◎東京ジャズTokyo Jazz (Part 2) ~ルーファスとスガシカオとバカラックとの邂逅 | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◎東京ジャズTokyo Jazz (Part 2) ~ ルーファスとスガシカオとバカラックとの邂逅(かいこう)

【Rufus, Suga Shikao & Tower Of Power: Meeting With Mr. Legend】

コラボ。

毎年夏の終わりの風物詩になりつつある東京ジャズが終わった。怒涛の3日間だった。まず、ルーファス&スガシカオ周辺について書こう。

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金曜夕方。

金曜日(2012年9月7日)、ルーファスのリハーサルがあるというので、呼ばれて見に行った。今回はこのルーファスに日本からスガシカオさんがコラボ参加したが、そのきっかけを作ってしまったのが「ソウル・サーチン~スライ・ストーン」のイヴェントだったこともあり、とても他人事とは思えないので、こまめに現場に出向いた。

ご存知のように今年3月、「ソウル・サーチン第11回~トリビュート・トゥ・スライ・ストーン」のイヴェントを目黒のブルースアレイで行なった。このときに、スライ・ストーン大好きと広言していたスガシカオさんをお誘いした。嬉しいことにスガさんは見に来てくれ、さらに飛び入りでトークに参加してくれたが、そのとき楽屋で僕の友人の松浦さんを紹介した。松浦さんは以前からの知り合いで、最近はルーファスのトニー・メイデンらの日本側エージェント的な仕事をしている。そこで、そのときにトニー・メイデン&ルーファスと一緒にやることに興味があるかといった話がでたようだ。それがとんとん拍子に話が進み、東京ジャズでルーファスとスガシカオのコラボが実現したというわけだ。

そのときの様子↓
「ソウル・サーチン:ザ・セッション~スライ・ストーン・トリビュート」レポート(パート1)
2012年03月31日(土)
http://ameblo.jp/soulsearchin/archive1-201203.html

ルーファスの最新作「ライヴ・イン・トウキョウ」はすでに日曜日(9月9日)、「ソウル・ブレンズ」内「ソウル・サーチン」のコーナーでワールド・プレミアしたのはご存知の通り。

そして金曜夕方、ルーファスの面々とスガシカオさんもいろいろ大変ではあったが、きっちり音あわせをした。

その後楽屋のロビーエリアを通るとあの「ミスター伝説」バート・バカラックがリハ前にジャージとTシャツでいた。ちょっとした間隙を縫って声をかけ、ツーショットの写真を撮らせてもらった。いやあ、これは感激した。ミスター・バカラックに「ハル・デイヴィッドのことは大変ご愁傷さまです」というと、「9月21日にロスで追悼式があるよ」とおっしゃった。とても気さくな人だった。僕としては、この日一番のハイライトとなった。(その後、バカラックはホールAでリハーサルへ。そのあたりの話は別項でご紹介します)

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土曜日夕方。

午後、本ステージではテイク6、ベンEひとキング、バート・バカラック。(ライヴ評は後日) バカラックを見終えた後、6時くらいから別のリハーサル・スタジオでルーファス&スガ&タワー・オブ・パワーの二度目のリハーサルが行なわれた。

このときはスガさんの3曲「黄金の月」「正義の味方」「91時91分」をやるのだが、タワーのメンバーとは初顔合わせとなった。

これら3曲は事前にスガさんが先方(ルーファスとタワー)に数曲送って、そこから選ばれたもの。基本的なアレンジはルーファスがして、ブラス・セクションのアレンジはタワーが行い、そのあわせを土曜日夕方にやったというわけだ。

ルーファスのドラマー、ドネルはとにかくどんどん突っ走る。「黄金の月」はスガさんによれば「もっと抑制した感じでやりたいんだけど、(ドネルやトニーが)とにかくがんがんノリノリになっちゃう」と笑う。ここで聴いた限り、かなりファンキーでいけいけなのりの曲になっていた。

大音量の中続くリハーサルを聴いていると、ルーファス、タワーのバンド・サウンドに日本のスガシカオが入っているのが、おもしろく感じられてくる。彼も言っているが、土台がルーファスの真っ黒さ、上物(うわもの)がタワーの白っぽさ(黒人音楽をベースにしつつも、白っぽさが出るという意味)、そして、どちらでもないスガシカオのギターとヴォーカル。

