ザ・ソウル・ソサエティ/サム・ジョーンズ | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

The Soul Society


昨日のゴーギャン展の続きです。

美術館からの帰り道、

私は「久しぶりに美味しいものを食べよう」

と考えました。

何せ普段は昼も夜も会社の食堂。

たまには500円程度の定食ではない、

上等なものを食べてもいいではありませんか。


神保町に出て、気になっていた寿司屋に入りました。

初めて行ったのですが、まずその小ささにびっくり。

カウンターは8席。

あとは小さな小上がりがあるだけ。

入ったとき、お客さんは全くおらず、

私は「一見さんお断りなのかな」と構えてしまいました。


しかし、ご主人とその奥さんが温かく迎えてくれ、

その日のネタなどについて親切に教えてくれたので一安心。

そして、握っていただいた寿司を食べると・・・おいしい!

私は北海道の出身なので、寿司のネタについては

ちょっとうるさいつもりです。

実際、エビやホタテのネタについては、東京に限らず、

様々な土地で失望してきました。

ですが、今回のお寿司は本当に味わい深かったのです。

いわゆる江戸前なのですが、アナゴのふんわりとした舌触り、

カレイ(初めて寿司で食べました)の柔らかさ、

アワビの「塩蒸し」という意外な調理。

寿司って、やっぱり職人芸の世界なんだ!

と、40歳にして気付かされました。

さすが江戸前には、北海道にはなかなかない、

繊細な仕込みと味付けがあったのですね。


さらにこのお店でうれしかったのは商売っ気がないこと。

私が最初、ビールの小瓶を頼んだため、

どうも御主人は「このお客、あまり飲めないらしい」と

思ったようです

(私は単に日本酒に切り替えようと考えていただけなのですが・・・)。

そこで御主人は「お茶にしたかったらすぐ言ってね」と

気遣ってくれるのです。

利益が出やすいアルコールで稼ごう、という店が目立つこの時代に、

非常に懐かしい雰囲気を感じたのでした

(ちなみに、会計はそろばんで計算されました・・・・・)。


気のいい職人に出会った後は、

「職人気質」のジャズを聴くことにしました。

ベーシスト、サム・ジョーンズの「ザ・ソウル・ソサエティ」。

名手ですが地味なジョーンズを始め、

渋い面々が集まってのハード・バップ・セッションです。

大きな話題になることはない作品ですが、

全てのメンバーが「ソウル」を持って真剣にプレイしている

佳作です。


1960年3月8日と10日、NYでの録音。


Sam Jones(b, cello)

Nat Adderley(cornet)

Blue Mitchell(tp)

Jimmy Heath(ts)

Charles Davis(bs)

Bobby Timmons(p)

Keter Betts(b)

Louis Hayes(ds)


③The Old Country

この作品でコルネットを担当しているナット・アダレイの名曲。

イスラエルのフォーク・ソングを元にしているそうですが、

哀感がありながら非常に美しいメロディです。

ホーンアレンジはジミー・ヒース(ts)によるものでしょうか?

ブルー・ミッチェルがメロディを吹いたあと、

ジョーンズによる重いベース・ソロが入ります。

ずんずん歩いていくかのようなウォ-キング・ベース。

まさに職人的な渋さです。

続くミッチェルは、こういう曲調にぴったりな

よく伸びるフレーズでソロを紡いでいきます。

ジミー・ヒースの力強いソロの後は

ピアノのティモンズが登場。

非常にソウルフルでタッチが強いのに、物悲しい。

短いのに印象的なソロです。

ラストがフェード・アウトになっているのがちょっと残念。


④Just Friends

サム・ジョーンズがここではセロを弾いています。

ベースよりも軽やかな音色で、

ソロを弾くにはぴったりの楽器です。

バンドの編成は7重奏団という大型のもので、

ホーンがビッグバンド的なアレンジで

リーダーのプレイを盛りたてているのも面白い。

まず、メロディから冒頭のソロへと、

ジョーンズが一気にセロで押してきます。

音が生き生きとしていて、よくスイングしている。

日頃の「縁の下の力持ち」的な役割から解放され、

すっきりしているかのように感じられます。

チャールス・デイビスのバリトンに続き、

ナット・アダレイのソロ。

コルネットの軽快な音色がセロの音にも通じていて、

聴いていると気持ちが良くなります。


派手なところがない作品ですが、

お互いの技能を知り尽くしたものだけが出せる、

非常に安心感のあるサウンドです。

ちなみにジョーンズとナット・アダレイ、

ボビー・ティモンズ、ルイス・ヘイズは

当時キャノンボール・アダレイ(as)のグループに

所属していました。

あうんの呼吸もむべなるかな、という感じです。


こういう、「プロの技」を見せられると、

非常にうれしいですよね。

自分の「技量」って何かな、と反省しつつ、

月曜からの仕事に入るのでした・・・・。