情熱の片鱗。映画「この世界の片隅に」ファンミーティングにて | 忍之閻魔帳

忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

この世界の片隅で ファンミーティング
*来場者に配布されたミニパンフと缶バッヂ

こうの史代の傑作コミック「この世界の片隅に」。
声高に戦争反対を叫ばず、慎ましく暮らしていた人々の姿を丁寧に描くことで
彼等の日常を奪い去った『戦争』というものを浮き彫りにする手法は、
黒木和雄監督や新藤兼人監督の意志を引き継ぐかのように繊細で痛々しく、
何度読み返しても胸を締め付けられる思いがする。
開高健の「ベトナム戦記」に出てくる
「小さな幸せをバカみたいに大事にして生きたい」とは
本作の主人公すずの想いそのものだ。


配信中■Kindle:「この世界の片隅に:上 / こうの史代」
配信中■Kindle:「この世界の片隅に:中 / こうの史代」
配信中■Kindle:「この世界の片隅に:下 / こうの史代」

配信中■iTunes:「この世界の片隅に : 1 / こうの史代」
配信中■iTunes:「この世界の片隅に : 2 / こうの史代」
配信中■iTunes:「この世界の片隅に : 3 / こうの史代」

配信中■Kindle:「夕凪の街 桜の国 / こうの史代」
配信中■iTunes:「夕凪の街 桜の国 / こうの史代」

クラウドファンディングによる資金調達が目標額を達成し、
晴れて製作が再開された映画「この世界の片隅に」の
ファンミーティングに参加してきた。
20,000,000円をゴールにした同プロジェクトは
最終的に36,224,000円、参加人数3,374人に膨れ上がった。
ミーティングで発表された調査によると、
47都道府県の全てから参加希望者があり
男女比は男性が76%で女性が24%平均年齢は42歳だったとのこと。
「この映画は男性向けでもその年齢層向けでもないと思うんですけどね」
データを紹介した後に監督がぼそっと呟き、会場が笑いに包まれた。


発売中■CD:「picnic album 1 / コトリンゴ」
配信中■iTMS:「悲しくてやりきれない / コトリンゴ」

予定されていた質疑応答がなくなり、5分ほどのパイロット版を2回と、
7月15日に完成したばかりの6分間の本編映像も併せて公開された。
声のキャストも主題歌もまだ決まっていないため、どちらにも声は入っていなかった。
パイロット版にはコトリンゴの「悲しくてやりきれない」が使用されていた。
ジブリが「風立ちぬ」や「かぐや姫の物語」で楽曲丸々1曲分の尺で
予告編を製作していたが、あれと同じ感覚である。
片渕須直監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」を観ていて
かつカバーアルバムマニアでもある私はイントロが流れた瞬間に
「なるほど」と膝を打った。
8月1日の時点ではまだ暫定らしいが、このまま決まりそうな気がする。

この世界の片隅に こうの史代 映画
発売中■CD:「この世界の片隅に オリジナルサウンドトラック」

<2016年8月25日追記>
主題歌がコトリンゴの「悲しくてやりきれない」に正式決定。
ただし「picnic album」に収録されたものとはバージョンが変わり
映画用に新しく録音し直されたものとのこと。


*8月1日公開になった特報

私個人の感想では「この世界の片隅に」の主題歌としては
この曲の歌詞がちょっと重過ぎるかなとも思う。
(だからこそこのバージョンを選んだのだろうが)
「こんなことを二度と起こしてはいけない」と後世に語り継ぐために
主題歌は二階堂和美の「伝える花」を推したい。

この世界の片隅で ファンミーティング
*来場者に配布されたミニパンフより

こうの史代は「夕凪の街 桜の国」や本作を描く前に膨大な資料を読み込んだという。
片渕監督は、こうの氏が静止画(コミック)に込めた想いを
アニメーションで表現するため、尋常ならざるこだわりで情報収集をしていた。
服装ひとつとっても、年単位ではなく月単位で写真を掻き集め
戦況によってファッションがどう変化していったのかを追った。
戦争を描いた作品に出てくる女性はほぼモンペ姿だが、果たして本当にそうだったのか。
追えば追うだけ増える小さな疑問を納得のいくまで調べ尽くすのに
一体どれだけの労力を費やしたのだろうと、話を聞くだけで気が遠くなる。

ほんの数秒で終わる街並のシーンにリアリティを持たせるため、
中島本町を始め呉・広島の各地で徹底した取材を敢行し、
当時の風景を知る、存命中の方々のもとを訪ね回ったという。
監督の熱意と誠意は、わずか5分のパイロット版にはっきりと成果として表れていた。
かつてそこに在ったであろう日々の営みがあり、
街を往く人々の息づかいや温もりまでが伝わってくるようだった。
映画化決定から本格始動するまで、傍目には止まっていたかに見えたプロジェクトは
水面下で着実に進んでいたのだ。


