”13歳”という生き物。映画「告白」松たか子 木村佳乃 岡田将生 芦田愛菜 中島哲也 | 忍之閻魔帳

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ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

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(C)2010「告白」製作委員会
01月28日発売■BD:「告白 Blu-ray完全版」
01月28日発売■DVD:「告白 DVD完全版」

2009年の本屋大賞を受賞し、現在までに180万部を売り上げている
湊かなえのベストセラー「告白」が映画化。
監督は、湊氏が「日本で一番好きな監督」と公言している中島哲也。
「下妻物語」「嫌われ松子の一生」「パコと魔法の絵本」と、
新作を発表する度に大きな話題を振りまいてきた中島監督のこれまでを総括し、
今後のさらなる飛躍を予感させる傑作に仕上がっている。


*TOHOシネマズ限定バージョンの予告編はこちら。

春休みを目前に控えた終業日。
1年B組の担任である森口悠子は、澱みのない口調である告白を始めた。
週に何度か学校に連れて来ていた森口の愛娘・愛美のことだった。
学校内のプールで溺死体となって発見され、
事故死として警察に処理された事件の真相を知っていると。
水を打ったように静まり返る教室で、森口は変わらぬ口調で言った。

愛美は、このクラスの生徒に殺されたんです。

犯人像を語る森口の断片的な情報から
あっという間に犯人が特定され、クラス中を携帯メールが飛び交う。
少年法に守られている犯人を裁く方法は、自分が手を下すこと。
森口は、犯人の飲んだ牛乳にある異物を混入したと宣言し、
そのまま教室を去っていった。
生徒だけが残った教室では、もう裁きが始まろうとしていた。

監督は「下妻物語」「嫌われ松子の一生」の中島哲也。
主演は「K-20 怪人二十面相・伝」「ヴィヨンの妻」の松たか子。
KYな熱血教師役には「僕の初恋を君に捧ぐ」の岡田将生。
息子を溺愛する犯人の母親役には「おろち」「ブラインドネス」の木村佳乃。



(C)2010「告白」製作委員会
01月28日発売■BD:「告白 Blu-ray完全版」
01月28日発売■DVD:「告白 DVD完全版」

13歳

殻を破って大きく成長する前の、蛹のような年頃

「まだ子供だから」で許してはもらえず
かと言って大人としても認めてもらえない年頃

法律上はまだ、親の保護下に置かれている年頃

異性に対して抱く好意の中に、性的な興味が混ざり始める年頃

何にでもなれる気がして
でも結局、何にもなれないのではないかという不安に苛まれる年頃

マザコンであることを恥じる年頃

人を傷つけることに、少しの罪悪感と少しの快楽を感じる年頃

「大人なんて汚い」と言ってみたくなる年頃

些細なことで世界を手中に収めたかように得意満面になり
些細なことでこの世の終わりかと思うほど絶望する年頃

己の凶暴性を「制裁」という名で正当化する年頃

息をするように嘘を吐く年頃

本当の自分を誰かに分かって欲しいけれど、
分かった風な口をきく大人は激しく嫌悪する年頃

世を儚んでいる自分に酔いしれる年頃

「少年法」という鉄壁のブロックで守られている年頃

愛に飢えた年頃


(C)2010「告白」製作委員会
01月28日発売■BD:「告白 Blu-ray完全版」
01月28日発売■DVD:「告白 DVD完全版」

少女マンガの世界をそのまま映像化したような「下妻物語」
哀しい運命を辿った女の生涯をミュージカル仕立てで映画化した「嫌われ松子の一生」
飛び出す絵本と舞台的な演出が融合した「パコと魔法の絵本」
中島哲也監督は、常に私達の予想を良い方向に裏切って楽しませてくれる。
そういう意味で言えば、今回の「告白」は今までで一番素直な映画化と言えるだろう。
原作に充満している葛藤・焦燥・鬱憤・悲哀・孤独を、
どうすれば107分の中に余さず収めることが出来るのか、
相当な回数原作を読み込んでいるであろうことが、脚本の上手さから伝わって来る。
これまでの中島監督の作品のように大胆な脚色は加えず、
映像においても、全体のトーンを抑え、スローモーションを多用しながら
少年少女達の心の流れを時に繊細に、時に残酷に描き出している。

原作を読んでいない方が予告編をご覧になると
「どの生徒が森口愛美を殺した犯人なのか」を追うミステリーだと
勘違いされるかも知れないが、
犯人の正体は、森口の独白のみで進行する第1章であっさりと明かされる。
犯人が誰かが問題なのではなく、犯人が凶行に至るまでの過程こそが
この映画(=原作の「告白」も然り)の最大の肝なのだ。

本作に登場する少年少女全員に共通しているのは、
彼等がとても純粋である、ということ。
「ただ目立ちたかっただけ」
「ただ悪い奴を粛正したかっただけ」
「ただ褒めてもらいたかっただけ」
いずれの動機も恐ろしいほど単純で、雑念が無い。
だからこそ、余計に哀しい。