特に英語タイトル「Super Hero(正義の味方)」と「9191(91時91分)」は、ジェームス・ブラウン・ファンクをベースにしたもので、ルーファスやタワーお手の物という感じがして、ものすごくスガ・コラボがあっていた。

タワー・オブ・パワーは、本ソウル・サーチンのライヴ評でも何度も書いているが、そのルーツにジェームス・ブラウンがどっしりといる。そのブラウン・ファンクとその他のブラック・ミュージック、R&Bのファンクをベースに、サンフランシスコで独自のタワー・オブ・パワー・ファンクを40年以上前から作っている。

スガさんのこれら2曲がジェームス・ブラウンをベースにしたようなファンクになり、バンドはどんどんと熱くなっていった。

そんな中、リハーサル・ルームの扉が開き、驚くべき人物が中に入ってきた。

なんとあのミスター・バート・バカラックだ。息子のオリヴァーを伴い、ジャージとTシャツなラフな姿で登場した。本番ステージを終えて着替えてからやってきたのだ。ちなみに本番はジーンズにジャケット、中はTシャツだった。

それを見て、僕はミスター・バカラックに椅子を提供し、「どうぞ、お座りください」と言うと、右手を振りいらないというしぐさを見せ、立ったままでバンドの演奏を見ていた。どうやら、このルーファス・バンドに興味を持ったらしい。まだ、メンバーやスガさんたちは、バカラックが来たことに気づいていない。

僕はちょうどバカラックの本番を見て感激していたので、「素晴らしいステージでした。特に『アルフィー』をあなたが歌ったところには感激しました」というと、「おお、そうか、サンキュー」と一言。あまり多くを語らない人だ。

バンドはさらに別の曲のリハーサルに入る。バカラックはずっと立ったままで見ている。途中でちょっとミネラル・ウォーターを後ろに取りに行ったが、またステージを見ている。

僕はバカラックとこうしたファンキーなバンドという組み合わせが頭の中でどうしても整合性がとれず、しばらくしてから思わず尋ねてしまった。

「あなたはこういう音楽がお好きなのですか? Do you love this kind of music?」 Like ではなく、Loveで様子をうかがった。するとニコニコしながら、好きか嫌いかではなく、「I appreciate it(鑑賞するよ、聴くよ、評価し、理解するよ)」とずばり一言が返ってきた。もうこれ以上の完璧な答えはありませんね。(笑) 

そして、ちょうど「スーパー・ヒーロー(正義の味方)」のところだったので、「この曲は真ん中の日本人シンガー、スガシカオが書いた曲なんです」と伝えた。

一曲終わると、みんながバカラック御大の登場に気づき、一斉に近くによってくる。それぞれが話しかけ、共通の友人の話をしたり、写真を撮ったり。ミスターBはひじょうに気さくで、誰とでも写真をOKする。とてもごきげんでこの空間を楽しんでいるようだ。

トニー(・メイデン)かミッシェル(トニーの奥さん、マネージャー)との会話だったが、「本番はいつだ?」とミスターBが尋ねる。「明日日曜アフタヌーン(午後)です。たしか3番目、3時ごろです」と答える。「じゃあ、見に行くよ」 一同「本当ですか」という感じで、半ば半信半疑で驚いた。社交辞令じゃないかと思った人もいた。

どうしても、僕の中ではさっきまでホールAで静かに聞き入っていた「アルフィー」や「ア・ハウス・イズ・ノット・ホーム」などと、ルーファスの「エイン・ノーバディー」がひとつにならない。

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土曜深夜。

土曜日、ホールAでのジョー・サンプル、小曽根真らの本番が終わってから、ルーファス、タワー、スガシカオがホールでの最終リハーサルを行なった。

しかし、エンジニアが配線を変える、元に戻すなど、ドタバタが続き、結局リハーサル音だしが終わったのは午前2時前のこと。長い一日だ。そして翌日(いや、当日・今日)は12時集合。

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日曜午後。

バルカン・ビートボックス、タワー・オブ・パワーに続いて、15時30分、ルーファスがホールAに登場。一音でた瞬間から客席、半分以上が立ち上がる。ルーファスのヒットを4曲やって、トニーが「スガー!」「スガー!」とスガシカオを呼び込む。スガシカオのファンが一斉に歓声をあげる。