発売中■Book:「この世界の片隅に 公式アートブック」
発売中■Book:「小説 この世界の片隅に」
発売中■Book:「この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック」
発売中■Book:「ユリイカ 2016年11月号 特集=こうの史代」
発売中■Book:「この世界の片隅に 劇場アニメ絵コンテ集」

冒頭の経過説明で、
「スタート当初は8人だったスタッフが16人に増え、
 色付けも可能になったことでパイロット版が完成まで漕ぎ着けた」と言っていた。
絵コンテは既に完成しており、420カット(全体の1/4)ほど上がっているそう。
完成までにはあと20倍ほどの作業が必要で、
秋から冬にかけて声のキャストをオーディションで決定、
音楽も同時進行しつつ2016年10月の公開を目指して製作は続いていく。

こうの史代&「マイマイ新子と千年の魔法」のファンだけに思い入れも一入で
多少の贔屓目があるのは否定しないが
この作品が傑作になることは100%間違いないと思う。
戦後70年の節目を迎える今年、色々なことが大きく動き始めている。
インクをこぼしたように、世の中にじんわりと不安が広がる中で
映画「この世界の片隅に」は
私達に「何をいちばん大切にすべきなのか」を教えてくれる気がする。

特典内容に露骨な差をつけ、高額出資者を狙い撃ちするのは
このプロジェクトの主旨とは合わないとの考えで、
ボリュームゾーンを2,000円に想定していたにも関わらず
結果2,000円よりも1万円を選んだサポーターが圧倒的に多かった。
(2,000円が968人、10,000円が1,993人)
このため「エンドロールに名前を記載する」特典をどう処理するかで悩んでいるそうだ。
豆粒サイズでは申し訳ないし、それなりの大きさで掲載すると
エンドロールがいつまで経っても終わらず、興行作品としては成立し辛くなる。
私としては、劇場版では「サポーターの皆さん」で一括りにしても良いと思う。
パッケージ販売時に特別編として入れたバージョンを作るか
別途「参加者一覧」のようなコンテンツさえ用意していただければ充分。
おそらく、参加した全員が同じ気持ちではないか。

片渕監督ならびに制作スタッフの熱意に敬意を表しつつ
いちファンとして、完成を楽しみに待ちたい。




発売中■DVD:「マイマイ新子と千年の魔法」

【紹介記事】普通ってなんだろう。映画「マイマイ新子と千年の魔法」より再掲。

戦後間まもない山口県・周防の地に住む女の子・新子の物語。
アニメーション製作は「サマーウォーズ」のマッドハウス。
声優陣は、主人公・新子に「ヘブンズ・ドア」の福田麻由子。
親友の貴伊子は「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」の水沢奈子。
主題歌はコトリンゴ。

髙樹のぶ子の自伝的小説「マイマイ新子」が原作であるにも関わらず
原作コミックでもあったのではないか?と思わせるほど、作画が丁寧で驚かされる。
「戦後の昭和」と「7世紀の都」を映像化するにあたり、
アニメという比較的自由な土壌の上で、とてもリアルに描かれているのが印象的だ。

このお話には、ドラマティックな結末は用意されていない。
バッドエンドではないし、だからと言ってハッピーエンドというわけでもない。
強いて言うなら「普通」の結末である。
いつもそこにあるのが当たり前で、わざわざ目標にしたりもしない。
失くしてしまうまで、その存在にすら気付かない。
日常における優先順位が低いために、特に自覚することもない。
私達は、そんな「普通」に囲まれて生活をしている。

見慣れた風景の中で、どれだけの大切な物を見出しながら生活しているだろう?
少なくとも私は、ちゃんと見ていない気がする。
日々の生活に追われ、消費するだけの生活を送っているうちに
遠い過去の歴史や、遠い未来への夢に想いを馳せることを忘れてしまいがちになる。
大人から受け取ったバトンを、如何にして子へ渡すか。
脈々と受け継がれていく命の営みは、
千年前も今も、そして千年後の未来もきっと変わらない。

音楽、主題歌も秀逸。
天才子役の名を欲しいままにしてきた福田麻由子は、ここでも流石の貫禄。
生半な声優では到底太刀打ち出来ない、素晴らしい演技を披露している。

舞台になった周防の国を訪れるのも良いかもしれないが、
私としては、この映画をきっかけにして自分の田舎を見つめ直すことをお勧めしたい。
次の世代へ繋げていかなければいけない「大切なもの」が
自分の故郷にもきっと見つかる。そんな気がする。





配信中■Kindle:「夕凪の街 桜の国 / こうの史代」
配信中■Kindle:「夕凪の街 桜の国 / こうの史代」
発売中■COMIC:「夕凪の街 桜の国 / こうの史代」




発売中■CD+DVD:「親と子の花は咲く」

紅白歌合戦や羽生結弦選手のスケートとの競演など
NHKで歌い継がれている復興支援ソング「花は咲く」の特別版。
人気子役の鈴木梨央が歌唱を担当し、付属のDVDには「この世界の片隅に」と
同じ片渕須直監督&こうの史代による短編アニメーションが収録されている。