映像ありき、中身ナシ。映画「食堂かたつむり」 | 忍之閻魔帳

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(C)2010「食堂かたつむり」フィルムパートナーズ

CMやPVや写真集を撮っていた人物が映画監督になると、8割は失敗する。
これは、それなりの年数をかけて、
それなりの本数の映画を観た上で弾き出された私なりの結論だ。
2割に属する人物は、作風を上手く映画に反映させて良作を生み出しているのだが、
8割に属する紀里谷和明(「GOEMON」)」、蜷川実花(「さくらん」)」、
樋口真嗣(「ローレライ」)といったビジュアルだけ監督達は
映画の世界に片足だけ突っ込んで、好き勝手に踏み荒らしては去って行く。
自分のテリトリーで大人しくしていれば良いものを、
何を好き好んで恥を晒しにやって来るのか全く分からない。
本業で充分過ぎるほど評価されているのだから、
わざわざ経歴に傷をつけるような真似をしなくても良かろうに。

今回紹介する「食堂かたつむり」の富永まい監督も、CM畑の出身である。
SCEから発売された「ぼくのなつやすみ」「どこでもいっしょトロと流れ星」
「ポポロクロイス」などのCMも、富永監督が手掛けている。
富永監督がどちら側に属しているかは、
監督第1作目の「ウール100%」で大体見えてはいたのだが・・・。



失恋がきっかけで言葉を失ってしまった倫子。
都会の生活に疲れた倫子は、奔放な母ルリコの住む田舎へと戻ってきた。
安いバーに勤め、圧塗りの化粧で客の相手をしているルリコは
エルメスと名付けたブタと共に、それなりに楽しそうに暮していた。
ある日、倫子は祖母から受け継いだ料理の腕を活かし、
村に食堂をオープンさせることを思いつく。
客は1日1組限定、決まったメニューは無し。
迎えるゲストの話を聞いて、じっくりと時間をかけて仕込む倫子の料理は
次第に村で評判になっていく。
主演は「少林少女」「容疑者Xの献身」の柴咲コウ。
母親役には、「おくりびと」「ディア・ドクター」の余貴美子。
その他、ブラザー・トム、田中哲司、志田未来、満島ひかり、
江波杏子、三浦友和ら、若手からベテランまで豪華キャストが揃えられている。


富永監督のインタビュー記事にこんな言葉が出て来る。

私の場合、いつも発想は絵からなんです。
物語を読んで、こういう絵が見たいなという感じで浮かんだものをパッと描いた感じです。


確かにそうだろうな、と思う。
この映画は、パッと浮かんだ絵をそのまま映像にして、そこで終わってしまっている。
そこに居る人物達が、どういった過去を経てそこに居るのか、
どこに向かおうとしているのか、何も語られないし、そもそも用意していないように見える。
何も用意していないから、登場人物達の行動原理が何ひとつ分からない。
倫子が祖母から受け継いだという糠床の話は放りっぱなし
(茶漬けの共に漬け物は出て来るが、本当にそれだけ)だし、
倫子に対して敵対心を抱いていたはずの満島ひかりは、
何故かエンディングで笑いながら倫子主催のパーティに参加している。
江波杏子の演じる老婦人も、単に美味いものを喰ったら元気が出ました、で終わり。
「さくらん」と同じように、撮りたい絵があることは分かるものの、
その絵に辿り着くまでの過程を何ひとつ用意せずに、物語が転がっていくはずがない。
童話のようなお話だからと言って、リアリティを無視してはいけないと
他ならぬ監督自身がインタビューで語っているというのに。

「ファンタジーって、架空の世界だから“何でもあり”ってなりがちですが、
だからこそ、リアリティがないと誰にも信じてもらえない。
優秀なファンタジーほど、リアルにできているものだと思います。
実在の風景の中で、架空の物語が展開して、でもそこに登場する人物は生きていて、
血が通ってないといけない。脚本をお願いする段階から、そこのバランスは考えてました」。


予告編などの雰囲気では「かもめ食堂」系のスローライフ推奨映画かと
思っていたのだが、演出方法は「パコと魔法の絵本」あたりに近い。
ただ、登場人物をきっちり描いた上で絵本的な演出を施していた「パコ」とは
完成度において天と地ほどの開きがある。
もし本作を中島哲也監督が手掛けていたら、
命の重みも、母娘の絆も、食堂を訪れる人物達も、
全てを上手く昇華させて傑作を生み出していたに違いない。

第1作目にあたる「ウール100%」も、岸田今日子と吉行和子という
最高のキャスティングを揃え、面白そうな題材を使いながら
見事なほどの睡眠導入剤映画だった。
「ウール100%」から5年も経っているというのに、監督はいったい何をしていたのだろう。
5年間昼寝か。
「みんなのうた」は5分間番組だからこそ良いわけで、
「みんなのうた」を2時間ぶっ通しで見せられても困る。

「ブタがいた教室」の万分の一もない、
「命をいただく」というテーマの扱いの軽さは、違う意味で泣けた。

絵本にも映画にもなれないまま終わってしまった哀しい失敗作。
面白くなりそうな要素はふんだんにあるだけに余計に惜しい。
富永監督はCM作りには定評があるのだから、元通りホームグラウンドで頑張って欲しい。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:食堂かたつむり
    配給:東宝
   公開日:2010年2月6日
    監督:富永まい
    声優:柴咲コウ、余貴美子、三浦友和、他
 公式サイト:http://katatsumuri-movie.jp/
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