確定拠出型は運用を個人に任せるがその時点で支払う。問題は、会計上多額の債務になり、経営を圧迫した。


 平成9年4月に消費税を3%から5%に引き上げたことも、金融危機を拡大した。

 橋本内閣は、多くの構造改革、特に金融改革と消費税増税を同時に行った。この「橋本構造改革」は、金融危機、多くの倒産、そして15年にわたるデフレを継続させた。
その実態を一回目に示したグラフで確認して下さい。

http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-11625394981.html

 橋本構造改革を引き継いだ小泉構造改革は、最大の山場「郵政民営化法」を成立させ、年次改革要望書で強く要請されていた簡保の解体の道を開いた。政治的には大きな傷が残り、不安定な政権が続いた。


最終章「日米友好通商航海条約の改定」と「TPPへの参加」


 9月末、ある方の依頼で、文献を探していたら、TPPの調査を始めて「なぜ、日米通商交渉は条約交渉にならないのか」「MOUや一方的な行政命令で日本国内のルールが変えられてきたか」、その疑問を一気に解く資料に巡り会った。


発行元「国際経済交流財団」(Dewey & LeBoeuf LLPとの共同プロジェクト)
国際経済交流財団は通産省の外郭団体として設立された団体。下記解説・解説用資料を見ると通産省とUSTR・国務省の元官僚達の共同プロジェクトで、オバマ大統領と麻生首相への提言を行っていることが分かる。


日米共同政策提言:「日米関係の一層の強化について~新政権の新たな課題、新たな機会」

http://www.jef.or.jp/jp/press3.asp
報告書(日本語)
http://www.jef.or.jp/PDF/A_Joint_Action_Agenda(Japanese).pdf
報告書(英語)
http://www.jef.or.jp/PDF/A_Joint_Action_Agenda.pdf
(下記は上記共同政策提言のURLのリンクを利用して下さい)

解説
解説用資料


要約(主な項目抽出)
A.安全保障関係の強化
・米軍基地再編統合(普天間基地)
・ミサイル防衛計画
・日本の後方支援
・憲法9条と集団的自衛権
B.日米友好通商航海条約の改定
日米両国の規制を近づける
経済取り決めを制度化し法的拘束力を持たせる→野心的で長期的な単一市場創設
H.ドーハラウンド交渉の妥結に向けて
・個々の分野で協力
・ドーハラウンドの好ましい形の終結
I.日米経済の統合の促進
・両国の決定と協議は、日米双方の国民に知らされなければならない。同時に、両国政府は貿易および専門的な争点を不必要に政治問題化することを避けなければならない。
・高水準のEPA、利害関係者の理解、教育的・文化的交流の拡大、留学生の増加。
・民間セクター、非政府機関(NGO)、米国議会・日本の国会の各種委員会、場合によっては各県・州政府、地方政府などとも協議。
単一市場の創設へ
・アジア地域で両国がリーダーシップを発揮
J.アジア太平洋地域統合の促進
環太平洋戦略経済連携協定(TPP)に参加する
・技術を持つ移民の受入れや留学生、外国人研修生受け入れ
・アジアにおける国境を越える金融取引の効率改善
・アジア開発銀行の支援と増強
・ミャンマーに対する追加的経済制裁を回避、エリート層を富ませる闇市場を解消


 2008年12月9日の日米有識者の会議(畠山襄元通産審議官やBahtia GE副社長、ブッシュ政権時代のUSTR次席代表も参加)をまとめた資料。時期としては、オバマ政権発足前、日本は 麻生政権。内容的にはオバマ政権とのつきあい方の指南書のようだが、日米の経済統合を進め、日米がTPP参加をすることにより、APEC内の主導権を取ろうとしている。そのためには「日米友好通商航海条約の改定交渉」をやろうと言う提案だ。

 現在の条約は下記に示すように1953年締結のものであり、現在の日米両国の経済、貿易、交流などの両国民の行動並びに保護規定が書かれている。この条約が基準になっている。

