草石のガチンコネット小説 -3ページ目

終わる世界 第16話

いつの間にか十時を回っていた。
することもないので川村さんの部屋に行こうかな、なんて思ったが
さすがに今日は朝まで起きていたようだし、
控えておいたほうがいいかな、と配慮した。
かと言って、高校生のカップルじゃあるまいし、
ましてや、カップルですらない僕たちにはこの部屋の居心地は
若干悪いのかもしれなかった。
みどりやにいこうかなとも考えたのだが、
ネンリンヤのバームクーヘンで意外にお腹いっぱいに
なったので(ちなみに3個入りで、田中さんは2個食べた)
さすがに選択肢がない。
そもそもこういったことの経験の少ない僕には
よいアイディアなどあるわけはなく、
かと言って、度胸や器量なども全くないわけで、
とどのとまり、どん詰まりで、
僕は横になりながら、
何度も読んで、ほとんど内容を覚えてしまっている
東直輝先生の「少年守護神」を読んでいる。
窓から入る日差しにポカポカしてきて気持ちがいい。
もう少しすると暑くなってしまうからな。
部屋の外は今日も静かで平穏だ。
(バイクのエンジン音とかは実際聞こえているのだけれど)
田中さんは、窓に布団を干して一息つくと
「うにゃー」
とか言って僕の横に寝そべった。
大の字に寝て天井を見ている。
僕は相変わらず本を読んでいる。
二人して天井を見るような形になった。
そして田中さんはするりと僕の近くに寄ってきて、
「何読んでるんですかー?」
なんて言って中身を覗いてきた。
ち、近い…
多分川村さんが変なことを言っていたので、
変に意識してしまっているんだろう。
髪の毛のにおいがふわっと香った。
何で同じシャンプーを使っていても、
女性と男性ではこんなに違うのだろう。
なんて考えていた矢先に、
部屋の扉がガチャリと開いた。
川村さんかっ!と、別に悪いことをしていたわけではないが、
飛び起きようとしたが、
扉が開くのが断然早かった。
しかも僕が変に慌ててしまったがために
田中さんにかぶさるような体型になってしまっていた。
そしてその扉を開けたのは川村さんではなく、
山木 透(やまき とおる)だった。
山木はすぐに扉を閉めた。
僕はすぐに扉を開けて山木を追った。
というかすぐ扉の前にいた。
「弁解をさせてくれないだろうか」
「大丈夫だよ、サカズキ君。
俺は君がどうこうなろうが、別に縛り付けるような
腐女子好みな関係ではないからね。
ただしかし、この場合俺でよかったんじゃないかな?
こんな世の中だ、是非施錠の習慣をお勧めするよ。」
「弁解を…させてもらえませんか?」

終わる世界 第15話

部屋に戻ると田中さんは部屋を掃除してくれていた。
「あ、おかえりなさーい」
笑顔で出迎えてくれた。
「ん、ああ、別にそんなことしなくていいのに…」
申し訳なく思い言うと、
「いえ、お世話になっているんだしこれくらいのことは!」
ニコニコしながら彼女は答えた。
屈託のない笑顔に卒倒しそうになりながらも、
さっき川村さんに言われたことを思い出した。
同情ね…
いったいどこまでが同情で、どこまでが優しさで、
どこまでがいやらしさなのだろう。
どこまでしてあげるのがその人の為で、
どこまでしてあげるのが自分の為なんだろ。
4月の山木のやったことや、
神ノ木茜が先月話していたことを思い出した。
僕の常識はどこにあるんだろう。
…僕にはわからない。
「じゃ、食べましょう!!ネンリンヤ!」
「ああ、そうだったね!はい、飲み物!」
ポンと手に持っていた飲み物を手渡した。
「…なんのいやがらせですか?」
田中さんは苦笑いに言った。
なんのことかわからず僕は首をかしげる。
よくみると、僕が買っていたのは冷たいおしるこ缶だった。
「初めて見ました…」
「ああ、ごめんごめん!」
よく見ると僕も同じものを買っていた。
ああ、あの時川村さんの話に夢中だったからな…
「でもいいです!甘いものは大好きなんです」
「いや、でも気持ち悪くない?今自転車で買ってくるよ!」
「大丈夫です!!早く食べましょう!
…おなか減っちゃいました」
はにかむ田中さん。
僕も微笑んでしまった。
そして、ネンリンヤのバームクーヘンが
主役ではなくなってしまうくらい、
おしるこ缶(餅入り)は甘かった。
結局口直しにお茶を買いに行ったのは言うまでもない。

終わる世界 第14話

ということで、そんなこんなで川村さんと二人きりの旅路になった。
川村さんは寝ていないのか、目の下に少しクマのような影が見えた。
川村さんはなにかブツブツしゃべっているがよく聞き取れない。
話したいときはしっかりと話すので特に気にすることはないのだけれど。
「ところでサカズキ君、田中さんはどうだい?」
急にはっきりと話し始めたので少しだけ面を食らった。
「え?随分不仕付けですね…どうって言いますと?」
川村さんはあざ笑うようにニヒルに笑うとこう言った。
「まさか同情していないよな?」
…僕はしゃべらない。
「ああ、別にメンヘラ女子の精神錯乱的戯言だと
そう思って聞いていただいていい。
少しでも君の耳に入れておけば、あたしは帰って安眠できるからね。」
…僕は図星をつかれたのだろうか?
続けて川村さんは話す。
「あたしはあんまりこういう話うまく伝えられないのだけれど、
手助け、って言葉は素晴らしいけど、可哀想、って言葉は
平等とは逆の言葉にあたると思うんだよ。」
自動販売機の前に来た。
二本ジュースを買うと、すぐに元来た道を引き返した。
まだ川村さんは話している。
「あたしはね、感情の起伏が非常に激しいし、
人との関わりはとても苦手だよ。
その点、サカズキ君の人に対する姿勢ってのは、
敬意を表するよ。
サカズキ君のやっていることや、決めたことに口を出すつもりもない。
ただ、一言だけ言わせてくれないか?」
少しだけ間をおいて、朝もやのかかる川原を横に
非常に艶っぽく言った。
「気をつけろ」