扉を開けると、そこには椅子に腰かけた一人の女性がいた。
落ち着いた風貌、長い茶色がかった黒髪は先がふんわりとカールしていて、先生というよりは少し年の離れたお姉さんのよう。
でも私たちに優しく向けられた柔らかなその表情は、一目で包容力の高さを感じさせた。
なるほど、男女ともに人気がある理由も分かる。
里穂と有希はすでに「やっほー織ちゃん」などと親しげに歩み寄っていた。
「こらこら、怪我人がいるんでしょ?」
「うん、ほらチサ! 指見せてー」
先生によってはなれなれしいと窘められそうな二人の態度にも、その人は朗らかに応じる。
里穂に促されるまま、私は彼女のところへと近づいていった。
おずおずと足を進めるその距離が妙に遠い。
彼女が私に向ける視線は二人に対するそれと同じだと思う。
なのにどこか緊張する。きっとそれは原因が私にあるからで――――
入り口からその人の腰かける椅子までのほんの2、3メートル。歩数でも10歩に満たない距離を私は歩く。
そういえばこの学校に入学してから、保健室に入ったことはなかった。
元々身体は健康そのもので、怪我だって生まれてから数えるほどしかない。
だからこの空間は、言ってしまえば未知の領域。
頭をよぎるのはあの日のリコと、ルイの姿。
保健室の中、あの時二人のいた世界。
そこに、今、私は、初めて足を踏み入れている。
そして私は手を差し出す。
その手を、彼女はゆっくりと掴んだ。