職業倫理とプロ意識 | ミラノの日常 第2弾

ミラノの日常 第2弾

イタリアに住んで30年。 毎日アンテナびんびん!ミラノの日常生活をお届けする気ままなコラム。

今週はどうも気分がぱっとしない。何が問題なのだろう、と考えていたら思い出した。ある事を見てしまったからだ。
 
それは火曜日、長男の高校の役員選挙の帰り道に起きた。たかだか選挙で直ぐに帰れず学校に2時間近くも居残っていた。帰りがけ次男に頼まれていた買い物があったので、そのお店近辺を通る普段乗っていないバスに乗り込んだ。
 
始発であり、座った途端後から来たバスに乗客は移動するよう言われ、そちらへ乗り込んだらすでに満席で立つ羽目に。幾つかの停留所を過ぎ、トラムの路線と交差する停留所からある親子が乗ってきた。小学生と幼稚園生くらいの男子と母親の3人。人種差別ではないが母親はベールを被っていなかったが多分エジプト人。
 
弟の方が何か大騒ぎをしていた。ふと前方を見ると、運転席にその子供が入っているではないか!勝手に入ってしまったのか?と思ったが、運転手はその子供を外に出そうとしない。どういうこと?
 
運転手は右側にいた子供の体を右手で抑えつつ、左手でハンドルを握り、子供もハンドルに触れていた。運転手のキャビネットの外側から母親も子供の体を抑えていたが、万が一急ブレーキをかけようものなら、子供はフロントガラスに突っ込む可能性も大きい。もちろん、バスは移動中の出来事だ。
 
「ちょっとどういうこと?」「危険じゃない?」周りに聞こえる声でいってみたが、それに気づいた人はただ肩をすくめるだけで、賛同の声はなかった。
 
「運転したよ!僕、バスを運転したよ!」と叫ぶ子供。それでも周りは全く反応なし。母親は子供を運転席から出そうとしたが、子供は大声で抵抗。そこは大泣きしても無理やり出すべきでしょ!結局そのまま中に居残り、ハンドルを握り続けること数分。2つか3つ停留所を過ぎ、彼らは私と同じところで降りた。降りる時、運転手は兄の方になにか声をかけ「本当?」と何か大喜びの状態だった。私は外からバスの前まで進み、運転手の顔を見、バスの番号を控えた。
 
運転手はとても優しそうなまだ若い男性で、いい笑顔で「チャオ!」と子供に手を振っていた。けれど、それとこれとでは状況が違うだろう?運転手が寛容で私が狭量なのか?また周りの無関心さにとてつもなく気落ちというかもやもや感が残った。だが、黙って見過ごすわけには行かない。
 
だいたいバスやトラム、地下鉄などには、「公共交通機関の乗客のための行動規則」というのが書かれてあり、運転手に話しかけることも、職務から気をそらすような行為も禁止されている。
 
個人の車ではなく、公共の車両だ。私たち乗客は運転手に命を預けているのだ!たまに運転の荒いバスに遭遇することがあるが、運転手の暴言は聞いたことはないが日本ではたまにあると聞く。以前、日本の一般のバスに乗っていて、停留所案内のテープと同時に、ブザーを鳴らしたら「押すのが早いんだよ!」と運転手にマイクで文句を言われたことがある。悪かったね!せっかちで!!
 
それにしても周りに通報すべきだ、と言われ、どうしたものか...と思っていたが、ATM勤務の友人にも話したら、彼もすぐに通報しろ、と言った。市内ののATM Pointへ行き、報告することも可能だが、待たされるだけ待たされ、対応によってはどうなるかわからないケースもなきにしもあらずだから、ホームページに直接書き込むべきだと言われた。ちなみに動画ではないが、後姿の画像を撮っていたが、それでは確実に報告が出来ないし、プライバシーの問題もあるから敢えて送る必要はないと言われた。
 
さて、すぐにメモを書いてみたが、うまく伝わるかどうか、最近授業以外にも個人的に私のイタリア語のチェックをしてくれている先生にメッセージを送ってみた。すぐに返事が来たが、実際バスは移動中だったのか、信号待ちだったのか?状況によっては運転手に対する対応も変わってくるから慎重に、と言われ、事細かく内容を確認された。
 
事の詳細。そして私たち乗客はある意味、運転手に命を預けているのだから、職業的責任感を全うしてほしい。この報告がATMのサービス向上に貢献してほしいと書いた。
 
数日後ATMのホームページに送信。なんとその2時間後に返事が来た。
 
そこには、ATMは常に専門的養成プログラム及び人事構成をしているとのこと。それでありつつも、こういったケースを遺憾に思い、そして所属担当に調査を依頼したので、迅速な対応、そしてさらなるサービス向上に努力に徹する旨書かれていた。
 
職業倫理というものは、あらゆる職業において、その仕事を全うするために必ず持っておくべき考え方であり、人と人との信頼関係を継続させるためにも不可欠なものであろう。
 
確かにATM勤務の友人の話を聞いていると、内部での養成コースは非常に厳しく、特に安全に関する知識、技能の研修は皆みっちり受けているはずだ。バス企業において一番重要なのは「無事故」。それは経営側から、運行管理者、運転手まで徹底した意識を共有してもらわないといけない。だからこそ、「安全」は最優先してもらわないといけないのだ。
 
場合によっては、この運転手は厳しい処分が下されるかもしれない。本当に報告して良かったのだろうか?運転手の笑顔が浮かび、逆に罪悪感も感じ、イタリア語の先生にメッセージを送った。けれど、それこそ「市民の意識」だと言われ、自分で納得するようにした。
 
ちなみに、上記ATMの友人に以前、バスで迷惑行為をしていたアラブ人男子二人に私と友人とで注意をしたところ、逆に逆ギレされ怖い目にあわされた事を話したら、今後そういった事に遭遇したら48時間以内にATMに通報すると監視カメラで犯人を確認、検証することができるということだった。しかし、それは犯罪ではないわけで、そういった行為抑止効果に期待できるのかどうか。
 
とはいえ、私や友人を脅迫した少年の一人が地下鉄でも迷惑行為をしていたことに遭遇したことがある。彼は父親と一緒であった。それを何も注意しない大人というのはどういうことだろう?家庭での教育やモラルの低下を思うと注意しても無駄なのか、関わりたくないと思う人がいても仕方ないと思いつつ、放置してしまう世の中に落胆してしまう。
 
何れにしても、今後のATMのサービス向上に関心の目を持って期待したい。