愛、アムール/愛溢れるが故に苦しくて哀しくて… | 調布シネマガジン

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$調布シネマガジン-愛、アムール

流石は名匠ミヒャエル・ハネケ。前作『白いリボン』も凄い作品だった今回も傑作。カンヌ国際映画祭では最高賞のパルムドールを、アカデミー賞では作品賞、主演女優賞、監督賞、脚本賞、外国語映画賞の5部門でノミネートされ、外国語映画賞でオスカー獲得。まさしくそれに恥じない作品だった。一組の老夫婦の人生の最後を静かに見つめながらも、人間の真実を描き出している感動作だ。

$調布シネマガジン-愛、アムール01ただ陳腐なお涙頂戴の感動作なんかではない。俺は観ている最中よりも、観終わって色々と考えを巡らしながら涙がこぼれ落ちてきた。ある日突然発作に見舞われた妻アンヌが手術の失敗で右半身マヒになってしまう。献身的に介護をする夫ジョルジュ。いわゆる老老介護というやつだ。今までできたことがある日を境にできなくなる。しかし頭は至って正常で体が言うことを聞かないもどかしさ。

ジョルジュの介護は当然だが、それすらも受け入れがたくなってしまう心情。お互いに愛を紡ぎ合いながらこの年まで生きてきて、相手の気持ちだって十分に解っているはずなのに、でもどうしようもない気持ち。一体どうしたらいいんだろう。見ていたって我々に答えが何か解るはずもない。いやこの老夫婦にだって解らない。こんなにも愛が溢れているのに、それ故にこんなにも辛いなんて。

言葉にし難いこの老夫婦の心情をジョルジュ役のジャン=ルイ・トランティニャンとアンヌ役のエマニュエル・リヴァは淡々と、自然に演じていた。一体どんなことを思いながら演じていたのだろう。いずれにしても断言する、オスカーは間違いなくエマニュエルだ。彼女の演技の前では受賞したジェニファー・ローレンスなどまだまだガキ、霞んで見えてしまう。役者の、というより人としての格が違う。

彼女のセリフで字幕で「痛い」と訳されていた部分が「ママ」と聞こえたのは俺だけじゃないはずだ。人は生まれて成長し、また赤ん坊へと戻っていくという。正にアンヌがそうだ。ママ、ママと縋るアンヌに昔の物語を聞かせてあげると静かになる。そして静寂のあとの衝撃。でも俺はそれに対して何も言葉を持ち合わせていない。自分だったらなんて考えは空虚でとても出来ない。

$調布シネマガジン-愛、アムール02この作品はフランス映画ではあるが、テーマは普遍的だ。誰にだって訪れる老いと死、それに対してどう対峙するのか。人生の終幕を自らの手で引けることは本当は凄く幸せなことで、いわゆる死ぬ権利すら持ちえない人も多くいるのもまた事実。普段はそんなことに思いを巡らせることはないけれど、いざ眼前に突きつけられると何も考えられない自分がいる。圧倒的な作品だ。凄い。

『愛、アムール』公式サイト

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ストーリー:パリ在住の80代の夫婦、ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)。共に音楽教師で、娘はミュージシャンとして活躍と、充実した日々を送っていた。ある日、教え子が開くコンサートに出向いた2人だが、そこでアンヌが病で倒れてしまう。病院に緊急搬送され、かろうじて死だけは免れたものの、半身まひという重い後遺症が残ってしまう。家に帰りたいというアンヌの強い願いから、自宅で彼女の介護を始めるジョルジュ。しかし、少しずつアンヌの症状は悪化していき、ついに死を選びたいと考えるようになり……。
(シネマトゥデイ)