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率直に言って行きたくなかった。
でも必死に拒否するのはかえって不自然だし、この指の怪我に早めの処置が必要なことは私自身が文字通り骨身にしみて実感している。
モヤモヤした心と痛む指。
元はと言えば全て自分で招いたことだが、こうも立て続けに色々なことが重なると、もう何も言いたくない。
ただ、里穂と有希が一緒に来てくれることだけが救いだった。
「……でも、織ちゃんに診てもらえるんだから、よかったって思おうよ」
里穂が私を励ますように、そんなことを口にした。
「……おり、ちゃん?」
「織部先生だよ。保健室の美人先生!」
ドクン、と。
心が一瞬締め付けられたように強張る。
「……あー、織部先生、っていうんだ」
「美人でスタイルよくってーすっごく優しいよね!」
「そうそう、男子からも女子からも人気があって、もうやばいんだよ!」
「前テーマパークのお土産あげたでしょ? 私、織ちゃんにもプレゼントしたんだよねー!」
私をそっちのけで里穂と有希は”織部先生”の話題で盛り上がっていた。
(保健室の先生。織部……オリベ……)
聞いたばかりの名前を心の中で何度も呟く。
違うのだろうか……それとも……
そうしているうちに、保健室に着いた。
閉まっている扉は、まるで昨日のあの会話を思い出させるようで……
有希が優しく扉をノックする。
「織ちゃーん。怪我人でーす」
『はーい、どうぞ』
中から、声が聞こえてくる。
それはまさしく、聞き覚えのあるものだった。
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