3人の主要な登場人物を演じた松たか子、木村佳乃、岡田将生は皆ハマり役。
ウェルテル役の岡田は、原作を読んで私が抱いていたイメージに比べると
やや線が細過ぎるような気がしていたのだが
実際に動いているところを見ると、熱血単純馬鹿教師のウェルテルそのものであった。
また、これまでにも何度か言ってきた
「舞台女優としての松たか子」の魅力を、
ようやくスクリーンで堪能することが出来たことも嬉しい。
映画の終盤、犯人に向かって淡々と語りかける彼女の恐ろしさは
「ドッグヴィル」のニコール・キッドマンよりもゾクゾクする。
テレビや映画での彼女しか知らなかった方にとって、
おそらく本作はかなり新鮮に映るはず。


■DVD:「誰も知らない」
■DVD:「カナリア」
■DVD:「赤い文化住宅の初子」
■DVD:「青い鳥」

【紹介記事】頑張る子供「カナリア」
【紹介記事】今週発売の主な新作(「赤い文化住宅の初子」の紹介あり)
【紹介記事】2008年度邦画No.2、「青い鳥」がDVD化決定

本作と同世代の子供達を描いた作品は、過去にたくさんあった。
親に捨てられた兄弟が、力を合わせて生きていこうと頑張った「誰も知らない」、
親の信仰していた宗教団体で
刷り込みという名の虐待を受けていた子供達を描いた「カナリア」、
母とは死別、父親は蒸発、兄は風俗狂いという最低な環境で
ささやかな幸せを夢見る少女を描いた「赤い文化住宅の初子」、
いじめのあった教室に赴任して来た男性教師が、
「強くならなくていい。頑張るだけでいい」と生徒達に教えてゆく「青い鳥」。
いずれも素晴らしい作品だが、全て単館系での公開であった。
この手の題材は、メジャー配給では煙たがられるからだ。
志は高くとも、大勢にはなかなか観てもらえない。
しかし、「告白」は東宝配給、主演・松たか子、監督・中島哲也である。
過去の同系列の作品とは比較にならないほど大勢の目に触れる機会がある。
この作品がメジャー配給で公開される意義は、とても大きい。
そして、中島監督の演出は、メジャー配給に乗せるに足るだけの
華やかさ(と言って良いものか悩むが敢えてそう書く)を持っている。
救いのない物語でありながら、「リリィシュシュのすべて」(岩井俊二監督)ほど
観客にトラウマを植え付けないのは、本作がエンターテイメント作品として
優れていることの証だ。

唯一の難点は、本作がR-15指定(15歳未満の鑑賞は禁止)を受けていること。
作品に登場する生徒達と同じ13歳は観ることが出来ない。
一番観て欲しい世代が丸ごと劇場から閉め出されてしまう格好で、
この点だけはどうにかしてPG-12(保護者付きならばOK)に止めて欲しかった。

こういう作品こそ、オスカーの外国映画賞に出品するべきだろう。
2010年の邦画を代表する1本。
映画好きを自認するならば、是非とも劇場で観ておくべし。


04月08日発売■BOOK:「告白 / 湊かなえ」
05月26日発売■CD:「告白 オリジナル・サウンドトラック」

湊かなえのリズミカルな文体が心地良い原作小説。
映画と違い、各登場人物達のモノローグ(告白)でストーリーが進行する。
犯人と親との関係や、女生徒との関係の変化など
映画では語り切れなかった心の機微を追ったシーンが満載。
映画を観る前の予習にも良し、観た後の補完にも良し。

また、映画「告白」の魅力を増幅させているのが音楽。
メインテーマに起用されているレディオヘッドの「ラストフラワーズ」を始め、
AKB48、やくしまるえつこなど、多彩な顔ぶれが揃っている。

1.渋谷 毅(arranged by Gabriele Roberto)/Milk
2.Radiohead/Last Flowers
3.Boris /虹が始まるとき
4.cokiyu/Gloomy
5.渋谷慶一郎/Piano Concerto No.5 (J.S.Bach)
6.Boris/My Machine
7.AKB48/RIVER
8.Boris/断片-Bit-
9.PoPoyans/When the owl sleeps
10.やくしまるえつこ & 永井聖一/The Meeting Place
11.The xx/Fantasy
12.Boris /にじむ残像
13.cokiyu/See the sun
14.Curly Giraf fe/Peculiarities
15.Y.S. & The Sunshine Band/That's The Way (I Like It)
16.Boris/Feedbacker
17.choir/Long long Ago (イギリス民謡)
18.Boris /決別
19.渋谷慶一郎/Largo (G.Hendel)

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:告白
    配給:東宝
   公開日:2010年6月5日
    監督:中島哲也
    出演:松たか子、木村佳乃、岡田将生、他
 公式サイト:http://kokuhaku-shimasu.jp/
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