エブリバディ・ディグス・ビル・エヴァンス/ビル・エヴァンス | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Everybody Digs Bill Evans


東京国立近代美術館で開催されているゴーギャン展に

行って来ました。

土曜日なのでさぞ混んでいるだろうと思ったのですが、

意外に空いていて、ゆっくり鑑賞ができました。


お目当ての絵は日本初公開の大作

「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」

↓詳しくはこちら。

http://www.gauguin2009.jp/items4.php


この作品は139.1×374.6センチという、本当に大きな作品で、

普段はボストン美術館にあります。

遠くアメリカまで行かずともこの作品が見られるというのはラッキー。

こちらに移り住んできて初めて「地の利」を感じました。


さて、絵画の印象ですが・・・・

素人の私にはとにかく「すごい!」ということしか言えません。

もう少し言葉を重ねるなら、

「人種や国籍などをあっさり越える圧倒的なビジョンがある」

ということでしょうか。

ゴーギャンがこの絵で描いたのは、

タヒチでの暮らしで触発された

もろもろのイメージです。

しかし、絵画全体が持つ力によって、

タヒチについて特に知識がない日本人にも、

確実に「生命力」や「死」について「何か」を訴えてきます。

おそらく、本当にすごい芸術というのは、

鑑賞する側が所属する「サークル」を突き破り、

別の世界に目を開かせてくれる作用があるのではないでしょうか。


そういえば、ジャズで「圧倒的なビジョン」を開いてくれた人、

最近いたかなあ・・・・と考えてしまいました。

正直、思い当らなかったので、古い作品を取り出しました。

ビル・エヴァンス(p)の「エブリバディ・ディグス・ビル・エヴァンス」です。


このアルバムを発表した時のエヴァンスは、

まだ代表作の「ポートレイト・イン・ジャズ」などを吹き込む前で、

「駆け出し」という感じでした。

ジャケットには有名ミュージシャンの

推薦の辞が書かれており、

彼への期待が高まる一方、

「メジャーになりきれていない」ことが窺えます。

しかし、クラシックの素養も持ち、

ジャズに新風を吹き込んだ彼は、

29歳という時点で、非常に印象的な作品を残したのです。

そこには「彼ならではのビジョン」がソロという形で

記録されていました。


1958年12月15日、NYでの録音。


Bill Evans(p)

Sam Jones(b)

Philly Joe Jones(ds)


⑦Peace Piece

エヴァンスの生涯の中でも名演となった一曲。

よく指摘があるように、ドビュッシーの影響を感じさせますが、

それだけではない、もっと純粋な動機に突き動かされていることが

感じられるピアノ・ソロです。

左手から繰り出される単調なリズムに乗って、

静かに、きらめくばかりのフレーズが紡ぎだされます。

澄んでいながら、明確ではない、どこか曇りも感じさせる

不思議な音色。

後半に入ると、リズムの冷静さはそのままに、

右手からのフレーズは抽象性を増していきます。

クラシックとも現代音楽ともつかぬスリルと、

一音でも狂えば台無しになってしまいそうな繊細さ。

その美しさに息をのんでいると、唐突にリズムが絶え、

曲は終わります。

この「音楽の詩編」には、明らかにジャンルを超えた美があります。

音楽について「食わず嫌い」をしない全ての人に

聴いてもらいたい一曲です。


この作品については「Tenderly」「What Is There To Say?」など、

私が大好きな曲が多く、言いたいことはたくさんあるのですが・・・

今回はこれぐらいにしておきましょう。


最近、仕事で瑣末なことばかりに悩んでいた私。

きょうの休み、非常に良い気分転換ができました。

自分の周り以外のことに目を開かせてくれる芸術、

パワーを与えてくれますね。