草石のガチンコネット小説 -2ページ目

終わる世界 第19話

ということで、ご想像に違うことなく、
花火大会に田中さんと行くことになった。
そんな気分じゃないと思ったけど、
やっぱり、そこは女の子だ。
「うわーい!いくいく!いきます!」
なんて大喜びしてせっせっと支度を始めた。
そこに川村さんがやってきて、
「昼間から随分景気のいい声が聞こえたものでね、
もう少しで、世界が私のものになるところだったんだが、
夢はこの後、続きを見るとして、
花火大会に行くのであれば、
浴衣は必要だろう。華ちゃん、ちょっとおいで。
サカズキ君…は言うまでもないか。」
といって、田中さんは川村さんの部屋に行った。
僕はカラーボックスをあさって、
黒字に紫の浴衣をチョイスして、グレーの三尺帯を巻いた。
下駄はヒノキの角ばったものを準備した。
夏場だしな…もう少し明るい色をチョイスするべきだったかな…
なんて考えていたら田中さんが帰ってきた。
田中さんは白地に薄いピンクの浴衣を着ていた。
もう少し髪が長ければ結うことも出来るのに…
という願望に駆られたが、
とてもきれいだった。
黒の漆の下駄を履いて、色っぽく見えた。
すると後ろから川村さんが入ってきて、
「どうかね、前回るろ剣のオフ会に着ていく予定だった、
薫コスを流用させてもらったのだよ。
ま、いつもコスを買って行った気になって、
オフ会にはでない私だ。
宝の持ち腐れという奴だ。
是非、花火大会を堪能してきてくれたまえ。」
実に川村さんらしい受け答えだった。
「ありがとう。川村さん。
それじゃ、行ってきます。起こしちゃってごめんなさい」
と、川村さんを部屋の前まで送ると、
川村さんは部屋に入りながら、
後ろ向きに手をふって中に入っていった。
なんか、すごくかっこよかった。
花火大会は、僕の住んでいる家からもう少し
都心から離れた山のふもとで開かれるようだ。
僕たちは電車を使い現地へと向かった。

終わる世界 第18話

どれくらい田中さんが泣いていたかわからない。
ただ、少しおさまってきたところで、
ふとさっきもらった封筒に気が付いた。
白い細長な封筒。
手紙をもらうなんて何年ぶりだろうか。
田中さんは窓から外を眺めている。
僕は丁寧に封筒の端から封を切った。
封筒の中身は手紙が二枚と、何かチケットのようなもの。
チケットが気になったので先にこちらから目をやる。
どうやら、花火大会の優待券のようだった。
というか花火大会に優待もなにもあるのか…
きっちり「神ノ木茜様へ」と書かれている。
そして手紙の内容はこうだ。

「こんにちは。神ノ木茜です。
手紙を書くのは初めてのことで、
若干緊張しています。
手紙を宛てたからには内容が必要なわけで、
伝えたい点が何点かあります。
もちろん電話で伝えることも出来たのですが、
透にお願いすることにもちゃんと意味があります。
きちんと最後まで読んでください。
今度チェックしにいきますからね。
私は今、
池袋で目下ちいさいおっさんを探しているわけですが、
いかんせん海がいないと非常に困難な状況になっています。
助けてほしい、
というのが本音ですが、
君をこちらに連れ出すことはややチートっぽいので、
あ、

…ちーとばっかしチートっぽいので、
やめておきます。
あーあ、どうして私にはその事件誘発体質がないのだろう。
非常にうらやましく思います。
海は今なにをしているのかな?
また、
みどりやで本ばっかり読んで、
下の川村さんとトランプばっかりやっているんじゃないかな?
毎日近くの川原の横の道でおじいちゃんみたいに散歩していないかな?
そうそう、
ワンピが長期休暇に入ったね。
一ヶ月だっけ?
とっても寂しいよね。
なんか、
ゾロが死んじゃうって噂がたっているけど、
私はそうは思わない。
まぁ。
ルフィが覇気を使いこなせるのは
想像付くけどねー、
私的にはコビーが強くなっててほしいかなー!

…あ、意外に長くなっちゃった。
仕方ないから二枚目に続く。」

なんだろうこの虚無感。
何を期待していたのか僕でも計りかねるが、
何か裏切られた感は否めない。

そして二枚目。

「二枚目書いてみて思ったんだけど、
ちょっと時間なくなってきてしまっているので、
駆け足で話すね。
海、座敷童って知ってる?
そうそう居るだけで、その家を幸せにする奴。
私思ったんだけどね、
『幸せ』の定義は人によって違うよな?
金があれば満足する奴、女が居れば満足する奴、
生きているだけで満足する奴、
誰かに認めてもらうことで満足する奴、
誰かを蹴落とすことで満足する奴、
悲痛に歪む顔を見て優越感に浸って満足する奴、
満腹になって満足する奴、
…そう、私が言いたいことは、
『幸せ』=『満足』という定義じゃないんだ。
その、満足がないことこそ幸せ、
とする奴でさえ居るんだ。
さっきの話に戻るけども、
実際にその座敷童がいると仮定するならば、
その座敷童は、
その対応する相手の望むことが何でもわかるってことだ。
そして、
誰かを幸せにすることが長けているならば、
誰かを不幸せにすることにも長けているということだ。
それって
すごく怖くないかな?
そして、それをやっている本人はどんな気持ちなんだろうな。
神にも似た感覚だと想像するね。
そういった、運命に干渉するタイプである、
まぁ、いい意味でも悪い意味でも因果がある、
透にお使いを頼んだのはそのためなんだよ。
ま、ちいさいおっさんのルーツが座敷童だと聞いて
ちょっとばっかし気になったもんでね。
それじゃ、精進しろよ。