まず、「黄金の月」が始まった。リハとは違って、スガさんのリクエストがうまく通じたのか、前日とは打って変わって抑制した「黄金の月」になっていた。これが終わり、次の曲のイントロでスガシカオはマイクを持って叫んだ。

「今日はファンク・マスターたちが集まっています。僕は18からファンクを聴いてきました。今日そのファンク・レジェンドと一緒にやれることは、日本のファンクの歴史の一ページになるでしょう。みなさんはその生き証人です」といって2曲目「スーパー・ヒーロー(正義の味方)」を始めた。タワーのホーン・セクションは、まさにJBズさながらだ。

続くジェームス・ブラウンの「コールド・スウェット」「マザー・ポップコーン」あたりを思わせる「9191(91時91分)」も、ルーファスのど黒いファンク・ベース(土台)にタワーのファンク・ホーンが気持ちよく乗る。これらを聞いて、ルーファスも、タワーも、そして、スガシカオもまさに生粋の「ジェームス・ブラウン・チルドレン」だな、と思った。

そして、タワーのリード・ヴォーカル、ラリーが次のヒット曲「ドゥ・ユー・ラヴ・ホワット・ユー・フィール」を歌い、全員でアンコールへ。途中のトニーとスガのギター・バトルもかなりかっこよかった。

果たしてミスターBは、客席で彼らのステージを楽しんでいた。どうやら息子と二人だけでホテルからこの会場に足を運んだようだ。本当に来たんだ。

それにしても、ルーファス、タワー・オブ・パワーの組み合わせもすごいが、そこに日本のスガシカオが一匹侍として乱入している姿もすごい。いわば、ファンクという完璧に相手の土俵、アウェイに道場破りに向かっているわけだ。こういうことが可能な東京ジャズというイヴェントは実にエキサイティングでおもしろい。

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日曜夕方。

ライヴが終わると、出演者たちはステージ袖で当日生放送されていたNHK-FM用のインタヴューとその後テレビ放映用のインタヴューを受ける。ラジオはそのまま生放送されたのでお聴きになられた方もいるだろう。テレビ用のものは後日NHK-BSで放送されるときに紹介される。

そのインタヴューが終わりしばらくすると、なんとミスター・バカラックが楽屋裏に登場した。ジャージとTシャツだ。どうやらなんとミスターBがスガさんに会いたがってるらしい。スタッフがスガさんを探しに行くと、ちょうどスガさん登場。

「セカンド・ソング(2番目の曲)がよかった」とミスター・バカラックがスガさんに言う。2番目というと「スーパー・ヒーロー」か。スガさんはそれを聞いた瞬間「あれって3コードのシンプルな曲であんまりメロディーとかもないんだけどなあ」と思ったらしいが、すぐ丁寧に「ありがとうございます」と言い、さらに質問をした。

「どのようにしたら、あんなに世界中の人を感動させられるいい曲が書けるのですか?」 通訳の人が訳すと一言返ってきた。「You’re doing it(もう君はできてるよ)」 でたああ! ミスター・バカラックからの強烈な一言コメント。バカラックからのお墨付き! これはすごいなあ。

スガさんが大興奮になったことはもちろん、周囲でそれを聞いていた日本側スタッフも一斉に「おおおっ」と歓声をあげた。

その後、ルーファス・メンバーの楽屋にスガさんが出向きおつかれさまを言いながら、最新の配信新曲のサンプルCDをメンバーに配り、ルーファスのCDにスガさんがメンバーからサインを貰っていた。すると、ルーファスのメンバーがそのスガ最新曲にサインをねだり、お互いサイン書き合い会となった。「またぜひ何か一緒にやろう」とか、ラジオのインタヴューでも「スガのためにもう曲を書いた」とトニーが言ったり、もはやルーファスとスガはファミリー感覚だ。

その後、ルーファスのメンバーは、今回の来日にあわせて作ってきた『ライヴ・イン・トウキョウ』のCD販売とサイン会に1階に出向いていった。

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楽屋。

その後一段落して、僕はスガさんの楽屋に行き、おつかれさまとあいさつ。リハから本番までのいろいろな話を聞いたり雑談をした。1980年代のおしゃれ系ブラコンがダメだという話、日本のファンクの歴史の話などがじつにおもしろかった。