 お互いに、条約改正の必要性を思いながらも、日米経済対話のような非公式交渉を行ってきた。共同プロジェクトに参加した元官僚達はお互いに交渉の従事者であった。リタイヤしてから日米通商交渉の根本原因を話し合ったのではないかと推測する。


 公式交渉に入れない最大の理由は、米国の憲法規定の「通商交渉権限が議会にある」こと、そして、TPA(貿易交渉権限)を大統領(USTR)に与えなければ、USTRは他国との交渉に責任を持てないことである。米国は、1990年代以降、TPAを利用して多くのFTAを締結した。しかし、日本、EU、ロシア、中国、インドなど人口大国や中近東諸国とは未締結である。


 この提言を読むと、4月12日佐々江・マランティス書簡の「法的拘束力」の意味は「日米友好通商航海条約の改定」すなわち「日米二国間交渉」が最優先であること、TPP交渉は「日米の環太平洋の市場支配」を目的とすることだと理解できる。米国内の手続として、大統領(USTR)がTPAを獲得しなければ批准の必要な条約交渉には入れない。下院議長宛の「日本TPP参加申請書」において、TPP交渉と二国間交渉を併記していることは、USTRがTPP交渉を利用して同時に「日米友好通商航海条約の改定」を申請したと推測する。
 
 未確認情報で2008年に日本が米国にTPP参加を呼びかけたという話があるが、この報告書がベースになっている可能性がある。


 まとめると、下記のストーリーになると考えられる。
1.日米間には1953年日米友好通商航海条約があるが、政治、経済、社会、科学技術の変革に対応出来ず、交渉官は通商条約の改定の必要性を感じていた。
2.特に経済貿易における不均衡是正を「日米経済対話」による行政手続で一方的に日本が譲歩して処理してきた。米国の通商交渉権限の憲法上の規定がUSTRと日本側との交渉を制限した。
3.1989年の日米構造協議以降、日本の非関税障壁を取り上げ、1995年からの年次改革要望書により日本の法規改正を含む内政干渉を行ってきた。
4.国内の構造改革派は、この要望に従い法規改正を推進してきた。独立国家の体をなしていない行動である。そして15年以上のデフレ経済を招いた。(彼らは、トロイの木馬に乗った兵士)
5.年次改革要望書と日米経済対話は、2008年世界金融恐慌の対応と、オバマ政権発足とその後の鳩山政権との意思疎通が途切れたことにより中断。
6.2009年11月オバマ大統領が東京でTPP参加表明、2010年春米国はTPP交渉に参加した。2010年には「日米経済調和対話」が復活するが、米国はTPP交渉での長年の懸案解決を提案したと考えられる。
7.2010年11月東京でのAPECで菅首相がTPP参加を口にした。しかし、2011年大震災の対応で中断。秋に野田首相が参加表明。
8.交渉担当の日本官僚達は、USTRと協議を続け、「日米友好通商航海条約の改定」の機会をうかがっていた。安倍政権を取り込み、TPP参加表明させ、TPP交渉と二国間交渉を開始した。
9.上記元官僚達の提言に見られるように、官僚達はUSTRとの長いつきあいで両国の経済・貿易の解決すべき問題を熟知していた。そして日本の官僚達はTPPの全てを知っているが、国民には知らしめずの姿勢をとり続けている。
10.その内容は、上記提言のように、国家統合に近い「経済統合による単一市場」を目指すことであるが、それを推進することは、米国の51番目の州になることと等しい。


最後まで残った謎が解け、2年にわたるTPP調査が終結に向かう。(完)


1953年日米友好通商航海条約は下記
外務省に条約の正文(スキャナー取り込み)があるが、東大田中研究室にテキスト化されたファイルがある。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPUS/19530402.T1J.html
その議定書
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPUS/19530402.T2J.html
WIKIの解説
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%B1%B3%E9%80%9A%E5%95%86%E8%88%AA%E6%B5%B7%E6%9D%A1%E7%B4%84


「年次改革要望書」の参考書
関岡英之著「国富消尽―対米隷従の果てに」「奪われる日本」「アメリカの日本改造計画」他