PS,たまには花火くらい見に行けよ。
せっかくの夏休みなんだ。誰か誘っていけ。
一応ペアチケットだ。大人になってこい(笑)」

んー…
んんー…
これ、僕関係ある?
んー…

終わる世界 第17話

「ふぅん」
山木は怪訝そうな顔を浮かべている。
山木 透(やまき とおる)
身長約180cmの細身、ぼーっとしていて、
何を考えているか全然わからない。
気が付くとそこにいる。
気難しい性格、その割に人付き合いは良く、
友人はそれなりに多い。
神ノ木茜のいとこにあたる。
僕とは小学校からの知り合い。
馬が合わないのだがどういう訳か高校も大学も同じという、
なんとも言えない因縁がある。
「水面に浮かぶ蓮の花」という表現をいつか誰かがしていた気がするが、
こいつの顔を見るたびに実に的を射ていると思う。
ほぼ100%の確立で洋服はモノトーンでタイト。
特に黒を好んで着ているのだが、
考えてみたら僕が授業中に書いている落書きの棒人間に似ている、
と思ったら、なんだか滑稽に見えなくもない。
今日もまた、黒いジーンズに黒いロングTシャツ、
珍しく、黒ぶちの細身のメガネを着用のもと、
黒いレザースニーカーというファッションで登場した。
どなたか、お亡くなりになったのですか?
というようなファッション。
まぁ別にいいけど、どうでも。
「大体把握したよ。
全然女性として意識してはいないってことだな」
どうやらわかってくれたらしい。
「でも少し意識をし始めたら、
髪の毛のにおいとかも良く感じちゃったりして、
よく見たらちょっとかわいいじゃん、なんて思ったりして、
今晩二人きり…むふふ…ってことだな。」
わかりすぎている…
洞察力ってレベルじゃねーぞ、それ。
顔色一つ変えないで話す山木。
「山木君、全然わかっていないようだ。
僕は責任のある大人として、危険なこの町から守るために
かくまっているんだよ。」
そうだ、言ってみて気づいたが、
家出だと聞いて大人、年配の責務をまっとうしているに過ぎないんだ。
「責任のある大人なら、すぐにその娘を家に帰すべきだ。
その娘の親はお前みたいな大人がいてさぞかし迷惑だと思うよ。
それと、娘、お前の不幸は値段が付かない。
とるにたらないよ。家庭内暴力だかなんだか知らないが、
高校生だろ?高校生は子供じゃない。
自我をもった人間だ。たまたま、甲斐性なしの家にかくまって
もらってお前はラッキーかも知れないが、
こちとらアンラッキーだ。
お前をかくまうことは、こちらとしてはノンメリット、
むしろ、法律的にはデメリットでしかない。
それでもかくまうこいつのいいところっつーか、
下心っつーか、そういうもんに感謝してんのか?
常識に縛られろとは言わないが、
美徳に反した生き方をしてるんじゃない。
自分をご都合主義の正当化のレールにのっけているんじゃない」
…僕は何も言えなくなった。
田中さんは口を開いた。
「あたしだってこんなこと好きでやっているんじゃない!
あなたには家庭にぬくもりがないことや、
安心がないことの恐ろしさを知らない!!
だからそんなことを言えるんだ!!」
今まで見たことのない顔で声を張る田中さん。
「…ははっ、一丁前に感情あるような振りは心得ているんだな。
俺の用事は別に俺の人生論を討論しに来たわけじゃない。
こいつだよ、甲斐性なし君」
といって、僕に封筒を手渡した。
「茜から預かった、直接渡せって言ったんだけど、
なんかすっげー急いでいたみたいで、
これを渡すやいなや、風のように消えて行っちまった。
ま、俺もこれから用事だしそのついでだな。」
なんだろ?茜さんが?うーん。
「じゃ、またな。大人の甲斐性なし君」
嫌な奴だ。
本当に嫌な奴だ。
茜さんと血が繋がっているのか?
まったく嫌な奴だ。
扉がバタンと閉まり、階段を降りていく音が聞こえ、
バイクのエンジンが付く音が聞こえ、
だんだんとその音は遠ざかっていった。
その場で僕は座り込んだ。
その背中に田中さんはくっつき、
声を殺して、めいいっぱい泣いていた。
僕は…なにもできなかった。
なにも…できなかった。
なに一つ。