「坂田、立て~!」
大竹マネジャーの絶叫で我に返る。それは、信じられないシーン。凍りつく会場。その時、王者は「ゆっくり立とうと思った」と考えた。頭はシャープ。失敗しちゃったが、休んでから立とうと考える余裕があった。
写真は、Yamada Sumio
氏撮影。
だが、下半身がいう事を効かない。これは打たれた箇所の問題だろう。立てばすぐゴング。しかし、無常のテンカウント。坂田選手もあっけに取られている。
「これで終りですか?」
「俺、まだ、何にもやってないですよ」
涙が落ちる。喜びのデンカオセーン。こちらも涙。新王者を潔く祝福すると、前王者は観衆に深々と頭を下げた。もう足はしっかりしている。しかし、試合は終わったのだ。狙ったパンチだった。
「左フックから右。このタイミングだけを練習して来た」
午後3時前、控え室に入った坂田選手は気合十分。黙々とその時を待った。調子はこれまでで最高。コンディションは申し分なし。
当日の広島入りとなった私が、会場隣接のホテルへ着いた時、タイ側トレーナーの姿があった。一人、鋭い目つきで一点を見つめている。あァ、大きな勝負なんだなと感じる。
挑戦者は、両手の親指を異常にテーピングで固める。前戦で演じたオープンブローでの脱臼を気にしているのだろう。厳しい表情だが、時折口元をへの字に曲げたナーバスな表情を見せる。5時20分、王者よりも25分も早くグローブを着けたデンカオセーン。最初から飛ばして来るのだろう。
案の定、初回からビッグパンチを振るう挑戦者。「頭振って、スピード」が大竹マネジャーの指示。ラウンド中、声に反応するチャンピオン。
「いいよ上出来。ダウンしてないからな。(~~)1ポイント取られちゃったけど、大丈夫。あのボクシング、長いラウンド続かないから。パンチ、見えるだろ」
大きくうなずいたチャンピオン。そして、運命の第2ラウンドを迎え、突然のフィナーレ。リングに横たわる王者に、悲痛な声援が飛ぶ中試合は終わった。
歓喜のデンカオセーン陣営の一人一人と握手を交わす。とてもスポーツマンライクだったタイ陣営。挑戦者も苦節10年のタイトル奪取だ。
ホテルへ帰る車中は声もない。
「坂田、泣きたいのはよくわかる。チャンピオンになって初めて負けたお前もそうだけど、俺も、金元さんも今は気が動転してる。だけど、一番悲しいのはお前を応援に来てくれた人達だぞ」
「この5ヶ月間、厳しい練習してきた事に嘘はないんだから自信持て。お前がいつまでも悲しい顔していると皆をもっと心配させるぞ。もう終わっちゃったんだから気持ち切り替えろ坂田。元気な顔見せてやれよ」
「ボクシングの世界で生きている以上、勝ちもあれば負けもある。ショーじゃないんだから。俺達はその世界で生きているんだから。ショーじゃないんだ・・・」
大竹マネジャーの励ましに、うなずいた前チャンピオン。
「こんな時こそ、健史の側にいてあげたいと思います。だけど、大丈夫ですかねェ」
「頭の良い子だから、大丈夫ですよ」
遠路はるばる観戦に来てくれたファンから、TVで応援のファンの方々からメールが入って来る。
「泣けちゃいました」
この夜は、地元広島という事もあってか祝勝会の場が用意されていた。しばし与えられた、僅かな時間で、いきなり突きつけられた現実を直視しなければならない。大事な事は伝えたが、まだ心配な大竹マネジャー。
「サンちゃん、お前の試合見て泣けて来た人たくさんいるみたいだぞ。元気出せよ、大丈夫だな」
祝勝会転じ、激励会になってしまったが、元気な顔を見せた坂田選手。地元の人々、遠来のファンは安心したに違いない。その後は、大勢の友人達と師走の夜に繰り出す姿が。これなら大丈夫。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/a0/75/10125830291.jpg?caw=800)
そして、抜け殻状態のチームサイボーグ。心は泣いている。大竹マネジャーの後援者が残念会を開いてくれた。複雑な気分のまま、新年はやって来た。現実を直視し、受け入れるのは難しいものだ。
「物事っていうのは、いい方にも悪いほうにも転ぶ。だけど、その人の考え方次第だな」
広島護国神社へ初詣。人類史上初の被爆都市となった広島であるが、現在は立派に復興を遂げている。頑張らねば。新しいスタートだ。たくさんの暖かいコメント、ありがとうございました。また、厳しいご意見、参考にさせて頂きます。ご声援、ありがとうございました。
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