「――――リコ!」
有希の投げたバスケットボールは、まっすぐ私の方へ向かってきていた。
ただのチェストパス。普段の私ならよそ見をしてたって取れる、素直な軌道。
でも私は忘れていた。忘れていることすら忘れていた。
今日の私は、普段と違う状態だということを。
「! っ……あ」
鈍い音と痛みはほぼ同時にやってきた。
突然の衝撃と灼けるような鈍痛で、声すら出ない。
私の左中指が、飛んできたバスケットボールに不自然に当たった。
掴み損ねたボールはそのまま弾み、あてもなく転がっていく。
部活のみんなが駆け寄ってくる。
「大丈夫!? いますごい音したよ!?」
「――――っ! ……うん、大丈、夫」
震える声を絞り出して答える。
正直に言えば痛みは数秒前よりも次第に増してきていて、むしろ熱いくらいだ。
曲がる曲がらないの話ではない。何もしていないその状態から動かす気も起きない。
そしてチームメイトの一言で、ただでさえ青くなっている私の顔からさらに血の気が引いた。
「ねえ……保健室に行った方が……」
「うん、そうした方がいいよ!」
「いっ、いや大丈夫だって! ほんと……っにっ!?」
大事ではないことをアピールしようとしたが、手を動かすたびに振動が指に伝わり、鋭い痛みが響く。
やせ我慢して乗り切ろうという決意は呆気なく萎んでしまった。
仕方なく、里穂と有希が付き添う形で向かうことになった。
あの時から数えて3度目。あの保健室に。
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