傷は抱えたままでいい 19 | あの空へ、いつかあなたと

あの空へ、いつかあなたと

主に百合小説を執筆していきます。
緩やかな時間の流れる、カフェのような雰囲気を目指します。

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「――――うん、折れてはいないみたいだね」
私の腫れあがった左薬指に触れたり、観察したりした後、彼女はその言った。
その言葉に、有希と里穂はホッと胸をなでおろす。

「はー良かったあ……骨折してたらどうしようかと思ったよー」
「なんで有希が安心するのよ。でもホント、ただの突き指でよかったよ」
「そうは言っても突き指だって放置してたら大変よ? すぐに処置しなくちゃね」


3人の会話を、私はぼんやりと聞いていた。
「…………」
非の打ち所がない、というのはこういう人のことを言うのだろうか。

私の指を診る手順も、今行っている処置の準備も、手際が良くて無駄がない。
なのに決して形式にはまった堅苦しさは感じず、柔らかな物腰で生徒の話に応じている。
ほんの十数分前に初めて会ったばかりなのに、二人と同じように親しげに話してもいいのではないかと思ってしまった。


それをグッとこらえる。
このまま何事もなく終わってくれるのが一番いいのだ。

私の心の中で燻る何かが、ずっと警告している。
不要な会話をしてはいけない。
今はただ、ここに、この保健室に長居をしたくない。それだけだった。
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