”黄金のバンタム”。世界バンタム級王者エデル・ジョフレ(ブラジル)が、世界同級1位ファイティング原田(笹崎)選手の挑戦を受けるためにやって来た。50戦無敗。47勝(37KO)。世界戦はすべてKO勝ちのV8。17連続KO中である。
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「果たして原田は何回持つのか?」。それも早い回で。これがマスコミ、関係者、ファンの大方の予想。この挑戦は、”無謀”とまで言われた。ジョフレは、パウンド・フォー・パウンド・ナンバーワンの評価を受けていたのである。
しかし、厳しいトレーニングを続け、過酷な減量戦にも打ち勝った挑戦者は、「ジョフレだって人間だ。同じ人間が、同じ目方で戦って負けるわけがない」と、激しい闘志を心に刻んでいた。
”黄金のバンタム”ジョフレvsファイティング原田
世紀の一戦のゴングは鳴る。そして挑戦者は、これまでの42戦=39勝(18KO)3敗=と同じように、元気よく青コーナーから飛び出し、”黄金のバンタム”へ挑んでいった。
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「作戦はいつも通り」と原田選手を送り出した笹崎会長は、愛弟子のいつもと変わらぬ攻めの姿勢を見て驚いたという。「あのジョフレに対して、本当にいつも通りダーッと攻めかかっていくとは」。
ジョフレ得意の固いアームブロックなどおかまいなしに強引に接近しては、左右フックを叩きつける。強打の王者に手数で対抗の挑戦者。しかし、王者は2ラウンドKOがキャリアで最も多い。3回。ジョフレの右がヒットすると、挑戦者の足元は揺らいだ。
だが、原田選手はよろめきながらもラッシュ攻撃を敢行。ピンチを凌ぐ。そして迎えた第4ラウンド。挑戦者会心の右アッパーが王者のガードの隙間から炸裂し、”黄金のバンタム”はロープまで吹っ飛んだ。
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信じられない光景。場内大歓声。猛攻の挑戦者。あと一発だ。しかし、王者は固い防御でこの大ピンチを乗り切った。日本の加藤副審はこの回5-3で挑戦者としている。
「いけるぞ!」
場内のムードが変わってきた。第5ラウンドが始まる。ジョフレの右ストレートから始まった逆襲に今度は原田選手が大ピンチ。的確な左右フックが顔面を捉える。さすがの挑戦者も必死のクリンチでこのピンチを脱出。だが、帰るコーナーを間違えるほどのダメージを被った。
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加藤副審、エドソン副審は揃ってジョフレの5-3とスコア。互いにピンチとチャンスが行きかう激しい戦い。
若い挑戦者は回復も早い。「もはやこれまで」と思われた6回。再び挑戦者は必死のラッシュ攻撃を見せる。「スタミナには自信があった」。以後も攻める挑戦者に対し、ジョフレが鋭いカウンターで対抗するという展開が続く。試合は消耗戦の様相を呈してきた。
こうなると若い挑戦者のぺースである。しかし、意地を見せるジョフレは14回を取る。「原田が勝っているのは間違いないだろう」と思われたが、オフィシャル2人は米国人。
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ラストラウンド。挑戦者は最後の力を振り絞りラッシュを敢行。貴重なポイントを奪った。原田選手のラッシュ戦法が、ジョフレに自分のボクシングをさせなかった。波に乗り切れないうちに試合が終わってしまった感があるチャンピオン。
場内は静まり返って判定を待つ。バーニー・ロス主審は71-69で原田選手。ジェイ・エドソン副審は72-71でジョフレ。残る日本の加藤正男副審は72-70で原田選手。2-1の判定で新チャンピオン誕生。”黄金のバンタム”敗れるは、世界を驚かすビッグニュースとなった。
「ジョフレだって同じ人間だ!」
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原田選手にチャンスを与えたのは、ロサンゼルスの大プロモーター、ジョージ・パーナサス氏。協栄ジム先代金平正紀会長が尊敬するこのボクシング界のドンは、「ジョフレを破るとするならば、原田のようなタイプ以外にない」との読みを持っていた。
その自らの読みを確かめる意味もあって、原田選手を挑戦者に選んだのだという。そして結果は、皮肉にもパーナサス氏の読みを証明する形になった。原田選手は左ジャブも良かったし、ボディも打った。しかし、何より凄いのが手数とスタミナ。
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ボクシングの相性。原田選手を一度は見事なカウンターでKOしながら王座を賭けた再戦ではかなわなかったジョー・メデル(メキシコ)。メデルを育てたルペ・サンチェスマネジャーは、「技術では絶対にメデルが上、自分の選手が勝てなかったのは原田のスタイルだ」としている。
そんな経験から、元サッカー選手ペドロ・フローレス(メキシコ)を育て上げる。そしてフローレスは、我らが具志堅用高(協栄)選手から王座を奪い去っていくのである。フローレスの武器は、手数とスタミナであった。原田選手を参考にしたのは言うまでもない。
”黄金のバンタム”ジョフレに勝った男は、凄いボクサーでした。その名はファイティング原田。