新聞のコンサート評を読んでいて、
「おっ」と声をあげてしまいました。
ジム・ホール(g)の来日公演があったのですね。
先週の18日(月)、19日(火)は東京で、22日(金)は大阪で。
仕事があったので、事前に情報をキャッチしていても
行けなかったのですが、できれば足を運びたかった・・・・・。
ジム・ホールはジャズ・ギター界の巨匠です。
生まれたのは1930年12月。
プロとして活動を始めたのは20代半ばから。
私の知る限り、かなり早くから自己のスタイルを確立しており、
浮遊感のある音色、音の末尾を印象的に引きのばす独特の奏法、
スペースの使い方のうまさなど、全てが個性的。
パット・メセニー(g)をはじめ、後進のギタリストにも
多大な影響を与えたことで知られています。
現在78歳。
新聞によると、ステージには車いすで現れたそうで、
「今回が最後の来日では」という推測もあるそうです。
ジム・ホールは、「挑戦を続ける人である」と言っていいでしょう。
今回の来日コンサートでもおなじみの「アランフェス協奏曲」を
演奏したそうですが、かなり異色のものだったそうです。
既に彼はアルバム「アランフェス協奏曲」
(原題は“Concierto” 1975年録音)で
↓大ヒットを飛ばしています。
普通の人であれば、大ヒットしたアレンジを踏襲し、
親しみやすい演奏でファンを喜ばせるでしょう。
しかし、コンサート評によると、
先鋭的なアレンジを施したそうです。
どんな音だったのか想像もつきませんが
肉体は衰えても精神面では相当タフなようです。
彼の「挑戦」の一つに、ベースのロン・カーターとの
デュオがあります。
ギターとベース、これ以上ないと言えるぐらい
地味な組み合わせです。
しかも、同じ弦楽器ですから、差別化も大変なはず。
それが、この二人にかかると豊かな表情を持つ
ジャズになってしまうのだから不思議です。
1972年8月、NYの「プレイボーイクラブ」でのライブ。
Jim Hall(g)
Ron Carter(b)
①St. Thomas
この曲を作ったテナー・サックスの巨匠、
ソニー・ロリンズの名演が有名ですが、
これは独自の解釈が光る快演です。
ジム・ホールの躍動的な面がよく出ています。
軽快なメロディに続いて、ホールは波のようなリズムを刻みつつ
次第にフレーズを浮かび上がらせるという
不思議なことをやっています。
普通のソロの組み立てとはまったく異質なアプローチ。
この人の優しい表情の奥にある
「前衛さ」を感じてしまいます。
どこでこんなやり方を考え付いたんでしょうね?
②Alone Together
有名スタンダードのメロディを、まずロン・カーターがつま弾きます。
ベースの低音を生かした、非常に渋い演奏です。
そんなムードを受けて、ホールのソロが続きます。
①とは対照的に、ここでは音数を絞った、いぶし銀的なギター。
つぶやくがごとく、後ろ髪を引くがごとくの、
「余韻まで聴かせる」ソロです。
ロン・カーターもギターに素早く反応して
「弾かない時は弾かない」配慮をしています。お見事。
⑦Prelude To A Kiss
デューク・エリントンの有名曲。
これも渋い演奏ですね。
夜の静寂に落ちていくような感じが
音楽で表現されているという、何とも深い演奏です。
ここでのホールはコードでの「流し」と
印象的なフレーズを巧みに組み合わせています。
ロン・カーターの最小限のバックを聴いていると、
なるほど、ホールのような「間」を大切にするプレイヤーには、
はやし立てるようなバックはいらないのだなと
納得します。
こうした作品を聴いていると、
「説得力のある音楽に、必ずしも多くの音は必要ない」ことに
はたと気が付きます。
1970年代前半と言えば、ロックやファンクなどの影響で
ジャズ・シーンも揺れ動いていたころ。
そんな時代にあって、自分のスタイルを守りつつ、
静かに挑戦を重ねてきたジム・ホールという人は
案外「過激」なんじゃないかと思います。
見習いたいですね。