そんな中、英語のタイトル「9191」ってどういう意味なんですか、と尋ねると「これは、91時91分ということで、16時16分を指してるデジタル時計を喧嘩してほおり投げたらひっくりかえって9191になった、という曲なんですよ。それで世の中には、逆から見ると別の世界があって、裏も表も違うっていうことなんですけど…」「へえ、おもしろ~い。それって、じゃあファンの人はみんな知ってるんですか」「いやあ、あんまり伝わってないかも(笑)」

「今日、エスペランザ見たいんですよね。とにかくこの人、めちゃ評価高いですよね。なんでなんだろう。それをちょっと確かめてみたい」とスガさん。ちょうど6時少し前だったので、6時から客席で見ることにした。

エスペランザは超絶だった。それ以上に、とにかくかわいかった。「いや、あんなにベース弾きながら、あのヴォーカルできるなんて、すごいね」とスガさん感心しきり。そのライヴ評はまた改めて書くとして、ルーファス、タワー・オブ・パワー、スガシカオのユニークな三位一体は、確かに彼が言うとおり、日本のファンクの歴史の一ページを飾ったと言っていいだろう。

そして、もうひとつ、「どうやらバート・バカラックはファンクが好きらしい」という新たな都市伝説が生まれたことも忘れられない。

(東京ジャズ Tokyo Jazz についてはまだまだ続きます)

■ スガさんすでに自分のブログで今回のライヴについて書いています。当人の視点からの「東京ジャズ」

012年09月10日(月)
東京JAZZで、バート・バカラックに呼び出しくらった件。
http://ameblo.jp/shikao-blog/entry-11350905595.html
とても素晴らしい文章です。

■ルーファス最新作『ライヴ・イン・トウキョウ』を紹介する「ソウル・サーチン」ポッドキャスト(2012年9月9日放送分)期間限定でアップ。
http://soundcloud.com/soul_searchin_8/soul-searchin-2012-09-09-world#

■東京ジャズテレビ放映予定

東京ジャズ、テレビ放送はNHK BSプレミアム2012年10月16日(火)23:45 ~25:14 10月23日(水)23:45 ~25:14 10月30日(木)23:45 ~25:14 とのこと。詳細は後日発表。

■ 「91時91分」オリジナル収録

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「正義の味方」オリジナル収録

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ルーファス~ライヴ・ベスト 「エイント・ノーバディー」収録

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■メンバー

Tony Maiden (Founding member, guitar, vocal)
Kevin Murphy (Founding member, keyboards, vocal)
Amanda Maiden (Vocal)
Valerie Davis (Vocal)
Donnell Spencer Jr. (Drums)
Robert “Pee We” Lee Hill (Bass)
Michiko Hill (Keyboards)
Michael Stever (Trumpet, Keyboards)
Donn Robin Wyatt (Keyboards)
Leonard Castro (Percussion)

Tower Of Power Horn Section

Emilio Castillo (Leader, Vocal, Sax)
Stephen “Doc” Kupka (Bariton Sax)
Adolfo Acosta (Trumpet)
Tom E Politzer (Sax)
Salvator Cracchiolo (Trumpet)

Featuring Guest:

Suga Shikao (Guest Vocal, Guitar)

■ セットリスト
Setlist : Rufus Featuring Suga Shikao & Tower Of Power
September 9th, 2012 @ Kokusai Forum Forum A

show started 15:30
01. Once You Get Started (Tony)
02. You Got The Love (Amanda)
03. Ain’t Nobody (Valerie)
04. Sweet Thing (Amanda)
05. Golden Moon (黄金の月) [+Suga Shikao]
06. Super Hero (正義の味方)[+Suga Shikao, +Tower Of Power Horn Section]
07. 9191(91時91分) [+Suga Shikao, +Tower Of Power Horn Section]
08. Do You Love What You Feel [+Larry Braggs]
Enc. Have A Good Time [All]
Show ended 16:22

(2012年9月9日日曜、東京国際フォーラム・フォーラムA、東京ジャズ、ルーファス&スガシカオ&タワー・オブ・パワー・ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Tokyo Jazz 2012> Rufus, Tower Of Power, Suga Shikao)