アローン・トゥゲザー/ジム・ホール~ロン・カーター | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Alone Together


新聞のコンサート評を読んでいて、

「おっ」と声をあげてしまいました。

ジム・ホール(g)の来日公演があったのですね。

先週の18日(月)、19日(火)は東京で、22日(金)は大阪で。

仕事があったので、事前に情報をキャッチしていても

行けなかったのですが、できれば足を運びたかった・・・・・。


ジム・ホールはジャズ・ギター界の巨匠です。

生まれたのは1930年12月。

プロとして活動を始めたのは20代半ばから。

私の知る限り、かなり早くから自己のスタイルを確立しており、

浮遊感のある音色、音の末尾を印象的に引きのばす独特の奏法、

スペースの使い方のうまさなど、全てが個性的。

パット・メセニー(g)をはじめ、後進のギタリストにも

多大な影響を与えたことで知られています。

現在78歳。

新聞によると、ステージには車いすで現れたそうで、

「今回が最後の来日では」という推測もあるそうです。


ジム・ホールは、「挑戦を続ける人である」と言っていいでしょう。

今回の来日コンサートでもおなじみの「アランフェス協奏曲」を

演奏したそうですが、かなり異色のものだったそうです。


既に彼はアルバム「アランフェス協奏曲」

(原題は“Concierto” 1975年録音)で

↓大ヒットを飛ばしています。


Concierto


普通の人であれば、大ヒットしたアレンジを踏襲し、

親しみやすい演奏でファンを喜ばせるでしょう。

しかし、コンサート評によると、

先鋭的なアレンジを施したそうです。

どんな音だったのか想像もつきませんが

肉体は衰えても精神面では相当タフなようです。


彼の「挑戦」の一つに、ベースのロン・カーターとの

デュオがあります。

ギターとベース、これ以上ないと言えるぐらい

地味な組み合わせです。

しかも、同じ弦楽器ですから、差別化も大変なはず。

それが、この二人にかかると豊かな表情を持つ

ジャズになってしまうのだから不思議です。


1972年8月、NYの「プレイボーイクラブ」でのライブ。


Jim Hall(g)

Ron Carter(b)


①St. Thomas

この曲を作ったテナー・サックスの巨匠、

ソニー・ロリンズの名演が有名ですが、

これは独自の解釈が光る快演です。

ジム・ホールの躍動的な面がよく出ています。

軽快なメロディに続いて、ホールは波のようなリズムを刻みつつ

次第にフレーズを浮かび上がらせるという

不思議なことをやっています。

普通のソロの組み立てとはまったく異質なアプローチ。

この人の優しい表情の奥にある

「前衛さ」を感じてしまいます。

どこでこんなやり方を考え付いたんでしょうね?


②Alone Together

有名スタンダードのメロディを、まずロン・カーターがつま弾きます。

ベースの低音を生かした、非常に渋い演奏です。

そんなムードを受けて、ホールのソロが続きます。

①とは対照的に、ここでは音数を絞った、いぶし銀的なギター。

つぶやくがごとく、後ろ髪を引くがごとくの、

「余韻まで聴かせる」ソロです。

ロン・カーターもギターに素早く反応して

「弾かない時は弾かない」配慮をしています。お見事。


⑦Prelude To A Kiss

デューク・エリントンの有名曲。

これも渋い演奏ですね。

夜の静寂に落ちていくような感じが

音楽で表現されているという、何とも深い演奏です。

ここでのホールはコードでの「流し」と

印象的なフレーズを巧みに組み合わせています。

ロン・カーターの最小限のバックを聴いていると、

なるほど、ホールのような「間」を大切にするプレイヤーには、

はやし立てるようなバックはいらないのだなと

納得します。


こうした作品を聴いていると、

「説得力のある音楽に、必ずしも多くの音は必要ない」ことに

はたと気が付きます。


1970年代前半と言えば、ロックやファンクなどの影響で

ジャズ・シーンも揺れ動いていたころ。

そんな時代にあって、自分のスタイルを守りつつ、

静かに挑戦を重ねてきたジム・ホールという人は

案外「過激」なんじゃないかと思います。

見習いたいですね。