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「……じゃあさ」
もう沈黙だとか威圧感だとかどうでもよくなってきた。
突然声を掛けてきて、言われるままについてきたというのに。
私の言葉は聞き入れず、ただ遮るだけで。
(何がしたいっていうんだ……!)
芽生えてきた怒りに身を任せて、言いたいことを口にする。
「なんだっていうの!? 私だって見たくて見たわけじゃないってのにさあ! だいたいあんなところでキスなんかしてないでよね! しかも相手女だったでしょ!? いや別に誰としてたっていいんだけどさ? 相手は一体だれ――――」
そこまで言って、私は三度リコに話を遮られた。
それも今度は言葉でではなく、行動によって。
彼女は私の両手を壁に押さえつけ、その顔を至近距離まで近づけてきたのだ。
唇がふれ合う直前。そう、それはまるでキスをする一歩手前のような……
「……っ!?」
私とリコは背はそんなに変わらない。羨ましいことに、体形はむしろ彼女の方が細いくらいだ。
なのに振りほどけない。それほどまでに力がこもっているのか、あるいは……
「それ以上は、駄目……いい?」
吐息がかかるほどの近さのまま、リコは話を続ける。
「見たことを忘れろとは言わないわ。でも一つだけ忠告する。私に関わらないで――――それだけよ、私の言いたいことは」
そこまで言って、リコは私の手を離した。
その瞬間、私の身体は糸が切れたマリオネットのように膝から地面に崩れ落ちる。
そんな姿に目もくれず、それじゃあ、と言って彼女は立ち去ってしまった。
「な……っんなのよ!」
怒りとも戸惑いともつかない複雑な気持ちのまま、私は彼女の後姿を見る。
しばらく立つこともできず、振り絞るような声で呟くしかなかった。
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