Dream別れ⑦ | 今日も元気で

今日も元気で

大好きな人やモノについてや、日々の生活の中で感じたことなどについて自由に綴ったり、自作の書き物などを公開しています。

伸也と剛の間にやっと少し安堵した空気

が流れた。その時、ふと剛が言った。

「実は俺、手術している時さ、夢見たんだ。」

「夢って?」

「海辺でおまえと俺と瞳子ちゃんが花火

してる夢でさ。その花火が、夢とは思え

ないくらい華やかで綺麗なんだけど、


れを見ていた俺は、急に体の力が抜け

いって、花火の煙と一緒に自分の命も

このまま消えてしまうんじゃないかって、

ふとそんな気がしたんだ。」


伸也は医師が一時血圧が低下して危険

だった。と言っていたことを思い出した。

「だけどさ、その時、伸也がさ、すっごく

嬉しそうな顔で笑ってたんだよな。目を

きらきらさせてて、瞳子ちゃんもそれを

見て、優しく微笑んでいた。それが俺に

は堪らなく嬉しくて、『ずっとおまえらと

一緒にいたい』って思ったら、もうちょっ

と頑張れそうな気がしてきて・・・その後

のことはもうよく覚えてないんだけど。」

伸也は、本当に伸也を失ってしまってい

たかもしれないと思うと、ヒヤリとしたが、

それだけにここに剛が戻ってきてくれた

ことが本当に嬉しかった。が、その気持ち

を抑えるように、わざと冗談っぽく言った。

「それって、じゃあ、俺のお蔭でおまえは

無事、生還したってわけか。」

「いや、おまえのお蔭っていうより、やっ

ぱ、瞳子ちゃんのお蔭じゃね?」

「いや、俺を見て瞳子は笑ってたんでしょ。

じゃあ、やっぱ、俺のお蔭じゃん。」

「でも、あれ、おまえの顔見て笑ってたの

かな?」

「なんだと、てめっ、いい加減、素直に認

めろ。」

伸也が少しムキになりかけたので、剛は

「ああ、わかった、わかった。そうさ、おま

えのお陰だよ。」


そう言うと、満面の笑みを浮かべた。

「でも、瞳子ちゃんの笑顔が本当に奇麗

でさ、幸せそうでもっとずっと見ていた

い・・・。」

瞳子の話を嬉しそうに話している剛の言

葉を遮って、桜子が少し寂しそうな声で、

「私もそこにいたかったな。」

そう、ぽつんと言った。剛はわけが分から

ず、

「桜子ちゃん?」

「私も、剛さんの夢の中にいたかった・・・。」

桜子の瞳にはみるみる涙が溢れてきた。

「桜子ちゃんどうかした?泣いてる?俺、

何か悪いこと言っちゃったかな?」

剛は見えていないながらも、桜子の様子

を察して、驚いて訊いた。桜子は俯いて

小さく首を振って、

「いいえ、大丈夫です。なんでもありませ

ん。」

伸也は、剛の気持ちが瞳子にしか向いて

いないことを改めて思い知らされ、桜子

が落ち込んでいるのだと、分かったが、

どう言っていいのかもわからず、潤んだ

瞳で剛を見ている桜子を守るしかな

かった。

「あの、今日は、帰ります。剛さんの目が

見えるようになって、私の顔を見てもら

えた時、ちゃんと自分の気持ちを伝えま

す。10日後には、きっといい結果が出る

と信じてます。じゃあ、また。」

桜子は伸也の方をちらりと見て、頭を下

げて出ていった。

「えっ?桜子ちゃん、どうしたの?」


慌ただしく桜子が去っていってしまった

ので、訳がわからないという表情で伸也

に尋ねた。

「何か様子、変だったよな?俺の手術中

に何かあったのか?自分の気持ちを伝えるっ

て・・・どういうことなんだろ?」

「さあ・・・。おまえのこと相当心配してた

みたいだったから、手術が無事終わって、

ほっとしたんだろう。もしかしたら、おまえ

のこと好きなんじゃないのか?おまえが

瞳子のことばかり話すからヤキモチとか?」

それとなく、伸也は言ってみた。

「よせよ。彼女はあの時現場に偶然居合

わせていただけなのに、“命の恩人”なん

て大げさなこと言ってたから、俺の目の

こと、責任感じちゃってるのかな?気にし

ないでくれって、言ったんだが・・・。」

「そうだよな。」

「それに、彼女、美人だし、いいとこのお嬢

さんだろ?俺なんかに興味ねえよ。そっか、

俺より、彼女、おまえのことを前から知って

たみたいだし、おまえに気があって・・・。だ

からおまえと瞳子の話ばっかするから気を

悪くしたのか?」

剛がそう言うと、伸也は呆れた顔をして、

「おまえ、意外と鈍感だったんだな。おまえ

のこと以前、“恋愛の師匠”なんて言ったけ

ど、あれは撤回する。」

「は?何、言ってんの?なんで俺が鈍感?」

「もう、いいよ。」

「何だ?喧嘩売ってんの?」

「だから、もういいよ。」

「変な奴だな。」

「桜子ちゃんは大丈夫だよ。きっと。彼女は

ちゃんと自分で解決できる人だと思うから。」


「そっか、なら、いいんだけど。」

剛の言葉の後、少しの沈黙があった。

「あの・・・。

伸也と剛が、同時に切り出した。

「あ、ごめん、先に言っていいよ。」

伸也が言った

「うん、じゃあ、先に言わせてもらう。ちゃん

と言わせてくれ、伸也、本当にありがとう。」

剛は伸也の方を真っすぐ向いて、真剣な

様子で言った。伸也の頬はやや紅潮して

いた。

「なんだよ改まって、らしくない。照れるじゃ

ないか。俺は何にもしてないよ。おまえが

頑張っただけさ。

「照れんなよ。それに、今のは怪我のことだ

けじゃないんだ。俺さ、おまえのお蔭で大切

なものを見つけられたから。」

「大切なもの?

「ああ、俺が生きていくために必要なもの。

全てを失いかけた俺が、何があっても前を

向いて生きていこうと思えた夢をさ。

「夢・・・。」

「これまで、夢なんて、非現実的な、空想み

たいなもんかと思っていたけどな。それを

守りたいっていう思いが人を強くさせるこ

とを、今度のことで知った。」

「夢が人を強くさせる?」

「ああ。そしてそれはそんなに遠い所にある

ものじゃないんだってこともな。」

「おまえの夢って何なんだ?」

「ナイショだ。」

「何だよ、言えよ。」

伸也が不服そうに言うと、

「さっきのお返しだ。」

剛は笑って言い返した。

「何だよ、それ。汚ね。」

「ふん、何とでも言え。」

剛は明るく笑った。剛の夢、それは、伸也と

瞳子とずっとずっと一緒にいたい。伸也の

キラキラした瞳と、瞳子の優しい笑顔をずっ

とずっと見ていたい、それが、俺の夢なの

だった。

『さすがに面と向かっては気恥ずかしくて

言えねえよな。』

もう一度、剛がふっと微笑んだ、その時、

ふわっと剛の頬に髪の感触がした。

「ん?」

伸也が剛の肩を抱いて、頬を寄せたのだっ

た。

「もう一回、ちゃんと言わせろよな。剛、お帰

り。戻ってきてくれてありがとう。」

そう言うと、後は伸也は何も言わず、ただじっ

と剛を抱きしめていた。

「うん、ただいま。」

剛も小さく、そう答えて、伸也の腕をぐっと

握りしめた。